第7話 看護婦長『畑 千尋』

出演者(イメージキャスト)

 大川周明氏(疾患者)  役所広司

 西丸四方(周明氏の担当医師) 國村 隼

 畑 千尋(看護婦長)  木村多江


 畑 婦長が『102号室』で、周明氏に「入院中の規則」を説明している。

周明氏の担当医(西丸医師)が入って来る。


 西丸「いやいや、大川さん。良い部屋でしょう。気に入ってもらえたかな」


周明氏は西丸医師の脚を見て、


 周明「? 杖はどうしました?」

 西丸「ああ、あれはヨソ行きだ」

 周明「ヨソ行き? 西丸先生は脚を撃たれたんじゃなかったのですか?」


西丸医師は驚いて、


 西丸「撃たれた? 何故そんな事を知ってる」

 周明「え? いや、・・・」


西丸医師は周明氏を鋭い眼で見詰める。


 西丸「まあ、良い。これはな、・・・実は撃ったんだ」

 周明「撃った?」

 西丸「撃たれる前に撃った。あんな戦争で命なんか捨てられるか。私は最後の一発で生き延びたんだ。あんたインパールって知ってるか?」


周明氏は憮然と、


 周明「勿論」

 西丸「ハハハ、それは失敬。怒るな。血圧が上がるぞ」


西丸医師は話をそらす。


 西丸「ところで、アンタは俘虜だったらしいが?」

 周明「違います!」

 西丸「違う? 民間人が気が狂(フ)れたとも思えんがね」


畑 婦長が二人の話を割って、


 畑 「大川さんは戦犯です」

 西丸「戦犯!? ほ~う。で、沢山ヤッ(殺す)たのか」

 周明「私は、人は殺していません」

 西丸「まあ良い。ヤラなければヤラれる。それも味方にな。それでも戦犯だ。まさに前門の虎、後門の狼とはこの事だ。ハハハ」


西丸医師は戦争をバカにした笑いをする。


 周明「西丸先生は赤月毘法と云う方をご存知ですか?」

 西丸「赤月?・・・おお、知っている。アイツも戦犯になったのか」

 周明「いや、ここに来る前に診てもらった医師です」

 西丸「? どこで」

 周明「東大病院」

 西丸「東大病院? アイツ、そんな所に紛れ込んだのか。よく生き延びてるな。『731』に居たくせに」

 周明「ナナ・サン・イチ?」

 西丸「いや、何でもない。しかしアンタは随分特別待遇だな。僕はどのように治療したら良いのか分らないぞ」

 畑 「院長からは定時の体操と入浴、減塩と滋養物の摂取を勧められております」


西丸医師は周明氏を見て、


 西丸「アンタ、脳病か?」

 畑 「高血圧疾患なので安静が必要なのです。西丸先生、あまり大川さんを刺激しないようにお願いします」


西丸医師は周明氏をまじまじと見て、


 西丸「コウケツアツ?」

                     つづく

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