第3話 東大精神科医師『赤月毘法』

出演者(イメージキャスト)

 大川周明氏(疾患者)  役所広司

 赤月毘法(東大病院・精神科医師)


 東大病院精神科診療室で赤月毘法医師(鹿児島県出身)が周明氏の問診を行っている。


 赤月「アバッ! そうでしたか。満鉄に・・・。ドンも満鉄病院に勤務してた事があります。ジャワ、フィリッピン。同期の医師は二人しか生き残って居りませんよ。・・・先生の事は新聞で読みました」

 周明「え?」

 赤月「あの東条の頭は、なかなか叩けるもんではありませんよ。戦争が終わってもねぇ。・・・で、ドガンしましょう?」

 周明「は?」

 赤月「病名ですよ。米軍病院の見立ては『梅毒性精神疾患』と書いてありますが」

 周明「バイドク?」

 赤月「覚えが有りますか」


周明氏は憮然とした顔で赤月医師を見て、


 周明「覚えはありませんッ!」


赤月医師は周明氏を見て、


 赤月「う~ん、梅毒はないなあ。これは消して突発としておきましょう」


周明氏は机の上のカルテを見て、


 周明「突発性精神疾患?」

 赤月「ええ。永久に治りません。ドンもそうですから」


周明氏は赤月医師の顔を見て、


 周明「ドンも・・・」

 赤月「コイで良ヨカでしょ。この病名でGHQには提出しときます。どちらを採るかな? いや、ソン前に負けた国のカルテなんど見てくれンでしょう。コイがドンのささやかな『抵抗』です。ハハハハ」


赤月医師は米軍のカルテの文字を斜線で消して、ドイツ語で「Plötzlichkeit(突発性)」と大きな文字で乱雑に書き直す。


 赤月「そうだ! 大川さんに良い病院を紹介しましょう。ビルマの生き残りで、足を撃たれた松葉杖の医師が居ります。そいつは、同期で生き残った二人の内の一人です。名前を、西丸四方(ニシマル・シホウ)と云う精神科医です。帝大でインド哲学を学び、医学を専攻した優秀な男です。いま、紹介状を書きます。あそこなら誰にも邪魔されんと、ゆっくり静養が出来るでしょう」

 周明「あの~・・・」

 赤月「は?」

 周明「どこの病院ですか?」

 赤月「ああ、松澤病院(マツザワビョウイン)です」

 周明「マッ、マツザワ?」

 赤月「ご存知でしたか」 

 周明「脳病院じゃないですか」

 赤月「です、です。ジャッド、東(ヒガシ)病棟なら大丈夫。長期療養患者がズンバイ居(オ)る所ですから。ハハハハ」

                     つづく

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