02
「なんか色々キラキラしてる……!」
展望台なのに、なぜか外の景色よりも中の景色に驚いている灯里に、頬をかく。
フォトスポットが多く設置されている内装のひとつを覗き込むと、手招きされる。
「フラワーシャワーの部屋?」
「人が入ると、動きに合わせて花と花びらが舞うんだって」
簡易魔法の一種だ。
魔法の使えない一般人でも、魔法を使える気分が味わえると人気があるコンテンツ。
「花くらい、私でも……」
既に携帯を準備している灯里に、野暮なことは言わないと、口を閉じる。
「灯里は入らないの?」
「彩花ちゃんを撮りたい。あ、マズい?」
「ううん。大丈夫。別にプライベートだもん」
部屋に入ると、動くたびに花びらが散っている。
適当に手足を動かしてみれば、確かに合わせて花が舞い、簡易的なミュージックビデオ位撮れそうな勢いだ。
「……すごくいいんだけど、やっぱり彩花ちゃんのミュージックビデオに比べてると微妙」
「それは比べちゃいけないと思う」
プロが個人に合わせた編集をしている物に比べて、見劣りするのは仕方ない。
昔から、こういった機械は多いが、昔は本当にお粗末だった。
それこそ、白墨事件の時に行われたカラオケ大会でのマジカルマイクといえば、歌声に合わせて花が舞うものだったが、大きな花を咲かせるには技術が必要で、ゲストで呼ばれていた桜子以外は花びら程度しか舞っていなかった気がする。
「…………」
腕だけ出して、花びらを舞わせながら、こちらに携帯を向けている灯里を見ていれば、不思議そうな顔で顔を上げた。
当時、流行っていたアイドルグループの曲で、正直嫌でも覚える程テレビで流れていたから歌えたあの曲。
今でも人気があって、歌番組の特集で流れるから、サビの振り付けくらいなら覚えている。
「――――」
アカペラで、迷惑にならないように大きな声は出せないけど、昔のように歌う。
昔と同じように目を輝かせる灯里に、少しだけステップが軽くなる。
「やっぱり、彩花ちゃんすごいよ」
「ありがとう」
嬉しそうに褒める灯里にむず痒くなり、ふたりで自撮りをしようと灯里を中に誘えば、新しい客が中に入ってくる。
邪魔にならないように、端へ寄ろうとすれば、客の視線は彩花に向いていた。
「やっぱり彩花ちゃんだ! もしかしてって思ったんです!」
「え、あ……ごめんなさい。迷惑でしたよね」
さすがに歌うのはマズかったかと、反省しながら場所を空けようとするが、駆け寄ってくる彼女たちに取り囲まれてしまう。
「迷惑なんかじゃないです! 彩花ちゃんの生歌聞けるとか、サイコーです!」
「歌っておいてなんだけど……さすがに公共の場所だから……」
「そんなことないですって! 文句言う奴は私がとっちめてやります!」
「気持ちは嬉しいけど、ダメだからね!?」
騒ぎは騒ぎを呼ぶもので、特に展望台など閉鎖空間では、彩花がいるという情報がすぐに広まり、一目見ようと人がどんどん集まってくる。
迷惑にならないように、集まらないように周りにお願いしたところで、人はどんどん集まってきてしまって、すっかり灯里の姿も見当たらなくなってしまっていた。
「あの、ごめんなさい……! そろそろ私帰らないといけないので、道を開けてもらってもいいですか?」
どうにか熱に浮かれるファンに道を開けてもらい、周囲に灯里の姿を探す。
「どうしたんですか?」
「一緒に来てた友達が……」
言いかけたところで、掴まれた腕に目をやれば、灯里が腕を掴んでいた。
そして、足早にエレベーターへ向かう。
集まっていた人たちも気を遣ったのか、エレベーターは灯里とふたりだけ。
「ごめん……なんか騒がしいことになっちゃって……」
一度騒ぎが起きると、SNSなどに乗せられた情報から人が集まることが多い。そういった人は、どういう状況であれ、声をかけてくるだろうから、灯里にまで迷惑が掛かるかもしれない。
「今日は、もう諦めた方がいいかも……」
「え……でも、彩花ちゃん、服色々足りないんじゃないの?」
「それ、は、まぁ……ないわけじゃないから。またさっきみたいなことになったら、灯里に迷惑かけちゃうし」
「あぁ……大丈夫だよ。それなら」
任せて。と言った灯里の言葉の意味は、少し理解できなかったが、もう少しだけと自分に言い聞かせて、買い物に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます