無自覚愛され令嬢は逃げ出す!

ほしくず かなた

第1話

わたしはいつも通りベットの上でゴロゴロしていた。

時間はわからないけど、もうすでに暗くなっている。

「もうそろそろ寝ようかなぁ?でも、もう少し本読もうかなぁ?」

そんなことを考えて、枕にぽふぽふとパンチを打ち込んでいると、

「リリィお嬢様、大変です!」

いきなりドアがバタンと開き、わたしのメイドが慌てた様子で入ってきた。

「お嬢様が処刑されることになったそうですよ?!」

「へぇー」

「一体、何をやらかしたんですか!」

メイドはベッドの上で仰向けになっているわたしの肩を掴んでぶんぶんと揺さぶる。

「わたしは何も知らないよぉぉぉ」

「じゃあ、なんで処刑されることになってるんですか!」

「だから、知らないよぉぉぉぉぉぉ」

メイドはわたしの肩をより強く揺らした。


私は無抵抗のままメイドに身を任せ揺れていると、廊下からガチャンガチャンと金属が擦れるような音がした。

「ん?誰か来た?」

「おい!メイドがいるぞこいつを連れ出せ!そしてこいつをこの部屋に監禁しろ!」 


そして、入ってきたのは衛兵さん2人だった。

メイドは片方の衛兵さんに連れられてこの部屋から引っ張り出される。

「放しなさい!」

と暴れて抵抗しているが、衛兵さんに勝てるはずがない。


もう片方の衛兵さんは私をみて唾を吐いた。

「ふん、牢屋に入れればよかっものをあの人はなんでこいつなんかに温情を与えたんだ」

といって出ていった。


「結局どういうことなんだろ?私は殺されるってことなのかな?」

といっても、私は何か悪いことをした記憶がない。

した記憶といえば、毎日親に黙って学園を休んで街に探索をしにいってたことくらいかな?

もちろん、執事と一緒だ。


まぁ、でも殺されるかもしれないもいうのであれば、やることは一つだ


ここから脱出する!


いつもやっていることだ。

わたしは布団と布団、そしてカーテンの端っこを結び合わせた。


それを頑張って引っ張ってベランダまで持っていく。


「よし!あとはこれをここに……できた!」


そしてそのカーテンの端っこを柵にくくりつけ、下に落とした。


部屋の外からはメイドの開けなさい!という怒号が聞こえてくる。

わたしはその声を背に5階くらいの高さのベランダからゆっくりと降りていった。


そして、四階まで降りてきた時に部屋の中から話し声が聞こえてきた。

「何を話してるんだろう。こっそり聞いてもバレないよね?」

わたしはベランダに降りて、窓に耳をくっつけた。


「さっき、衛兵が入ってきたけど何かあったの?」

「リリィお嬢様が誰かを殺そうとしたらしいですよ」

「えぇ!ほんとに?」

「本当らしいですよ。しかも、それで処刑されることになったとか」


声の種類からして多分メイド3人が話しているのかな?

その話題はちょうどわたしのことらしい。


でも、誰かをいじめた記憶はない。

なんなら、基本的に部屋の中か町にしかわたしはいない。

もしかしたら、街に偉い人でもいたのかな?


「でも、リリィお嬢様のことだからそんなことはしてなさそうだけどね」

「だって、お嬢様遊ぶことしか考えてないじゃないですかぁ」

「そうよねぇ。お嬢様の許嫁の相手はこの国の第一王子であんなかっこいいというのに興味の一つもないんだから」

「もし、殺そうとする相手がいたらそれは自分の遊ぶ邪魔をした人くらいでしょうね」

「それはそうね」


そういって、メイド達は笑い合っていた。

なんか悪口を言われているような気がしたが、気にしないのが一番だろう!


わたしはもう一度、垂らしたカーテンにつかまって下に降りようとしたが、長さが足りずに3階までしか届かなかった。


「どうしよう」


いつもは周りには木があるから、木に捕まって降りてもいいが今は夜だから、下には衛兵が見回っている。


運悪くあってしまったら、それこそ本当の終わりだろう。


「うーん、そうだ!木を渡っていけばいいんだ!」


屋敷の周りには屋敷を囲むように木が生えている。

木の中にいるならバレにくいし、木を渡っていけば屋敷の正面につけるということだ。


私は木に向かって飛んで枝の上に乗る。

それから私は木の上を軽やかにジャンプしながら移動していると明かりのついた部屋の中から、お母様とお父様の顔が見えた。


バレないように木の中に身を隠しながら、中をのぞいてみると、いい歳をした男性と女性が多分子供だと思う男の子と一緒に土下座をしていた。


「どうかしたのかな?」


そのようにちょっと興味が湧きに少し近づいてみると、中から若干声が聞こえた。


「「本当に申し訳ございません!」」


それは親と思われる二人の謝罪だった。

しかし、一生懸命謝罪をしている間にいる子供?はそっぽを向いている。


「それで私の最愛の娘に対して勝手に処刑宣言をしたことについてはどうしてくれんですか?国王様」

お母様は冷たい視線で男性にそう聞いた。


あ、あの人国王様だったのか!

てことはその隣にいる女性が王妃で真ん中にいるのが第一王子ってことかな?

って、第一王子って私の許嫁だ!

へぇ、あんな感じだったんだ。


「それは私たちの決定ではなく、この子が勝手にやったことですので、どうかご理解をいただけると」

「ほら、あなたも謝りなさい」

「ふん!」


王様はタジタジとしながら、一生懸命に自分の関与を否定している。

それを聞いて、お父様が睨みを効かせると、「ヒィッ」という情けない悲鳴をあげた。


それをみた王妃が王子に謝るようにいうが王子は謝ることをしなかった。


そして、さらに王子はこんなことを言った。


「悪いのは俺じゃない!大体、あの罪人がローズに毒を仕込んで殺そうとしたり、嫌がらせをずっとしていたのが悪いんじゃないか!俺が責められる義理はない」


王子は王様と王妃の制止を振り払い、立ち上がってそう主張した。


ローズというのはわたしの一人だけの妹だ。

もちろん、私はそんなことをしていないし、ローズとは顔さえも合わせていない。

さらにいえば、学園にもいってないから、そんなことをするタイミングはないはずだ。


じゃあ、どうしてそんな噂が広まったんだろう?


そんなことを考えていると、お母様は立ち上がって主張する王子を一瞥し、ため息を吐くと私もぞくっとしてしまうような声で

「国王様、王妃様私の娘が学園に行っていないのはご存知でしょうか」

と言った。


その瞬間、この空間にいたお母様とお父様以外の人はビクッと反応した。

もちろん、私を含めて。


「な、なんでそのことを知って!」

そんな中、王子はそんなことを言い、しまったというように口を押さえた。


「あの子は毎日、学園に行くと見せかけて、街の商会や孤児院へ向かっているんです。」


バレテタ!!!


いい感じにお母様とお父様の目を盗んで脱出できていると思っていたのだが、現実はそうではなかったらしい。

分かった上で見逃してくれていたのだ。


お母様は私が驚愕している横で言葉を続ける。

「だから、学園でいじめているはずがないんですよ」


すると、国王様の顔がみるみると赤くなっていき、

「どういうことだ!ちゃんと1から説明しろ!」

と怒鳴った。


わたしはわたしは学園に行かずに街に行ってたすこしの後ろめたい気持ちからその国王様の言葉がわたしに向かって言っているような気がして、逃げるのだった。



「そろそろ、門に着くかな?」

わたしはそれからも木の上をジャンプして渡り続け、やっと屋敷の正面近くまで来ていた。


わたしはもう少しでここから脱出できるというはやる気持ちで進んでいっていたが、わたしは急に足を止めた。


それはあかりのついている部屋から、二つの影が目に入ったからだ。

その部屋はわたしの妹のローズの部屋で部屋にいたのはローズとわたしといつも一緒に街へ行ってくれていたわたしと同じ歳の執事だった。


わたしはその様子を見て、何をしているんだろうという気持ちと同時に理由はわからないが少し悲しい気持ちになった。


わたしはさっきのように木の中から顔だけを出してその様子を眺めていると、

「そんなわけがないじゃないですか!」

という声が聞こえた。


仲良くしているのかと心配になったが、どうやら喧嘩をしているようだ。


「お嬢様がそんなことをするはずがないです」

「あら、どうして?だって、学園のみんながお姉様がわたしをいじめているところを見ているのよ。学校に来ていないあなたにわかるわけがないじゃない」


どうやら、二人もわたしの話をしているみたいだ。


ローズは余裕そうな態度をとっているのに対し、執事のジェイドは怒りからかわからないが顔が赤くなっている。


「それはお嬢様が学園を休んでずっと遊び回っていたからです。もちろんわたしもついていました。だから、するタイミングがあるはずがないんです」

「あら、あなたも知っていたのね。なら、いいわ。そうよ、あれはわたしのメイドにお姉様の格好をさせてわたしをいじめさせていたのよ」


ローズはソファから立ち上がって、ジェイドに近づいていき、肩を掴もうとするがジェイドは華麗に避けた。

しかし、ジェイドの顔は怒りで染まっている。


わたしは、なるほど、私に処刑が言い渡されたのはそういう経緯だったのかと窓の外から一人納得していた。


「そのことについては後でちゃんとお嬢様のお母様達に伝えさせていただきます」

「勝手にするといいわ。でも、あなたの味方はこの屋敷にも学園にもいないわよ。なんなら、あなたの最後の味方はもう直ぐ処刑されちゃうわね」


ローズは取り出した扇子で顔を隠し、ウフフフフと含みがある笑いをした後にジェイドの顔をジロジロとみだした。


「あなた、よく見るとかっこいいじゃない!あのお姉さまには似合わないわ。どう、わたしと今夜……」

その先に続く言葉をわたしは想像して、「ダメ!」と叫ぼうとした瞬間だった。


「ふざけないでください!!」

という声が響き渡った。


「私が心からお慕いしているのはリリィお嬢様だけです!」

私はその言葉に胸が熱くなるのを感じた。

しかし、対照的にローズは

「ちぇっ、面白くないわ」

と言った。


「最後に一つだけ教えてください」

「いいわよ、今は気分がいいから」

「ありがとうございます」


そう口だけでは言っているが、ジェイドは手を思いっきり握りしめており、手からは血が垂れていた。


「なんのためにリリィお嬢様に冤罪をかけて、処刑にしようとしたんですか!」


「それはね私が王妃にふさわしいからよ!」

ローズは自信満々の様子で胸を張って答えた。


「大体、あんな学園もサボっているような人にこの国を任せられるわけがないじゃない。それに比べてわたしはしっかり学園に通って成績も毎回上位に入っているの。しかも、王子様はかっこいいし、嫌いなお姉様は排除できるし、一石三鳥じゃない!」


二つ目の理由ともかく、一つ目と三つ目の理由はその通りなのだ。

わたしはとにかく自分の好きなことしかやってこなかったのだ。


ローズはそれに比べて、嫌なことでも反抗せずに今まで花嫁授業や政治の仕組みの勉強をしてきた。


それなら、わたしを見て嫌いになるのも当然だし、この国を任せられないというのも否定できないのだ。


「ま、あなたは特別にお姉様と一緒に処刑させてあげてもいいわよ。考えといてあげるわ」


その言葉を最後に「さっさと出ていきなさい」とローズはジェイドを部屋から追い出した。


わたしは部屋から追い出され、静かに暗い廊下を歩いているジェイドを急いで追いかけた。


そして、ジェイドの横の窓を叩こうとすると、いきなり窓がパリンと割れ、わたしの横の木にはナイフが刺さっていた。


「うわぁぁぁ」

「お、お嬢様!!!」


わたしはあまりの驚きのせいで大きな声を出してしまった。

どこからか「なんかこっちの方から声がしたぞ」という声が聞こえた。


「すみません、月明かりで怪しい人がいるように見えてつい」

「うんん、わたしは大丈夫だよ!それより、わたしはこの屋敷から逃げ出して違う街で暮らそうと思うんだけど、ジェイドも一緒に行かないかしら?」


わたしはこの屋敷から出た後どうしようか、メイドが最初に部屋に入ってきてからずっと考えていた。


一旦抜け出して、再び冤罪が晴れたらこの屋敷に戻ってくることも考えた。

実際、国王様に冤罪ということを認めさせていたから、罪がバレるのは時間の問題だろう。


しかし、わたしがやりたかったことはそれなのか?と考えたのだ。


その結果、わたしがやりたいのはこの屋敷の中でコソコソするのではなくて、ジェイドと一緒に色々なところを回りたいということだった。


そして、そのジェイドが今目の前にいるのだ。


わたしは片手を前に出して、「一緒についてきてください!」とお願いした。


ジェイドはその様子をみて、クスッと笑い

「よろしくお願いします」

と手を握り返した。


もうすでに木の下には衛兵が集まっており、廊下からも続々と衛兵達が集まっていた。


私たちは二人で一緒に木に登って、門の方へと逃げた。

私たちは今までも何回もこうやって脱出してきたのだ。


衛兵に見つかって殺されるようなことはない。


私たちは門へとついた。

後ろを見てみるが、後ろにいたはずの衛兵達はすでに私たちがどこにいるかを見失っているようだった。


「ここからどうやって違う街まで向かおうか」

「馬車でも呼ぶ?」

「いや、そんな時間はない」


しかし、私たちにはもう一つの問題があった。

それはこの街から出る手段がないということだった。

この街はかなり大きく徒歩で出ようと思うとかなり時間がかかる。

多分、徒歩で向かっているうちに衛兵達がこの街を封鎖してしまうかもしれない。


私たちはどうしようかと頭を悩ましていると、前に一台の馬車が止まった。


「乗ってください!」

その声が聞こえ、わたしは顔を上げるとそのにいたのは最初にわたしが処刑されると伝えにきてくれたメイドさんが馬車を運転していた。


「どうしてここに?」

「お嬢様ならきっと逃げ出すと思ったんです!早く乗ってください。じゃないと、衛兵が来ますよ」

「ありがとう」


わたしとジェイドは急いで馬車に乗り込むと、メイドは馬車を運転し出した。

「感謝をするべきなのはわたしじゃありません。リリィお嬢様、外を見てください」

わたしとジェイドはなんとか逃げ切れた安心感から脱力しているとメイドにそんなことを言われた。


わたしは言われた通りに外を見るとそこにはたくさんの人がいた。


「あ、あの子達は孤児院の!あ、あの人たちは商会の!」

「はい、そうです。ここにいる人たちは全員、お嬢様となんらかの形で関わってきた人たちです。その人達みんながお嬢様が処刑されると聞いて何か手伝えることはないか聞いてきたんですよ」

「えっ」

「それでみなさんにはお嬢様がどこにいったのか嘘の情報を教えてもらえるようにお願いいたしました。ちなみにこの馬車も紹介の人が貸してくれたものです」

「え!それってすごく危険じゃ!」

領主に嘘をつくというのはバレたら処刑されたり、拷問されたりしてもおかしくない。


「それは危険を冒してでもお嬢様を助けたいと思ったからです。それが今までお嬢様が作ってきた繋がりはかならずお嬢様にとってもいいものになります。わたしは契約の都合上残念ながらご一緒はできませんが、これからもそういう繋がりを大事にしていってください」

「はい!」

わたしは馬車から体を乗り出して

「みんなありがとう!」

と手を振って言った。


すると、街の人々も歓声を上げながら、手を振ってくれた。


私たちはその人達の声援を背にして街を出ていくのだった。


「最初はどの街に行く?」

「最初はこの隣の商業が盛んな町に行きたいです」

「じゃあ、そこまで出発!」


わたしは馬車の中からだんだん小さくなっていく街を見つめた。

わたしはこれで本当の意味で自由になれたのだ。


わたしはこれからジェイドと好きなことを好きなだけして生きよう。


これからも繋がりを大切にして……

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