第3話 ナビ登校

 スマホのルート案内機能を使って私立篠峯学園を目指す。毎日通っているはずの道のりがまったく思い出せなかったからだった。でも、スマホの使い方は忘れてないし、靴紐くつひももちゃんと結ぶことができた。だから、完全な記憶喪失ではない――はず。


「さくら~ おはよう~」

「うん。おはよう、めぐっ」


 学園に近づくと、だんだんと生徒の数が増えてきた。周囲を観察、つ、聞き耳を立てる。私が友達の顔を覚えている保証がなかったからに他ならない。


「なんなのその髪型? 全然似合ってないわよ」


 そう言って、背後から私の頭を遠慮えんりょなくたたいてくる。彼女は、先ほど黒塗りの車から降りてきた生徒。女優のような整った顔立ちにハーフアップの髪型がよく似合っていた。シワひとつない制服からは清潔感がただよい、お金持ちの家のお嬢様といった表現がぴったりとはまる。


 私とはつきすっぽん、共通点はひとつだけ。それは髪型がまったく同じだったという点。記憶にはないが、おそらく私の友達なのだろう。向こうから声をかけてきてくれたのは助かったが、彼女がだれなのかはわからなかった。それと、そんなに似合ってない髪型だったか? 少し落ち込む。


 私が考えごとをしている間、ずっと彼女のスキンシップ? ボディタッチは続いていた。

 痛いっ! と心の中でさけぶ。ちょうどケガした部分を強打されたからだ。私は両手で頭をおおって彼女から離れ、身を守った。


「私、昨日の夜、頭をケガしたみたいなの」


 ところであなたはだれ? と続けて聞くことはできかった。


「なら、お大事にっ!」


 彼女は後ろに手を組み再び私に近づくと、背中を強く叩いて、先に行ってしまった。


 このやり取りを終えた後、なぜか私のことを見てクスッと笑ったり、笑いをこらえながらヒソヒソと話をしたりする生徒が増えた。その視線がどうやら私の背中に向けられていることに気づき、背中に手を当てると――そこには、張り紙が貼られていた。


 張り紙には『私は真夜中、全裸で街中を走る変態女で~す』と書かれていた。


 やられた。

 彼女の仕業しわざだ。

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