おまけ
限りなく黒に近いミッドナイトブルーのビロード地に、金銀赤青のラメの粉をばら撒いたような星の海を、指令長官シーヴ・イェフォーシュ率いる連邦警察ティレスタム第38艦隊は進んでいる。
シーヴは新しい指令を受けて、その星に赴く途中だ。窓の外の星の海を、シーヴと一緒に眺めていた藤崎が振り返る。
「何で俺がペットなんだよ」
すぐ側に座った金髪碧眼の美丈夫に、すねて唇を尖らせた。
艦隊がティレスタム連邦警察の本庁に戻った時、藤崎の扱いをどうするかという事で少し揉めた。
「エイリアンに襲われた星の住人を助けて、そのまま保護する事はどうか。住人はそのままそこにある方が望ましい」
と、本庁の偉いさんが難色を示したのだ。
しかしシーヴは少しも慌てず、本庁のお歴々を前に言い放ったらしい。
「あれは私のペットです」
数々の輝かしい戦績と実績があり、しかも名家の出とあっては、お歴々も口を噤まざるを得なかった。
「お前を船に乗せるには、それしかなかった。それにペット扱いであれば、ずっと私の側に置いてやれるが」
シーヴが藤崎を抱き寄せる。
もちろん、見も知らぬエイリアンの中に置いて行かれ、シーヴの任務が終わって帰って来ても、またすぐに出て行くのを見送るような生活よりは、いつも側に居られた方がいい。
地球より、はるかに文明の進んだ世界の連中だし、この金髪美形のエイリアンは、俺様で何でも自分の思い通りにしてしまう奴だが。
しかし、藤崎にだって吹けば飛ぶようなプライドくらいはあるのだ。すねて見せるくらいには。
隣にいる男の金色の巻き毛を掴み、碧い瞳に魅入る。余裕で笑った形の唇が降りてくる。軽く何度も藤崎の唇を啄ばんだ後、一度唇が離れた。
すぐに、もう一度キスをされる。
「ん……」
顎を掴まれて、甘酸っぱくてプルプルとしたゼリーのような液体が流し込まれた。つい飲み込んでしまう。
「どうしてくれるんだよ」
じんわりと身体が熱くなってきた。熱に潤んだ緑に近い目で睨む。
藤崎の明るい髪を撫でてキスを繰り返していたシーヴが、藤崎の身体を抱き上げた。ベッドルームに運ばれる。
光のシャワーを浴びてベッドに下ろされた。すぐにシーヴが伸し掛かってくる。舌が絡んだ濃厚なキスをされて、藤崎の身体のあちこちにエロモードのスイッチが入る。
「あんたって、俺を無理やり襲ったから、もっと節操なしかと思っていたよ」
潤んだ瞳が恨めしそうにシーヴを見る。船がティレスタムの連邦警察本庁に着く前に一度抱かれてから、ずっと愛し合っていない。
「他に相手がたくさんいるのかと思った」
藤崎の不安をシーヴは軽く否定する。
「我々は本来、性欲が薄い。だが、お前が私に欲情して、私の身体も反応してしまった」
「俺の所為みたいに――」
「お前の所為なのだ。時期が来ているのに硬く閉じて開かぬ蕾ならば、どんな花か咲かせてみたいと思うもの。ましてや、開きたいと、そのフェロモンで誘われてみれば」
「フェロモンって何だよ。誰も誘ってないぞ」
文句を言いながらも、藤崎は腕をシーヴの身体に回す。
何を言われようと今は欲しい。だって、久しぶりなんだ。
藤崎の唇に優しいキスが降りてくる。耳朶を軽く噛んで、首筋から胸に。
「シーヴ…」
疼く下半身を押し付けた。
「欲しいか?」
笑いを含んだ低い声が焦らすように囁く。
何だか今日は意地悪じゃないか。あんな薬を飲ませたくせに。
どうにかして欲しい。身体が熱くて、この熱を何とかしてくれるものが欲しくて――。
「私の上に上がれ」
(え…、どういう事だろう。俺が襲うのか?)
だが、どうも違うようだ。シーヴは藤崎の足を開いて、身体を自分の上に乗せた。シーヴの屹立した立派なものが目の前にある。思わず頬ですりすりしたくなったが、そういう事ではないようだ。
シーヴが横柄に顎をしゃくる。
(分かったよ。本当に俺様な奴だな)
シーヴの立派なものを手で掴んで、口に咥えた。唇を動かしながら舌を這わすと、うっと声にならない声を上げる。ちょっと勝ったような気分になる。必死になって奉仕していると、やがてシーヴが藤崎の口から己のものを引き抜いた。藤崎の身体を抱き上げて、窄まりに自分の屹立した武器を宛がう。
「腰を下ろせ」
と命令してきた。ゆっくりと腰を下ろすと、太いものが徐々に藤崎を侵食していく。藤崎の体重を受けて、それは身体の奥深くまで抉った。
「ああ……」
身体がシーヴのものを受け入れて悦んでいる。
シーヴは藤崎の腰を掴んで、下からゆっくりと突き上げる。次第に激しくなる突き上げに、藤崎は何もかも忘れ果てる。
「ああっ……っんんああ……」
声を上げて、嵐のように揺さぶられ続ける。
やがて船は任地の星に着いた。だが、藤崎がシーヴの後を付いて行こうとしたら遮られた。
「ペットは下船できん」
藤崎は頬を膨らませる。
「何で? ついて行けないの?」
「危険だ。船で待っていろ」
それでも藤崎が不服そうにしていると「何か欲しい物はないか」と、藤崎に問うた。
藤崎は少し考えて「パソコンが欲しい」と言う。
「ぱそこん?」
「話を書きたいんだ」
「ああ」
と整った顔が頷いた。部下を呼ぶ。秘書が部屋に入ってきた。シーヴは何かを持って来るよう命じる。秘書が頷いて部屋を出て行き、何やら手に戻ってきた。シーヴは無言でそれを藤崎に渡した。
大きさは文庫本ぐらいか、開くと片方が画面で片方にキーボードが付いている。電源は開くと入るようだ。何やら画面が出ている。
「どう変換すりゃいいんだ?」
ブツブツと独り言を言いながら、適当にキーボードを叩いていると表示が変わった。
「わっ、日本語が出る」
さすがはエイリアンの持ち物だと感心する。
「すごい。部屋で待ってるよ」
ニコニコ笑ってシーヴを送り出した。俺様で我が儘な男は、それはそれで嫌らしい。少々不満げな顔をして出て行った。
藤崎はシーヴを送り出すと早速パソコンに向かって、話を書きはじめた。
◇◇
数々の星を渡り歩き、その星の知的住人を食い滅ぼしては次の星に移って行く恐ろしいエイリアンが、何と地球にやって来た。エイリアンはじわじわと地球人を食って、その身体と記憶を乗っ取り地球人と入れ替わってゆく。
防衛しようにも、相手がエイリアンか地球人か見分けが付かない。地球人はエイリアンに食われて、次第にその数を減じて行った。
だがここに男が立ち上がる。彼には特別な能力があったのだ。つまり人間とエイリアンとを見分けることが出来るのだ。
何で俺がこんな目に遭わなければならないとぼやきながら、男はエイリアンを退治してゆく。
ところが、そんな彼が出会ったのが、エイリアンと地球人との混血の美少女だった。
二人は力を合わせて、地球人とエイリアンが共存できる道を探るのだ。
◇◇
「ただいま」
とシーヴが帰ってくる。物語に夢中になっている内に随分時間が経ったらしい。
何をしているとシーヴは藤崎の手元を覗き込んだ。
「話を書いていたんだ」
藤崎の願いを込めて。
あの星に再生して欲しい。今は監視下に置かれ、監視衛星がシーヴのもとにデータを送ってくる。もし地球に僅かでも再生の兆しがあれば、シーヴに頼んで一度戻ってみたいと思う。
「そうか」
シーヴは軽く頷いて藤崎を抱き寄せた。
だが、その頃地球では、突然降って湧いた能力のお陰で、エイリアン狩りの先頭に立たされた男がいたのだ。一体なんだって俺がそんな目に遭わなきゃならないんだと、男はぼやきながら戦いに駆り出された。
◇◇
藤崎朔也は生粋の地球人ではない。
知的生命体のいる惑星の住人を食い潰して移動する惑星破壊者を追って、我々連邦警察が地球という惑星に来た時だった。
「おかしいですね、この星に長官のお名前を知っている者がいます」
「どういう事だ」
「末端の端末ですが長官のお名前が出てきます。小説のようです、内容は若干違うようですが」
星の情報網を調べていた時に見つけたのだ。ネットワークに繋げれば上がっている情報だけでなく端末に保存されている情報まで調べ上げる。調査官とはそういうものだ。
「そういえば、この星系の領域で『先読みの一族』が帝国の保護に抵抗して滅亡したのだったな」
「はい。この星の暦で百年ほど前でございます。一族はかなり抵抗した上に帝国艦隊に突っ込んで、帝国はかなりな被害を受けたようです」
「未開な星であるし政情も不安定だ。帝国も捜索をせずに引き上げたか」
「生存者がいたかもしれませんが、このような未開な星では安全に繁殖する確率はかなり低いと思われます」
「そうだな。そいつの情報をオバールに仕込んでくれ」
「オバールは翻訳だけでなく通信機能も持ちますが」
「ばら撒くオバールには翻訳機能とオバールの位置情報だけでよい。そいつが『先読みの一族』であれば必ず届くだろう。あとはオバールを盗んだエイリアンのアジトの船を潰すだけだ」
そうして、藤崎朔也は青いボタンのように見えるオバールを手に入れて、シーヴと名乗るエイリアンと出会った。
『先読みの一族』の末裔捜索は二次的な副産物である。藤崎が『先読みの一族』の末裔であるかどうかについては疑問の余地が多々あった。そういう事でこの案件は極秘となった。帝国に知られたら余計に厄介なことになるからだ。
まあ、血統は残した方が良いかとシーヴは考える。
藤崎が『先読みの一族』の末裔だとしても、地球人の血で薄まって完全な能力の開花には至らない。それでも若干違う未来を、彼は楽しく書き続ける。
終
俺の書いた話が現実になって襲い掛かって来る 綾南みか @398Konohana
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