蝶の羽音は、桶屋に恋の風を生む

suiho

第1話 アルストロメリアな君へ①

 胸に付けている桃色の生花をあしらった記章は新入生の証で、全ての記章に手書きで「喜多きた高校入学おめでとう」と書かれている。事前に教えてもらっていた自分のクラスに行くと、出席確認の後に先の記章を高校関係者に渡され、あしらわれた花についても説明を受けた。花の名前は長くて忘れてしまったが、花言葉は「未来への憧れ」なのだそう。


 新調された学生服に袖を通し、桜舞う新たな学び舎で私、羽鳴蝶子はなりちょうこは今日入学式を迎えた。校長の話は高校でも長く、隣の生徒に至っては立ったまま舟をこいでいた。永遠に感じた長話を要約すると「入学おめでとう。これからも勉強と部活動に励みなさい」という決まり文句。中学の卒業式もこんな長話を聞かされたのかと思うと、不謹慎だが卒業式は出席しなくて良かったと思う。中学の卒業式は風邪を引いてしまい、行くに行けなかったから。


 校長先生のありがたいお話が終わり、その後に理事長やら保護者会の偉い人が祝辞を述べ、式は30分ほどで終了した。式が終わり各々のクラスに戻ると、担当教師が自身の簡素な自己紹介をして明日以降の授業日程を報せる。その後はクラスにいる生徒全員分の自己紹介を促した。基本的に名前を言って、好きな事柄を付け足し着席する流れ。お調子者はこれに自分の夢なんかも語っていた。


 ちなみに私の番が回って来た時は起立して、名前だけ名乗ってすぐに着席した。反感を買ったかもしれないが構うことはない。


 むしろ、そうなってくれる方がありがたかったから。

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