第210話


 「よっぽど自分たちだけで片付けたいみたいだね」


 「それは最初からわかってたことでしょ?一回様子でも見とく?」


 「ううん。私たちは私たちで準備しよう。調査隊の人たちも動いてることだし」


 「だからこそ、じゃない?権限で言えば、あの人たちの方が上。規則に従えば、じきに行動の規制が入ると思うけど」


 「…うーん。確かにね。さかもっちゃん、聞こえるー?」


 「ああ」


 「どう思う?」


 「お前に任せる」


 「珍しいね。反論しないんだ?」


 「お前はどう思うんだ?」


 「なにが?」


 「この状況だよ」


 「…うーん。今迷ってるとこなんだよね」


 「迷ってる場合じゃないと思うぞ。作戦を実行するなら、早めに決断した方がいい。…まあ、あのシールドを壊せる奴が出てくるとも思えないが」


 「待った。後方に誰かいる」



 咄嗟に声を挙げたのは、真琴だった。


 “後方”。


 メンバーは、真琴の言葉を追うように、正門の向こう側にあるドルフィンズアリーナを見た。


 ドーム状に丸み帯びた屋根。


 重厚感のある外壁の側面に設置された、『ドルフィンズアリーナ』のピット文字。


 少なくとも、その気配が「敵」ではないということは、視線を移した時にはわかっていた。


 遠目からでも感じられる立体的な圧力。


 その“プレッシャー”が、メンバーがいる各々の場所にも届いていた。


 サユリ以外のメンバーは全員知っていた。


 調査隊第3特務連隊所属の副隊長、シュトラースベルガー。


 “クーガー“の愛称で親しまれており、元『B&B』のメンバーの1人だ。


 『B&B』といえば、2004年のバトルフェスティバル世界大会の入賞チームであり、2002年から2004年の間に3年連続でフランス大会を優勝した国際的な知名度と実績を持つ。


 シュトラースベルガーは、その当時のチームの主力メンバーでもあり、個人戦でも何度か世界大会に出場したことがある実力者だった。


 彼は2年前から、調査隊連合の地方支分部局局長(※日本国内に拠点を置く、調査隊連合の特殊連隊役員)である日下部半蔵と関わりを持ち、関西支局、及び中部支局の一員として、調査隊独自で設けられた特殊作戦部隊の“教育係”に抜擢されていた。

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