第04話 【原初の闘争編】~【恐怖! 禁じられたトンネルの数え歌殺人事件アルバイト編】
【原初の闘争編】
①
(・∈・ )
〈これは、山から下りてきたばかりで自分の力が規格外であることをまだ知らない無自覚な原始時代の鳥が、広大なる原初の大地を練り歩いている姿です〉
②
(・∈・ ) ミ・ω・ ミ ←==
〈これは、その鳥の背後からもふもふのチーターが音もなく、かつ素早く接近する姿です〉
③
!Σ( ・∋・) ミ・ω・ ミ ←==
〈これは、間合いに入ったその瞬間、間一髪で鳥がチーターの接近を察知して振り向いた姿です〉
④
( ・∋・) ミ・ω・ ミ
〈BATTLE!!!!!〉
【原初の闘争編 完】
【えぇっ!? 私が魔法少女ですかあ!? 編】
「もう! お母さんどうして起こしてくれなかったの!? 今日の入学式で華々しく高校デビューするつもりだったのに!」
「ははは。母だけに」
「ああもう全然寝癖も治らないし制服が十二単だからいつまで経っても着終わらないし家で毎日親戚の結婚式が開催されてるから玄関に革靴が八千七十足あって自分の靴がどれだか全くわからないし!!!!!」
「もはや我が家は現代に現れたダンジョン。新宿駅から案内表示を全部取り払ったようなこの迷宮、私の娘ごときが無事に脱出できるかな?」
「いいやもうどうせ私のことなんか誰も見てないしどれでも誰も気にしないだろ食パン咥えて行ってきま~す! うわ~遅刻遅刻~!」
「ワン!」
「うわああああああああああああああああああああああ曲がり角でチーターに轢かれてぶっ飛んじまったああああああああああ!!!!!!!!!!」
でっかい空の下の方、でっかい街の上の方。
十二単をはためかせながら、天島テンコはムササビの如く飛翔していた。
「あっ、でも着地の問題を別にすればこれで学校にギリギリ間に合いそうかも。秒速六キロくらい出てるし」
「こんにちはっぷ! ボクは魔法の妖精トトップだっぷ!」
「うわあ奇怪な生物が秒速六キロで空中を併走してきた!」
「今ボクの住んでいる妖精の国は滅びかけてるっぷ……。だから天島テンコさん! 魔法少女に変身して戦ってほしいっぷ! ちなみに魔法の力に目覚めると着地の問題も何とかなって一命を取り留めるっぷ!」
「こいつ足元見てきてる!!!! 人が困ってるときに何らかの契約を持ちかけてくる奴のことを私は信用しません!!! いいえ!!!!!」
「でも初月無料でご解約はお電話一本で簡単だっぷ!」
「なんで解約するのに電話が必要なんだよおかしいだろボタン一個で解約させろってうわああああああああもう目の前に学校がある!!!!!!」
「今回はご縁がなかったということで……」
「悪徳業者にすら命を諦められてる!!! って、わあ! 残念なことに着地予想地点に人影が確認された!!! お願い気付いて避けて今だけでいいから私を見てそして命の危機に気付いてやばいやばいやばい間に合わない気付け気付けもう! 一体どこ見て歩いてんの! 空でないことは確かか」
「うわ、人がものすごい速度で飛んできてる」
「あっ、気付いた! 避けて!!!」
「いいや、避けない! なぜなら俺はこの学校の野球部を立て直してエースで四番のキャッチャーになる男だからだ!!」
「エースでキャッチャーなの?」
ドゴオオオオオオオオオオン!!!
「おいおい、朝からそそっかしい奴だな。大丈夫か? おてんば娘」
「えっ……そんな……あんな速度で激突したのに傷一つないまま華麗にお姫様抱っこされてる……」
「えぇ……あんな速度で激突したのに傷一つないのか……おてんばってレベルじゃないな……」
「恐れないで」
「ああ、恐れないぜ! 見たことない顔だし、新入生か? 張り切る気持ちもわかるけど、高校生活は長いからな。もう少し落ち着きを覚えた方がいいかもしれないぜ、子猫ちゃん」
「は、はずかし……。あ、あの! 私、天島テンコ、新入生です! あなたの名前も教えてもらえませんか!?」
「俺は成島ナツキ! 新入生だ!」
「じゃあなんで今先輩ヅラした?」
「俺の方が先に学校に足を踏み入れたからさ! さあ、次は教室での先輩ヅラをこの俊足で勝ち取るぜ!」
「キャッチャーなのに俊足なの?」
学校の廊下のオフィス。
だばだばとテンコは食パンを食べながら走り抜け、教室のオフィスの中に入っていった。
キーンコーンカーンコーン。
「はー。遅刻寸前だったけど、何とか間に合った……」
「ガララっ。よーし、全員席に着いているな。入学式の前に転校生を紹介するぞ」
「別枠で必要ないだろ」
「俺、成島ナツキ! 今日からこの学校でお世話に――って、あー! お前は朝の!」
「そんな大きくリアクション出るほどの時間空いてなくない?」
「パンツ焼却犯!」
「誰と間違えられてる?」
カンカンカンカンカンッ!
ナツキはチョークを手に取ると、黒板に大きく『野球部』『新入部員』と書きつけた。
「募集中だぜ!」
「えー。成島さんは名門野球高校に野球でスカウトされて入学したのですが……」
「音楽性の違いでやめてやったぜ!」
「耐えたらいいんじゃないかな、野球と関係ない部分だし……」
「というわけでこの野球部すらない高校で自分らしいオリジナルの野球を始めることにしたんだ! 我こそは甲子園って奴、ぜひ手を挙げてくれ!!!!」
「よし、席順表を基に指名して意見を訊いていくぜ! こういう場面だとなかなか言い出しづらいだろうからな!」
「うわあ最悪の方法に打って出た!!! 諦めろよ!!!!」
「えーっと……じゃあ、まずは天島テンコさん! なんかどこかで聞き覚えのある名前だな。運命を感じるぜ!」
「さっき教えた名前だからだしすぐ忘れてるし全然運命感じてないじゃん! ていうか私、野球なんかやったことないよ! バンドで言ったら『バンドメンバー募集、当方ボーカル』みたいなものだよ!?」
「ボーカルでいいぜ!」
「いいの!?」
二年後。
「いやあ、まさかキャッチャーとボーカルしかいない上にほとんど四人で集まってゆるゆる日常コメディを送るだけだったうちの弱小野球軽音部が甲子園武道館まで来れるとは思わなかったね」
「ああ! 先輩ふたりが普通に卒業したときはどうなるかと思ったけど……ここまで来れたのも、テンコのおかげだな!」
「ふふーん!」
「おめでたいっぷ! トトップも我がことのように嬉しいっぷよ! ふたりともここまで来たら後は自分を信じて、めいっぱい野球を楽しんでくるっぷ!」
「監督!」
「マネージャー!」
「混乱するから役職を一定させてほしいっぷ! そして勝っても負けてもテンコは部活を引退することだしそしたらちゃちゃっと妖精の国を救ってほしいっぷ!」
「うーん……でも受験もあるしなあ」
「そうっぷね。そのへんトトップも気を遣うから基本的には高校一年生の余裕がありそうな層から強そうな子を探してたんだけど、時が流れてしまったっぷ」
「無常だね」
「俺がやってやろうか? 将来のこととか何も考えてないし」
「考えなよ」
「考えた方がいいっぷ」
「テンコ、監督……」
「そんな顔してもやがて未来は訪れるよ。その場から一歩も動かずとも、岩場に打ち寄せる波のようにね」
「にしても監督と会ってからもう二年くらい経ってるけど妖精の国ってまだ大丈夫なのか?」
「もうヤバイっぷ。試合が終わったら高速で救ってほしいっぷ」
「高速と言えばチーターだね」
「ワン!」
「お、チーターだ。監督、チーターに妖精の国を救ってもらったらいいんじゃないか?」
「えぇっ!? それじゃ魔法チーターになっちゃうっぷ!」
「無敵じゃん」
「確かに」
ウーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー(甲子園のサイレンの音)。
【えぇっ!? 私が魔法少女ですかあ!? 編 完】
【恐怖! 禁じられたトンネルの数え歌殺人事件アルバイト編】
「ようしレンタカーも借りられたことだしこれでアルバイトに行けるね、ナツキ!」
「ああ、でも両方とも免許持ってないし朝から飲んでたからべろんべろんだぜ!」
「そうなんだ! 無免許飲酒運転は良くないからふたりで車を押してバイト先に行こう!」
「うおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
「うおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
でかいトンネルの前。
真っ白なバンを手押ししてきた天島テンコと成島ナツキは汗まみれだった。
「ふう……やっぱり大学生のやるような高額バイトはハードだね! ところで今日のバイトってなんだっけ?」
「おいおい、テンコ。バイトの内容をちゃんとチェックしてからしっかり本質を把握して受けないといつの間にか逮捕されちまうこともあるんだぜ! 『なんだかすごく割の良いバイトだな』と思ったらすぐさま飛びつかずに一歩止まって、深く考えてみることも時には大事だぞ!」
「うん、そうだね! 大事だ!」
「ああ、お互い気を付けようぜ!」
「それで今日のバイトってなんだっけ」
「全国各地にある禁じられたトンネルの調査だな」
「トンネルが禁じられてたら交通網に影響が出ない?」
ゴオオオオオオオオオ……!
でかいトンネルを風が吹き抜けて、不気味な音が鳴る。
それはまるで、ふたりを丸呑みにせんと大口を開けたでっかい怪物のようだった……。
「不気味だね……それで、調査って何をすればいいんだっけ」
「トンネルの奥の祠にまんじゅうを供えてくればいいらしい」
「ほほ。そこのお若いふたり、やめておきなされ」
「わっ! なんか茂みの中からお婆さんが出てきたよ!?」
「バイトはすでにここから始まってるってことかよ……!」
「あたしはこの政令指定都市に二年くらい前に移り住んだ地元の老人、名をニーズヘッド・ニライカヴァン……。お若いの、無駄に命を散らすことはない。悪いことは言わんから、こんな海の見えるトンネルの前から抜け出して宅飲みに戻りなされ」
「いや、バイトなんで……」
「時には『バイトなんか真面目にやってられっかよ!』という気持ちも大事よ。最近の子は真面目過ぎて自分を追い詰めてしまうからねえ」
「大丈夫です。俺ら不真面目なんで」
「じゃあもうちょっと真面目に生きな!」
「手厳しいぜ」
「それより、どうして私たちを執拗に帰らせようとするんですか?」
「ここにはこんな数え歌があるからよ……」
ニーズヘッド・ニライカヴァンは大きく息を吸うと、こんな風に歌い出した。
『
Hey! 今日はどんな気分?
なんて聞かれる前から反省文?
だいたいのことは上手くできない
失敗まみれだ must die
思い出したくないことばかり
夢の世界で遊んでたい
それでも朝は来るらしい
昔聴いてた曲の歌詞
沁みるよなって呟いて
ほんとは全然わかってない
1、2、3、で変われたら
なんて毎日思います
やなこと全部けとばして
笑える私に変われたら
鏡の前で試してみても
可愛くなんかは見えなくて
それでも明日「おはよう」を
言えたら笑ってくれますか
』
「ニーズヘッドさん。私と一緒にブロードウェイに行きませんか」
「えぇっ!? あたしがブロードウェイに!?」
そんな、とニーズヘッドは後退る。
「い、いやね、最近の子は。大人をからかって……だいたい、ブロードウェイにコネクションなんか持ってないでしょう。変に期待を持たせるようなことを言わないの」
「いえ。私たちこう見えてMLBからスカウトを貰っていて、卒業したらそっちに行くことに決めてるんです!」
「MLB?」
「ああ! メジャー・リーグ・ブロードウェイだ!」
「三十の劇団がふたつのリーグに分かれて春から秋にかけて百を超える試合を行い、最終的には各リーグの優勝チーム同士が最大七試合の王座争いをするのかい?」
ざっ。
「行ってきなさい、ニーズヘッドさん」
「せ、政令指定都市の自治会の皆さん!?」
「あなたはこの政令指定都市の誇りだ。同じ政令指定都市の一員として誇らしく思うよ。それに夢を見るのに遅いということは決してあるまい」
「確かに。ようし、名も知らぬお若いふたり! 一緒にブロードウェイに殴り込むよ!」
「はい。じゃあ卒業後なので再来年くらいに」
「話もまとまったことだしバイトをやるぜ! トンネルの中に入るとろくでもないことになりそうだからこの位置から遠投で勝負を決めてやる! 食らえ俺の必殺燃えて消えてそれでも輝くレーザビーム!」
「我がチームメイトながらいつ見ても走攻守全てがハイレベルにまとまった素晴らしいキャッチャーだなあ」
びゅん!
バシーン!
「お、お若いの! トンネルの外から遠投であの祠にまんじゅうを供えてしまったのか!?」
「ああ! 何かまずかったか?」
「まずいこたないけどすごいね。野球とかやってるのかい?」
「やってるぜ!」
「あ、見てナツキ! 供えられたまんじゅうをチーターが食べてるよ!」
「可愛いぜ!」
「そ、そんな!」
ニーズヘッドが叫んだ。
なんまんだぶなんまんだぶ、と彼女は両手を擦り合わせる。
「どうかしたんですか?」
「まさか……あれはチーターの霊なのかよ!?」
「おお……今の若い子は知らないかい」
「はい! 知らないことばっかりです!」
「だから世界って面白いぜ!」
「音ゲーで懐メロばっかり聞かされたりリバイバルで何十年も前の名作漫画のリメイクアニメばっかり見せられてるのにねえ。いいかい、この政令都市にはこんな言い伝えがあるんだよ。『我々人間が頼みごとを何も思いつかなくなったとき、新たにやるべきことと効率を求めたチーター様に世界は滅ぼされてしまうだろう』ってね……」
「へー。そんなん全然聞いたことないぜ! それよりチーターがここにいるってことは妖精の国は助かったのか?」
「助かってるっぷ」
「監督!」
「ふたりとも受験とか新生活で忙しそうだから落ち着いたくらいに連絡しようかな~って思ってたらいつの間にかずるずる行ってしまったっぷ。大学くらいからちょっとずつ時間の感覚ってルーズになっていくっぷね~」
「意識して連絡を取り合わないと何となく疎遠になっちまうから怖いぜ!」
「ああ、終わりだよ! ブロードウェイに行く前に世界が滅ぼされちまう!」
「でもチーターも所詮は人の子。光よりも速くは動けないですよね?」
「人の子ではないんじゃないかい?」
「おーい! チーターさーん!」
「ワン!」
「宇宙の果てに何があるかを知りたいので、見てきてください! 目視で!」
「ワン!」
キラーン!
空に一筋、逆さまに落ちていく流れ星。
「これで最低でも光が宇宙の果てに届いて帰ってくるまでの時間が稼げたね!」
「我がチームメイトながらいつ見ても優れた知略だぜ!」
ざっ!
「な、なんてことをしてくれたんじゃ!」
「せ、政令指定都市の自治会の皆さん!? どうして鋭い槍を!?」
ざっ!
「な、なんてことをしてくれたんでしょう!」
「せ、政令指定都市の市役所の皆さん!? どうして鋭い槍を!?」
ざっ!
「な、なんてことをしてくれたのか!」
「し、衆議院参議院両議院の皆さん!? どうして鋭い槍を!?」
ドン、ドン!
一斉に槍の柄が地面を叩く!
「チーター様のお力でこれまで効率的な世の中が作られていたというのに……! それを星の外に追放してしまうとは! その力の価値もわからぬ愚かな罪人め! ここで因果応報、むごたらしく処刑し、晒し首に『ざまぁ』と刻印してくれる!」
「うわ~! 立法府がその職権を逸脱してあたかも司法府のごとく強大すぎる暴力を権力の名の下に行使しようとしてくるよ~! チーターがいなくなっても大丈夫だってもっと自分たちの力とか明日への希望を信じようよ!」
「そうだ! 未来はこれから俺たちが作っていく、そういう気持ちが大事なんだぜ!」
「お若いのは人生において本当に大切なことしか知らないねえ」
「眩しいっぷ!」
【恐怖! 禁じられたトンネルの数え歌殺人事件アルバイト編 完】
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