第02話 【冒険者ギルド加入編】~【惑星復活編】


【冒険者ギルド加入編】



「やれやれ。今日も世の中が平和すぎて、冒険者志望の新人を優しい笑顔で騙してとんでもない危険地帯に送り込むくらいしかすることがないなあ」

「へっ、奇遇だな。俺の方でも今日も今日とて世の中が平和すぎて、冒険者志望の新人に怖い顔で絡んで適切な自衛能力が付くまでギルドの受付から遠ざけてやるくらいしかすることがないぜ」

「お前の仕業だったのか……」


 ギルドのオフィス。


 朝から酒をかっくらって顔を赤く茹らせているのはAランク冒険者グロンダイン。

 その対面で手元の半紙に『DEATH』と習字をしている爽やか笑顔のギルド受付はケイス。


 ふたりは今日も犬猿の仲!

 今もテーブルの下でお互いの足を蹴り合っていた。


 一触即発の危険な空気……そんな中、凄まじい音がオフィスに響いた!


 からんからーん。


「おや、いらっしゃいませ。ギルドのご利用は初めてですか?」

「グルルル……挨拶は時間の、ムダ!」

「ほう、実力主義ということですか……面白い! これは素性を訊くのも野暮と言うものだ。早速こちらのSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSランクのクエストを――」

「おいおい、ちょいと待ちな!」


 ケイスが青いバインダーからクエスト手配書を抜き出すその一瞬。

 グロンダインがドン!とふたりの間に立ち塞がった。


「いくら素性がわからないって言っても、実力も何もわからない奴にクエストを任せるなんてーのは見過ごせねーなあ!」

「ガウッ!」

「うわあっ!」

「ほう、だったらどうすると言うのです?」

「うぐわあああああああああ!!!!!! ま、魔法水晶で魔力量を測ったりするといいんじゃねえかなあ!?」

「あ、そうですね。ちょっと倉庫から出してきます」

「早くしてくれ!! チーターに食い殺される!!」

「フフ……どうしましょうかね……」

「グルルル……早く……しろ……!」

「チーターもこう言ってることだし!!!!」

「やっぱりチーターってせっかちなんですね」


 よいしょ、と言ってケイスが倉庫に引っ込む。

 よいしょ、と言ってケイスが倉庫から戻ってくる。


「まだ生きてる……。神のもたらした奇跡だな……」

「は、早くチーターの魔力を測れ!!」

「チーターに魔力なんかあるわけないだろ」

「チーター! 早くこれに魔力を込めろ!」

「ワン!」

「チーターってワンって鳴くんだ……」

「チーターってワンって鳴くのか……」


 不思議な魔法の水晶玉にチーターが触れる。

 グロンダインとケイスはそれをじっくり覗き込んだ。


「色……黄色か?」

「いやこれは普通に毛の色が水晶に映っているだけでは……まあいいか。黄色だから魔力はDランクで」

「初心者としちゃ妥当なとこだな。よし! ここからはAランク冒険者である俺様が実力を見てやぅあわあああああああ゛!!!!!」

「チーターに人間が勝てるわけないだろ……。街の冒険者も釣られて全滅しちゃったし、ギルドの仕事も回らなくなってしまった。困ったなこりゃ」

「グルル……仕事、する!」

「やる気のある新人が入ってくれて助かった! じゃあ君、このバインダーの中から興味のあるクエストを選んでくれるかな。Yボタンで詳細を確認、Aボタンで受注を決定だ。もし街で準備を整えてから向かいたい場合はBボタンを押して、一旦ギルドから出てね」

「グルル……Xボタンで、全選択! Aボタン!」

「仕事のできる新人が入ってくれて助かったなあ」



【冒険者ギルド加入編 完】






【惑星滅亡編】



「ほう、この僕に探偵の依頼を! あの頑固者のきみがねえ!」

「口を慎みなさい、コアラスター卿。私が職権を乱用すればいつでもあなたを公務執行妨害で逮捕できることを忘れないように」

「はい。国家権力には決して逆らいません」


 警察署のオフィス。


 呼び出されたのは伯爵家の末裔である探偵・コアラスター卿。

 呼び出したのは向かいに座るキャリア刑事・サルファ。


「あなたに調査してもらいたいのは、今回の資源枯渇の原因についてです」

「資源枯渇? ああ、もしかして……」

「そのとおり。【物価高編】最近スーパーに行くと白菜がやけに高っけえなこれじゃ生きていけねえよと思ったでしょう」

「うん。経済が低迷してるんだなあと感じていたところだよ【物価高編 完】」

「その低迷の原因について考えたことはある?」

「いいや?」

「外を見て」


 かしゃん、とサルファはブラインドに指を掛ける。

 コアラスター卿は大きく目を見開いた!


「滅びかけてる……この星が……」

「ええ」

「なんで気付かなかったんだろう」

「家から出ないからじゃないの? あなたのアパート、一階にスーパーがあるし」

「名推理☆」


 なるほど、とコアラスター卿は頷く。

 ふむふむ、と顎に手を当てて、


「道理で白菜も高くなるわけだ。見たところ、この星の資源が枯渇しているようだね。しかしすぐさまこんな有様になるわけもない。そこでサルファ刑事、きみは僕にその原因を探るよう依頼したいというわけだ」

「ええ。そのとおり」

「しかし……きみから期待を掛けられるのは嬉しいんだが、流石の僕でも手掛かりのない状況からでは難しいかもしれないな」

「そう言うと思って事件の真相について把握している人物をあらかじめ別室に用意しておきました」

「これ僕要る?」

「民に仕事を回すのも官の仕事のうち。さ、早速別室に移動しましょう」


 別室に移動すると、そこには椅子にラバーでがんじがらめに縛られた爽やかな笑顔の持ち主がいた。


「こんにちは」

「こんにちは。コアラスター卿、彼は冒険者ギルド受付のケイス」

「こんにちは。冒険者ギルドの受付? ははあ、なるほど。冒険者ギルドっていうのはいつも何らかの異変を察知して冒険者に仕事を出すわけだからね。大規模な資源枯渇の原因について心当たりがあってもおかしくないってわけか」

「いいえ」

「違うんかい」

「全てはチーターの働きすぎが原因、ということですよ。さっきそちらの刑事さんにはお話しさせていただいたんですがね」

「そうか。じゃあ何回も同じ話をさせるのも『嘘を吐いているならやがて証言の整合性が取れなくなっていくだろう』という予測に基づいた執拗な嫌がらせみたいだし、サルファ刑事。早速その録音を再生してくれるかな」

「ええ。ぽちっとな」


 ガシャン、ガシャン。

 ウィイイイイイイイーン!


「随分ボロいテープレコーダーだな」

「しっ、静かに! 暴れ出す!」

「それが本当なら見てみたいよ」


『……チーターが……』


「おっ、何か聞こえたぞ。クソ音質で」

「しっ、静かに! 踊り出す!」

「きみが?」


『……チーターが……全てのクエストをこなして……全てが枯渇……』


「わけわかんねーや」

「何でもものすごく優秀なチーターの冒険者が現れて、薬草拾いやら動物狩りやら全てのクエストをこなし続けた結果、資源がなくなってしまったとのことみたい」

「ちゃんと聞いてもわけわかんねーや」

「ククク……そうでしょうね」

「――ケイス、貴様! 何がおかしい!」

「ククク……失敬、刑事さん。チーターに滅ぼされてる惑星って何か意味不明で面白いなとつい笑ってしまいましてね……」

「何という……コアラスター卿、何か言ってやりなさい!」

「大体同感だよ」


 オーケー話はわかった、とコアラスター卿は紫煙をくゆらせた。

 自室で線香花火をしている途中でサルファ刑事に呼び出されたせいで、まだその手にカリウムの炎色反応が輝いているのだ。


「となると僕の仕事は……そのチーターを見つけることってところかな?」

「そのとおり。流石の名推理だ、コアラスター卿。あなたにはその仕事を頼みたい」

「ふうむ……猫探しは確かに探偵の本領のひとつだが……。サルファ刑事、その期限は?」

「三日後」

「随分早いな!」


 ええ、とサルファ刑事は頷く。


「三日後に人類が絶滅するみたいだから」

「もっと早く相談してよ……」

「ごめんなさい。後でやろうと思ってデスクの上にバインダーを裏返しにして置いておいたら他の書類に混じってしまって……」

「ああ……。まあ、色々忙しいときってそういうのついうっかりやっちゃうものだもんねえ。血の気が引いただろう。気持ちはわかるよ」

「ありがとう、コアラスター卿」

「ククク……」

「――ケイス、貴様! 何がおかしい!」

「ククク……いや、私もたまにやってしまうなあと思いましてねえ。ドンマイです、サルファ刑事」

「何という……コアラスター卿、何か言ってやりなさい!」

「自分で言った方がいいよ」

「……ケイス。慰めてくれてありがとう」

「いいえ。こういうのは助け合いですからね」


 よし、とコアラスター卿は線香花火をバケツの水に浸けると、すっくと立ちあがった。

 コアラスター卿は元々立ち上がっていたので、これが二段階目の立ち上がりということになる。


「期限は三日。ターゲットは世界を滅ぼすチーターの冒険者……オーライ! この名探偵、コアラスター卿が依頼を引き受けた!」

「頼みました」

「よろしくお願いします」

「任せておきたまえ!」


 四日後。


「サルファ刑事! チーターの居所がわかったけどそりゃそうだな四日目だしみんな滅び去ってるよな申し訳ない! でも、生きていれば一日くらいはこんな日も、あるんだ!」



【惑星滅亡編 完】






【惑星復活編】



「惑星も滅び去ってしまったことだし、神頼みに教会にでも行ってみるか。ドンドンドン! こんにちはー!」

「なんですか、教会の扉の前で大声で口で『ドンドンドン!』と……一体今何時だと思ってるんです?」

「夕方の四時だよ」

「――私の休日はどこへ!?」

「失せ物探しならいつでもコアラスター探偵事務所へ!」


 でっかい教会。

 中からぼさぼさの頭で出てきたのは聖女シャロンだった。


「ええと、すみません。私は今、自分の休日が消え去ったショックで頭が上手く働いていないんですが……どういったご用件ですか?」

「ものすごい冒険者のチーターが片っ端からクエストをこなしていたら惑星が滅び去ってしまったようでね。神頼みで色々元に戻してもらえないかなあと思って」

「えぇっ、ものすごい冒険者のチーターが片っ端からクエストをこなしていたら惑星が滅び去ってしまったんですか!? 私が毎日頑張って国境に聖女の結界を張って国防の要をありえないほど担っていたのに!?」

「最近この惑星には国がひとつしかなくて国境が存在してなかったから、実際には何もしていなかったんじゃないかな」

「じゃあ私の毎日の疲労感は一体……」

「大人になるとね、生きてるだけで疲れてくるんだよ」


 そんな……とシャロンは壁に膝を付く。

 それすなわち飛び膝蹴りだ。


「ああ、でも。そうなんですね。もうこれで守るべきものがないと思うと、何だか肩の荷が下りたような気がします」

「悲しい肩の荷の下ろし方だなあ」

「身も心も軽くなって天にも昇るような気分です。ふわーっ!」

「『ふわーっ!』って口で言いながら浮かんで行っちゃった」

「うわあ、すごい! 雲の上だ! 雲の上って初めて来たな~……。あ、扉がある。入っちゃお! ウィーン!」

「えぇ……口で『ウィーン!』って言いながらいきなりワシのオフィスに何者かが押し入ってきた……」

「おっ、なんか神様っぽい人がいるぞ! すみませーん! 今ちょうど教会に神頼みしたい人が来てるんで頼まれてもらってもいいですか?」

「嫌じゃ……」

「我々人類が愛されることはない……神からすらも……。どよよ~ん……」

「『どよよ~ん……』って口で言いながら沈んできた」

「えぇ……そんな悲しいこと言わんといてよ……。寝覚め悪いわ……」

「なんかもうひとりついてきたな。僕の推理によるとこの人は――神だ!」

「なんか人類の知性を超越した洞察力の持ち主がおる……怖……」


 へえへえそれで、と神は億劫そうに、


「人の子よ。何が望みなんじゃ」

「謎のチーター冒険者が惑星を滅ぼしてしまったんです! ぜひ元に戻していただけませんでしょうか!」

「いや……まあ、ほら。滅びとかってそういうもんじゃから……」

「おいおい、何様目線だよ!」

「一応神様のつもりではいさせてもらってます」

「あのう、ところでさっきから聞いていて思ったんですけど。そんなにすごいチーターの冒険者がいるなら、その人に『惑星を元に戻して!』ってクエストを出せばいいんじゃないですか?」

「――それだ!」

「すみません。一見抜けているようでありながら仕事では重要かつ非常に示唆に富んだ的確な働きをしてしまい、なおかつその一見抜けているところも飾らない、嫌みのない性格として映ってしまうみたいなところがあってなんていうか自分ではそんなつもりでは全然ないんですけど『本当にすごい人ってこんな感じだよね~』とまさに言わんばかりの優れた能力を見せつけてモテにモテてしまうのにそういうところだけ妙に鈍いものだから高貴な美形の皆さんからのアプローチも無意識のうちにさらっと躱してそれがさらにモテを呼んでしまう黄金モテスパイラルに入ってしまって……」



【惑星復活編 完】

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