前世で効率厨だった俺、神スキル『タイパ』を手に入れて面白いところは大体ダイジェストの成り上がり異世界生活へ
quiet
第01話 【死ぬとこ編】~【エピローグ】
【死ぬとこ編】
「こんばんは、殺人鬼です。グサーッ!」
「ウワーーーーーーッ!!!!!!! 死んだーーーーー!!!!!!!!!」
【死ぬとこ編 完】
【転生する前に神に会ってスキルを貰ったり目的を与えられたり次はどこの世界に行きたいかの進路希望調査が行われたりするとこ編】
「転生転生転生転生転生転生転生転生転生転生転生転生転生転生転生転生転生転生転生転生転生転生転生転生転生転生転生転生転生転生転生転生転生転生転生転生スキルスキルスキルスキルスキルスキルスキルスキルスキルスキルスキルスキルスキルスキルスキルスキルスキルスキルスキルスキルスキルスキルスキルスキルスキルスキル」
「えぇ……何こいつ、怖…………。ワシが知らない言語を喋っとんのかな……」
どれどれ、と神が翻訳機を取り出したのは神のオフィスでのことだった。
今日は週に六日の労働日!
神の世界におけるワークライフバランスは人間の世界にやや後れを取っている。
「スキルスキルスキルスキルスキルスキルスキルスキルスキルスキルスキルスキルスキルスキル転生転生転生転生転生転生転生転生転生転生転生転生転生転生転生転生」
「えーっと……言語は……へえ。【日本すごい編】日本語。日本人って怖いんじゃな~。【日本すごい編 完】で、翻訳結果は……『早くスキルをくれ早く早く早く早くして』」
神は翻訳機から顔を上げて、
「いやそういう特典みたいなのってサービスしとらんのじゃけど……。というかなんでオフィスに押し入ってきたのお前……」
「いいから早くして!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「はい……早くします……。どんなスキルがいいですか……」
「タイパ!!!!!!」
タイパ、と神は検索した。
タイムパフォーマンス(時間対効果)の略。
「ほう……有限の生しか持たない人間は変わったことを考えるのう……」
「早く早く早く早く!!!!!」
「よくわかんないけど早さが重要みたいだし食肉目ネコ科のチーターにでもしておけばいいか……。ほほいのほい」
死んだ人間はチーターになった。
チーター級の神スキルだ!
「次次次次!!!! 目的目的目的目的!!!!!!!」
「えっ。何、目的って。次の人生の目的を与えろってこと? 人生に目的とかないじゃろ……。何言ってんの……怖……」
「早く!!!!!!!!!」
「はい……早くします……」
ええっとねえ、ちょっと待ってね、と神はスマホを弄くり回す。
その間も着々とガブガブと頭を噛まれて血液を垂れ流しながら、
「お、ちょうど今繋げやすいところで竜と戦ってる少年少女が――」
「ガウッ!!!!!!!」
「もう二度と来ないでね」
そうしてチーターは神と別れ、新たな人生を異世界で始めることになったのだ!
異世界でチーターは何をなし、何をなしていくのか……。
それはまだ、誰も知らない。
【転生する前に神に会ってスキルを貰ったり目的を与えられたり次はどこの世界に行きたいかの進路希望調査が行われたりするとこ編 完】
【転生先の森とかで困ってる人を助けて生活の足掛かりを得るとこ編】
「はあ……はあ……クソッ! ほんっと、あたしたちってついてない! 冒険者になって初めてのクエストで、伝説の暗黒竜の目覚めと出くわしてしまうなんて!」
「ついてないってレベルじゃなくない?」
でかい森の奥の方。
折れた剣を手に片膝を付いている少女の名はアニー。
その横で地面に両膝が埋まっている少年の名はイズ。
ふたりは仲良しの幼馴染!
十五歳の誕生日を迎えた記念に冒険者の資格を取りに行き、折角だから薬草取りの仕事だけでも小遣い稼ぎにやってみようとのこのこ森に足を踏み入れた結果、伝説の暗黒竜ンエbンカkドfンビアオkファ(人間には上手く発音できない)と遭遇してしまったのだ。
当然、手も足も出ない。
ふたりは今、片膝を付くわ両膝が埋まるわ、絶体絶命の大ピンチだった!
「こんな危ない場所だってわかってたら森の中になんか決して入らなかったのに……爺さん婆さんは何してたわけ!? 真偽不明の迷信をおどろおどろしく若者に伝えていくくらいしかやることがないってのに!」
「そうだね。【世代間分断煽り編】全ての責任は老人にあるよ【世代間分断煽り編 完】」
「そこまでは言わないけど!」
ふたりが口論している間も、当然暗黒竜は待ってくれない。
今まさに、鋭い爪を持った手がぶおんと振り被られ、ぶおんと振り下ろされようとしている。
「あぶなーいっ!!! あたしは怪我を押して右に避ける!!」
「ぼくは両膝が地面に埋まっているから避けられない」
「しまった!!!!」
「ははは。アニーはうっかり屋だう゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!!」
「イズーーー!!!!」
ぶおん!
目一杯振るわれた金槌に引っ叩かれた釘のように、容赦なくイズは腰まで地面に突き刺さってしまった!
ててて、とアニーはイズに駆け寄った。
「大丈夫? イズ」
「アニー、ぼくは怖いよ……。こうやって五体に一切の傷がないまま顔まで地面に埋まって窒息死しちゃうじゃないかって……」
「あんた頑丈ね」
「そうだね、自分でもびっくり。でも身体が鋼のように強くても心は硝子のように脆いんだ……」
「しゃらくさいなあ。ほら、あたしが身の回りで良いものを見つけては指差して教えてあげるから、それ見て元気出しなさい!」
右を見て、
「ほら、たけのこ!」
「ここって竹林だったんだ」
「元気出た?」
「ちょっとだけ」
左を見て、
「ほら、キリン!」
「キリ……えぇっ!?!??! 縦に長っ!!!! なんだあの生き物!!!!!」
「元気出たみたいね」
「ほっ、えっ、たて、縦に……長っ! 長い! 縦に長すぎるだろ!! 縦っ、細っ、えぇっ!?!?!? 長っ!!!」
「ついでにほら、あれも見て!」
正面を見て、
「チーターの赤ちゃん!」
「ほそっ……くないな。本当だ。チーターの赤ちゃんじゃないか」
「ねー。かわいい。ぬいぐるみみたい」
「ぼく、どっちかって言うと犬派なんだけど流石にあれはかわいいね。いやあ、なんだかアニーのおかげで心が落ち着いてきたよ」
「よかったじゃない。ほら見て、チーターの赤ちゃんがすくすく育ってる」
「本当だ。一瞬の間に成獣の姿になったね」
「ね。やっぱり足が速いと成長も早いのかな」
「かもしれないね。うわっ、チーターが暗黒竜に飛び掛かった! ぼくたち今、野生の狩りの現場を目撃しているよ!」
「うわー、すごい。すごい筋肉の動きがしなやか」
「筋肉量がすごいんだろうなってことがここからでも見て取れるね。あっ、暗黒竜の首に飛び掛かったぞ! あれは何をしているんだろう?」
「前足をつかって上手く抑え込んでるんじゃない?」
「お、勝った」
「猫科の大型肉食獣ってやっぱりすごいのね」
「助けられちゃったしお礼を言わなきゃね」
「そうね。よいしょっと」
「よいしょっと。ふう、久しぶりに両膝がシャバに出られたよ」
「ふふ、何それ。よし、じゃあふたりで挨拶に行きましょう」
「うん。おーい、すみませーん! 助かりましたー!」
「こんにちはー!」
「グルルルル……挨拶は時間の、ムダ!!!」
アニーとイズは顔を寄せ合って相談タイムに入った。
「どうしよう。効率を重視しすぎて人間関係を軽視した結果、チームの風通しを悪くしてかえって機動力を削いでしまう嫌な職場の人みたいな発言だよ」
「ちょっと! 助けてもらったんだからそんなこと言わないの! でも、そうね……時候の挨拶とかそういうのをやると烈火のごとく怒りそうなチーターだから……。よし! ここはあたしに任せなさい!」
ずい、とアニーは前に出て、
「お礼をさせてください! 何か欲しいものとかありますか!」
「グルルルルル……目的……」
「何の?」
「人生の……目的……グルル……」
再び相談タイム。
「教えてほしいってこと? どうする? あたしたちも知らないけど」
「思春期だしね」
「思春期とか関係なく人類には決して知ることができなくない?」
「適当に大きな目標を与えて誤魔化してみようか。どうせ人生ってそういうものだし」
「そうね! 自分の矮小さとか無意味さに気付かないふりをしながらやたらに壮大な物事に思いを巡らせて世界と自分を同一視するのが真に人間らしい生き方ってものだものね! この人チーターだけど!」
相談タイム終了。
「世界を平定したりするといいんじゃないでしょうか!」
「ガウッ!!」
「あっ、走り去っちゃった……」
「速いなあ。流石はチーター」
「今は世界王国がこの星の全土を治めてるからお城とかを目指すと近道ですよー!」
「そんなこと教えて大丈夫?」
「大丈夫じゃない? 王政における人民の政治的な役割って『無関心』以外に何もないし。それより夜行性の野生動物が徘徊を始める前にさっさと帰りましょ!」
「そうだね、そうしよう。――うわあ! 火の存在に気付いた猿が森を燃やしてる!」
【転生先の森とかで困ってる人を助けて生活の足掛かりを得るとこ編 完】
【攻城戦編】
「今日も門番の仕事は暇すぎて右腕と左腕のどっちが長いか目視で確かめるくらいしかやることがないっすねえ」
でかい城の前の方。
くわわ、とあくびをするフルアーマー門番の後ろから、同じくフルアーマーの騎士が近付いてくる。
「あれ、ウィンディ団長。フルアーマーなんて珍しいっすね。いつもサンダルにポロシャツなのに」
「【お仕事もの編】今日は会議があってな。偉い人が来るから正装に着替えたんだ」
「ああ、だから革靴で……」
「ロッカーに入れっぱなしでろくに手入れもしていないから底が外れないか心配なんだが――あっ、チーター!」
「あっ、やべ。ついうっかり素通りさせちまったっす。って、うわ! チーターの足超速え! うおおおおお追いかけるぞ!!!」
「走って追いかけるのは無理だろ、フルアーマーだし。公用車借り出してそれに乗っていった方がいいぞ。あと、エリーも採用から二ヶ月くらい経つし徐々にカジュアルな服装に切り替えて行ってもいいかもな」
「そうっすね、流石団長! ――やべ、公用車全部使われてるっす!」
「あるある」
「自家用車出していいすか」
「自家用車出張は事前申請が必要になるぞ。事故ったときに色々面倒だからな」
「めんどくさ。見なかったことにして諦めていいすか」
「いいぞ。【お仕事もの編 完】私も午後休にしたからどこかでラーメンでも食って帰るか」
「奢りっすか!」
「味玉は八つまでだぞ。蛇じゃないんだからな」
【攻城戦編 完】
【王位争奪決闘編】
「うわ、チーターだ」
「グワウッ!!!!」
「うわ、チーターに食われる余だ。花のように美しく、花言葉は盛者必衰」
王のオフィス。
王はチーターに食われていた。
「何が目的だ。余の肉体か」
「グルルル……この世の……平定……」
「ほう。チーターにしてはなかなか壮大なビジョンを持っているではないか。気に入った。この体勢から寝技で返せるほどの技量もないし、人生は諦めが肝心だからな。ここは素直に負けを認めて王冠を明け渡すとしよう。ありがたく受け取るがいい」
「グルルルル……!」
「礼くらい言ったらどうだ」
「挨拶は時間の、ムダ!!!」
「絶対そういうやり取りを毎回するよりも一言だけでも『ありがとう』と伝えた方がコミュニケーションコストは小さくなり、様々な軋轢も回避できると思うが……」
しかしこれから辞める職場の先行きの心配ほど無駄かつ惨めな気持ちになる行為もなかなかなく、王は特にそれ以上は何も言わずにチーターに王冠を被せるのだった。
【王位争奪決闘編 完】
【エピローグ】
学者、キーラ・ベルシュラックはこう書き残している。
――それはまさに、獣の王だった。
――だってチーターだし……。
――新たな王はしなやかに、王のオフィスから窓の外に出た。
――屋根を伝い、王城の切っ先の細っそいところに立つ。
――王は大いに首を反らし、雷天、豪雨。
――この世の終わりの如く渦巻く黒雲に目掛けて、こう吠えた。
――ワンワン、ワワン。
こうしてキーラ・ベルシュラックは『チーターは犬みたいに鳴く』という大事実の発見者として、後世に至る我々にも知られるところの偉大な動物学者となったのである。
【エピローグ 完】
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