第98話 6:一生
ナンバー6という、男がいた。
イケメンな男とキュートな女を足して二で割らず寧ろ掛け合わせたような端正な顔をしており、肌にはシミ一つ見当たらず綺麗で、声も美しくよく透き通る。
とてつもなくヤバいくらい物凄い美声だが、フランクで軽々しい『っす』口調なので頭がバグりそうになるがそこもご愛嬌。
女装すれば美女、男装すれば美男。
詰まるところ超ハイスペックな容姿+αだ。
だがこの見た目は生まれつきではない。
いや、ある意味では生まれつきかもしれないが・・・・本当の意味ではこの美貌は生まれ持った物ではない。
彼は、とある『元』となった人物に複数の魔物の細胞を植え付けられたり、彼自身の身体を悍ましい方法で弄くり回され、最終的に人格を一度リセットされた上で誕生したのだ。
詰まるところ彼の超ハイスペックな容姿+αは完全に製作者である博士の趣味である。
彼が『元』として死に、ナンバー6として“生まれ直された”際に得たのはこの圧倒的見た目の良さだけではない。
それが『空白の隙間』・・・・〈クラック・ブランク〉。
彼自身も完璧には発動条件や弱点等は把握していないが、端的に言えば自分の体に容量無限のアイテムボックスに通じる穴を作り、その穴に触れる或いは近づいたものを一瞬で収納するというもの。
直接的な攻撃力こそないが、普通に強力である。
隙間の中に収納したものは他者は干渉できなくなり、逆にナンバー6は自らの意思次第でいつでも、体のどこからでも取り出せる。
それに人を収納すれば、収納された当人は夢心地で殆ど意識を失い、基本『なんだここ・・・・まぁ眠いし気にせんでええか』ぐらいの思考しか回せなくなるので完全に封殺出来る。
詰まるところ激強い。
そんな彼は、生まれた時から培養槽の中におり博士の拷問じみた実験をされ続けて来た。
いや、実質博士がナンバー6を生み出した親であると考えれば、虐待という表現が正しいかもしれない。
まぁ言い方をいくら変えても、どっちにしろそんじょそこらの毒親が泣いて逃げ出すくらいの虐めっぷりなのは変わりないが。
そんな実験を受けた結果、生まれたばかりのナンバー6は誕生日の3日後には既に博士に殺意が湧きまくっていた。
元の人格こそ一切残らなかったが、口調や知識はある程度引き継ぎ一般的な成人の男の感性をある程度持っていたナンバー6だ、意味もなく一方的な痛みを与え続けれてブチ切れるのは当然の事だった。
メッチャ早くて(自我を得て3日後)強火(ガチで殺したい程)な反抗期だ。
ただ、殺したい程の殺意が湧いたのは嘘偽りない事実だが、ナンバー6は知識として外の世界には罪人を悔い改めさせる牢獄があると知っているので殺意より、そこにぶちこんでやりたい気持ちが大きかった。
だが、ナンバー6はかなり聡かった。
自分じゃこのクソ博士に逆襲できない、牢にぶちこむなど夢のまた夢という事に気づいたのだ。
キチガイ博士は頭おかしいが、自身の安全を守るセーフティを一切設定しない程の阿呆ではない筈。
多分自分では頭パッパラパー博士を攻撃できない。
実際、後に自分を縛る【絶対命令刻印】の存在を理解した事でこの仮説は確信へと変化した。
詰まるところ、いくらナンバー6が上手い具合に博士を嵌める方法を考えようが無意味という事。
だが、ある時ナンバー6にチャンスが訪れた。
魔人の回収という命令をされ、研究室の外に出れるようになったのだ。
ナンバー6心の中で大歓喜、これを利用しない手はない。
『元』から受け継いだ知識で、外の世界には多種多様な人間がいる事を知っている。
自分自身で博士をとっちめれないなら、外の人間を誘導して鬼畜博士にぶつければいい。
命令の解釈を捻る事で魔人を見つけず、カス博士の所業に怒りを覚えて義憤を感じるような、そんな人を見つけるのだ。
そしてナンバー6はその正義感の強い人を探すという事を・・・・やめた。
何故なら、どう命令を解釈しようが上手く博士の情報を伝える事が出来ないと気づいたからだ。
命令を回避して博士の事を伝えるには、とてつもなく遠回りに情報を間接的に見せる必要がある。
そんな分かり難い情報ではほぼ初対面の人では理解できないと、外に出て初めて博士以外の他人と出会って気付いたのだ。
エルガントというナンバー6の理想に限りなく近い人物も、渡したヒントをそもそもヒントだと認識できなかった。
考えが甘すぎた、言いたい事を分かってくれる程の繋がりはそんな簡単に作れるものではない。
外の世界でも自分は他とは隔絶されてる外れた者だ。
ナンバー6は諦めて、かねてより自身が欲していた空虚な自分を満たす楽しい記憶を求めた。
博士に一泡吹かせるなど無理だ。
だから魔人を探すという命令は半ば放棄して、しばらく自らを満たし続ける楽しい事だけ考えよう。
人はこれを現実逃避というが、そんな事もどうでもいい。
博士からはきっと壮絶な罰を受けるが、もういい。
・・・・・そう、思っていたのだが。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ナンバー6は、一人大雨の中片足で跳ねながら進んでいた。
いや、〈クラック・ブランク〉の中に収納したラスイの事を考えれば二人か?
『ゲキョオ、ゲキョオ』
歩きづらそうにしているナンバー6に、間の抜けたような鳴き声と共に、上から突然魔物が覆い被さって来た。
この魔物の名は、[マヨナカエル]・・・・雨が激しい夜にのみ活動し、人間の子供ならまる飲み出来てしまう程の大きさを持つ蛙系魔物。
豪雨の夜にしか行動できないマヨナカエルは、なるべく多くの獲物を狩り巣に持ち帰る。
その獲物に、ナンバー6は選ばれたようだ。
上から強襲してきたマヨナカエルに、ナンバー6にこれといった抵抗は出来ず一瞬で上半身が飲み込まれる。
そして、そのままマヨナカエルは自身の巣にこの獲物を運ぼうとする。
しかし、結果から言えばそんな事は出来なかった。
マヨナカエルはナンバー6が取り出したガスバーナーで口の中を焼かれ、あまりの熱さに吐き出し悶えた所にすぐさまボウガンをぶち込まれて死亡した。
ナンバー6はそのマヨナカエルの死骸を“分かりやすく”道の真ん中に置いて、まだ使えるにも関わらずガスバーナーとボウガンを無造作に死骸の周りに投げ捨てた。
・・・・導は多い方がいい。
採集祭優勝者発表を見てしまった事によりナンバー6が命令に逆らえず、侵入したパーティ。
そこの居心地はとても楽しく幸せだった、絶対にこの場所を壊したくない。
一度は諦めたが、博士の情報を何とか伝えられないものか。
そして考えた結果、研究室まで物理的に足跡や魔物の死骸、無数の武器を道すがらに残していった。
これは博士の事を伝えてるわけではなく、あくまで残ってしまった物を相手が追跡してるだけなので命令に引っかからない。
そして結界の事は足跡が途絶える事、石板はわざと孤児院に落としたとてつもなく分かりにくく描いた紙の落書きから推察して貰う。
今までは、こんな遠回しな伝え方では無理だと思った。
だが。
ラスイを攫った以上、テクルは何が何でも追いかけて来てくれる筈。
クロイのこじつけを多用する推理力ならば、最早ヒントと言えるかも怪しいヒントにだって気づける筈。
・・・・・ナンバー6は、短いながらもパーティの仲間として受け入れてくれた3人をずっと観察してきていた。
初めて人を信用して、導を残して、辿り着いて貰う。
その後に、僕はーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「シクス・・・・追いついてやったぞ」
あぁ、クロイ、テクル、追いついてくれたっすね。
「・・・・・・博士、命令をして下さいっす」
「あ?」
「奴らは僕が魔人の回収をする為に入り込んだパーティっす。 大方、攫って来た魔人を取り返しにきたんす。 早く処分しないと大変っすよ。 特に僕がパワーを警戒して攫ってこれなかったテクルという女は、きっと簡単に博士の研究成果が沢山あるこの研究室を破壊出来てしまうっす。 あ、後ろの男は仲間という名の腰巾着っす。 仲間(笑)ってやつっす。 僕、アイツの名前も覚えてない程存在感ないっす。 まぁ・・・・・だから、確実に実行する前にしっかりと言葉で命令を下してくださいっす。 『テクルとその仲間の処分』という、命令を」
僕は事前に考えておいた台詞を吐き出したっす。
少し棒読みになりすぎたかもっすけど。
「おい待て誰が存在感薄い奴だ。 そんな薄くないだろ」
あ、突っ込む所そこなんすね。
「ふむ・・・・・そうだな」
僕は博士のお気に入り、そして喋った台詞も別にあまりおかしなものではないっす。
そして博士の相手を自分の思い通りにしたいという性格上、ここでちゃんと命令してくれるはずっす。
「あぁそうだな、ちゃんと命令してやろう。 『テクルとその仲間の処分』。 [ナンバー6]よ、早急に実行しろ」
「了解っす」
僕の体に、普段は見えなくなっている鎖を模した【絶対命令刻印】が現れて命令が刻まれたっす。
「い、今のは・・・? 奴隷紋ってやつか? いや、何か違う・・・・?」
そんですぐに〈クラック・ブランク〉からラスイさんを出して向こうにぶん投げたっす。
攫ってしまって、クロイ達をここまで誘導するために餌にしてしまって、ごめんなさいっす。
「・・・・・う、うぅーん? こ、ここは? テ、テクルちゃん? なんで私テクルちゃんに抱えられてるの!?」
「な、何をやってる[ナンバー6]!? 何故魔人を放って向こうに渡したのだ!?」
取り乱す博士。
「いや? 博士の命令は『テクルとその仲間の処分』っすからね。 今返した魔人であるラスイもテクルの仲間っす。 〈クラック・ブランク〉から出さないと処分も出来ないっすっからねぇ」
僕は鬱憤を込めて、煽るように説明したっす。
「き、貴様! 創造主たるこの私に向かっ」
「あ、命令の遂行はまだ終わってないっすよ」
続いて僕が取り出したのは、リボルバー式の魔力拳銃っす。
魔力を込めればそれが弾となり、エネルギー弾として放てるっす
魔力のエネルギー弾は本物の銃弾より若干威力が劣るっすけど、それでも十分人は殺せる武器。
僕はそれを。
「『テクルとその仲間の処分』・・・・・“仲間”、っすね?」
自分の頭の側頭部に、突きつけて。
「「「「!?」」」」
「命令は、これで・・・・」
そのまま引き金を、引き抜く。
「ちゃあんと、遂行出来たっすね」
パァン!!
・・・・・僕は皆と戦いたくないっす。
でも博士はきっと僕に命令して、逆らえない僕は博士を守るために皆を殺そうとしてしまうかもしれないっす。
だから先んじて命令の形をこちらで定めてからバカ博士に命令してもらっす。
『テクルとその仲間の処分』
これなら『仲間』であるラスイさんを外に出せるっすし、何より。
・・・・・・厚かましいし、どの面で言ってるんだと言われるだろうっすけど。
僕は、皆の事を仲間だと思ってるっす。
僕は裏切り者、それなのに仲間だと思ってるなんて、自分ながらどれだけ恥知らずなんすかね?
でも、僕はそれでも仲間だと、そう思ってるんすよね。
だから。
・・・・・・『仲間の処分』
この命令なら、僕にも適用されるっす。
自分で自分を殺せば、いくら刻印の命令が絶対でももう実行なんて出来ないっす。
皆の邪魔をしないで終われるんす。
もう楽しい記憶で僕は満ち足りたっすよ。
だから。
だからーーーーーーーー僕の一生のお願いっす。
皆で博士をとっちめて。
その後にいつも通りに戻って、クロイ、ラスイさん、テクルさんの3人でまたワイワイガヤガヤな楽しいパーティでいてくださいっす。
・・・・・・・これが、僕の、一生の、お願い・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ナンバー6は、今死んだ。
短くも壮絶な一生を、今終えたのだ。
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