6:命令

 僕の名は[ナンバー6]。

 チビで白髪ぼーぼーの老人・・・・[博士]によって生まれた存在っす。

 僕は博士の研究の為の1つの実験によって6番目に生み出された成功作だから[ナンバー6]という名前らしいっす。

 

 僕自身の容姿は人っすけど、僕以外のナンバー持ちは全員魔物・・・・というか気持ち悪い化け物の見た目をしてるっす。

 博士は、僕と[ナンバー4]とのガラスケース内での戦闘を見て僕の事を気に入ったらしく、よく僕以外のナンバーの事を含めて様々な事を聞いてもいないのに勝手にくっちゃべって色々教えてくるっす。


 それによると・・・・

 [ナンバー1]は耳に当たる部分がデカい人の耳に置き換わった見た目の狼だそうっす。

 [ナンバー2]は目と舌が人と同じものになっている熊らしいっす。

 [ナンバー3]は足が屈強な人のそれとなってる猪みたいっす。


 この3体のナンバー持ち、つまり僕より先に生み出された先輩方っすけど・・・・・もう既に死んでしまってるっす。

博士曰く『まだ手探りの初期に作った弊害で組み合わせが雑過ぎて、一応成功したかと思ったら1、2週間で自壊してしまった』とのこと。

 この先輩方以降、僕含めたナンバーはもう自壊は起きないようにしっかり計算して作られたらしいっす。


 その僕含めた自壊した先輩以降のナンバー達は。


 [ナンバー4]はご存知の通り人の腕を取り付けたような黒い鮫。

 [ナンバー5]は口の中に多量の人の口があるらしい巨大な金色の蛇。


 博士は僕を除いたナンバー持ちの中で特に僕の前作に当たる[ナンバー5]には手間がかかって結構大変で、〔ダンジョンコア〕を埋め込む事で毒魔法の変異がうんぬんかんぬん、生態上ダンジョンで放置してたほうが成長効率うんぬんかんぬん、毎回奥まで様子を見に行くの面倒臭いから道中で固定したやったうんぬんかんぬん、一部となったコアから発せられる濃い魔力で生命受信機がぶっ壊れるうんぬんかんぬんとか、めっっっちゃ長々と語ってたっす。

 途中から僕に喋ってるんじゃなくて最早独り言と化してたっすけど、ちゃんと頷いたりして聞いてますよアピールをしないと痛い電撃を流されるので、本当に勘弁して欲しかったっす。

 

 ・・・・そんな僕が、最後のナンバー持ち。

 [ナンバー6]・・・・体に様々な物体を収納できる空白の隙間を生み出せる人のような存在。


 何故、僕だけが人と同じなのかという理由も博士が半ば独り言のように言ってたっす。


 曰く『元』・・・・つまり素体の違い、だそうっす。

 チェイスウルフ、ポイズンベア、ツキヤブリ、金鮫、スフィンクスネーク・・・・今までのナンバー全て主体となった素材は魔物だったみたいっす。

 あくまで、“主に”。

 博士は追加オプションの感覚で人も、実験の素材に・・・・

 

 ・・・・僕が人間を主体の『元』とした初めて試みであったと博士が言っていたっす。

 僕の記憶は無いのに知識が若干ある、っていうのはその『元』由来の知識なんすね。


 でも、知識はあった方が便利との事で意図的にある程度残されたようっすけど、『元』の記憶、性格、体質・・・・それらは全てリセットされたらしいっす。

 知識を若干残した影響か、一人称や口調は『元』のを受け継いでるそうっすけど・・・・それ以外は本当に何も残ってないっす。

 だから、例え『元』となる存在がいたとしても、一度リセットされ作り直された・・・・博士が僕たちを新しく“生み出した”という表現は間違ってないっすね。


 そんな事を考えてる僕っすけど、実は博士からとある『命令』を受けたっす。

 それは研究に必要な【魔人】という存在を、僕と博士がいつもいる研究室までどんな手を使ってでも連れてくるというもの。

 

 〔生命受信機〕とかいうもので僕より前に魔人の回収を命令していた[ナンバー4]の死亡を確認したので、次は僕に任せる事にしたみたいっす。

 ぶっとい腕の生えた鮫こと[ナンバー4]は、魔人の匂いが少し付着していれば関係ない唯の一般人でも全力で追い始める程知性が弱かったから失敗した、だが知性に優れたお前なら必ず出来るとの事で僕に命令したそうっす。


 僕は初めて研究室の外に出れるようになった上に様々な武器を渡され、更に一瓶だけ足一本程度なら凄まじい苦痛と引き換えに生やせる〔異常級回復役〕も渡されたっす。

 ・・・・・ついでに少し前に僕の一部を消し飛ばした〔小球型衝撃或遠隔起動爆弾〕も貰ったっす。


 これほど様々な物を渡す程博士は僕の事をいたく気に入ってるみたいっす。

 でも・・・・気に入ったは気に入ったけど、信頼はしていないみたいっす。

 僕が逃げ出さないように、しっかりと【刻印】を付けていきやがったっす。


 この【刻印】は【絶対命令刻印】という物だそうで、この刻印を通した命令には逆らえないという効果があるっす。

 刻まれた者・・・つまり僕の死を感知するまで機能し続ける刻印。

 この刻印により下された命令は『魔人の回収』、『外に出て三ヶ月以内に研究室への帰還』、『博士への危害を加える行為の禁止、当然ながら自身や博士に関連する秘密を他者に伝える事も危害を加える行為に該当する』。


 この命令に、僕は逆らえないっす。


 ・・・・・僕は命令通り、研究室から最も近い街【イズリラ】で魔人の捜索を始めたっす。

 でも僕は色々試してみて気づいたっす、この刻印の弱点に。

 【絶対命令刻印】・・・・これの弱点はどんな相手でも絶対に命令を刻み込んで逆らえなくするという点にエネルギーの重きを置き過ぎて、その命令の解釈は完全に刻まれた本人の自意識に委ねられてしまうという点っす。

 つまり自分自身を心から納得させる事が出来れば、命令の受け取りかたをいくらでも曲解出来るって事っす。


 僕は、『魔人の回収』という命令を『魔人に出会える可能性は未知数、なのでこの街の普通の人と同じ行動をとり自然と接触出来るようにする』という解釈をして、命令内容に逆らっていない範囲で自分が納得出来る形にする事で魔人を積極的に探していなくとも【絶対命令刻印】に逆らったと判定されないようになったっす。


 解釈しだいで命令を上手く受け流せる。

 あの名前と生命以外には苦痛しか与えてこなかった博士キチガイの命令なんて聞きたくない。

 だからわざと命令を曲解して実質的な任務放棄をしてやったっす。


 こうして僕は魔人を探さずにこの街で1ヶ月程、『元』の知識にあった冒険者というものをやったっす。


 ソロ冒険者っすけど・・・・外の世界は苦痛だけの研究室内とは違って、毎日が彩られていたっす。

 これで命令の3ヶ月一杯、魔人を見つけずに帰還するっす。

 魔神の回収が出来なければとてつもない仕置きをくらうだろうっすけど、痛みにも、傷みにも・・・・もう、大分慣れたっす。

 だからそれまで僕はこの外の世界を楽しむ・・・・


 そう、考えてたっすけど。

 採集祭で、僕は・・・・・そうは出来ないようになってしまったっす。 

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