第64話 先入観は理想像を生み出す

 俺がこの半分金化した先生と少し話した印象は、思っていたのと違う、だ。

 子供達が、見知らぬ大人達に必死に救助を懇願する程の先生・・・・丁寧な物腰で優しく笑顔を絶やさないような人物像を勝手に抱いていた。

 しかし実際は割と粗暴な口調で顔つき、主に目つきが悪く、全体的に荒々しい印象だ。

 ボサボサで、肩につくかつかないか程度の長さな紫色の髪も、ワイルドな印象が相まって毒々しさを感じてしまう。


 「・・・・そういやぁ、ちゃんと自己紹介してなかったな・・・・俺は孤児院を一人で運営している[トプセア]という者だ」


 「俺はクロイだ。 のど飴ならまだ2個あるから、食いたくなったら言うといい」


 「私の名ははテクル。 特に気にしなくていいけど、貴方を直接助けたのは私だぞ。 特に気にしなくていいけどな?」


 「僕シクスっす。 アンタを助ければ唐揚げが10個貰えるっす」


 「ラ、ラスイです。 生きてくださってて本当に良かったです」


 各々簡潔だが個性的な自己紹介をすると、トプセアは少し微笑み感謝を述べた。


 「テクルさん、ラスイさん、クロイさん、シクスさん・・・・・助けてくれて本当に感謝する。 あぁ、そうそう。 そういえば俺がここにきた理由を話すんだったな。 そうだな・・・・まぁ、簡潔に言えば金魔石・・・・それも外の世界で石ころに成り下がらず、そのままの状態でダンジョン外に持ってける等粒状の金魔石を持って帰ってお金にするためだ。 要するに・・・・金儲けだな」


 ここ、【贋金まみれ洞窟】で等粒状の金魔石を探し、それを売る事で一攫千金を狙う人がいるのは今話した先生に限らず、特段珍しい話じゃない。

 そもそも【贋金まみれ洞窟】が奥まで踏破されてる上ボス魔物の存在までしっかりと認知され生態の詳細まで記録されているのにも関わらず、ダンジョンコアを破壊せず、その上殆ど誰でも入れると言っても過言ではない状態で放置している理由は、僅かだが定期的にに等粒状金魔石という貴重な資源が発生するからだ。


 しかし、子供にあんなに慕われている先生が金儲けの為に孤児院を結果的には5日間空けている・・・・・しばらく孤児院が子供達だけで放置されている状況になっていたと考えると、孤児院関係なく大人として考えても割と最低じゃないか?


 「うちの孤児院にとある特殊な事情を抱えている子が一人いてな・・・・その子が今、普通の薬とか回復魔法じゃ助けられなねぇ病気になってんだよ。 その子の為に特別な薬が必要なんだけどよぉ・・・・・いかんせんウチにはその高価で特殊な薬を買える程のかねがねぇんだ! でも、その薬売りがよぉ・・・・『かねがないなら、代わりとして金魔石を持ってきておくれ、そしたらこの薬をやろう』と言ってくれたんだよ。 だから最年長の子に孤児院を一時的に任せ、その金魔石を手に入れる為にここに来たが・・・・結果は、このザマだ」


 全然最低じゃなかったわ。

 むしろ一人の子供のために奮闘する素晴らしい先生だったわ。


 「先生・・・・・!! 俺、勘違いしてた!!」


 「・・・何の話だぁ? あとお前の先生ではねぇ。 ・・・・あぁ、あの蛇についても話すんだったな。 このダンジョンの最奥に潜んでいるスフィンクスネークの情報は持っていたし、金鮫の情報もキチンと調べてからココに来た、初のダンジョンなら情報収集は当然だからな。 スフィンクスネークはキチィが最奥まで行かなければ遭遇しねぇし、金鮫なら普通に倒せる自信はあった。 まぁ結局金鮫は1匹も見かけなかったがな。 魔物にも襲われなかったし、大量に金魔石を集めまくってはダンジョンのゲートを通して外に出すことで石ころになるか否かを確認しまくった。 だが・・・・結局一回も石ころにならないのが無くてな」


 等粒状金魔石はダンジョン内では見た目も性質も斑状の方と違いがないし、金魔石の割合が斑状99% 等粒状1%と言われているぐらいだ。

 そんな簡単には見つからんのだろう。


 「入り口付近では無理だったんで、等粒状が比較的多くなるらしい奥に進んでいったが・・・・その道の途中で、あの蛇とエンカウントした」


 「あの蛇、ダンジョンと同じ金色だから初見だと『何かいる?』、ぐらいの認識しか出来なくて不用意に接近しちゃうんだよな」


 「経験者は語るってやつすか?」


 「保護色って厄介ですよね・・・・あのスライムめ」


 話がまたずれそうになってきた。

 急いで修正して続きを聞く。

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