第49話 金は金色を同化させる

 俺達3人もシクスに続き、ゲートを通りダンジョンに入ると・・・そこに広がっているのは床も壁も天井も全てが金色に輝いた洞窟だった。

 ここまできんきらと輝いていると、どれだけ金が高価でもかえってありがたみが薄れて眩しく鬱陶しい。


 そんな俺の感想とは対照的に、一足先に入っていたシクスは洞窟の輝きにも引けを取らないほど目を輝かせて興奮していた。


 「これが、ダンジョン! 感動的っす!」


 「眩しっ! 私、暗くて狭い所が好きだからなんかここはあまり合わないなぁ」


 「そう? 私は割と好きだけど・・・・ん? しょ、触角の調子が・・・・!?」


 テクル・・・お前が好きな場所、なんかタコみたいだな。

 まぁ、テクルはテンタクルという黒く染まって足が多くなったタコみたいな魔物の能力を持った魔人だし、その影響だろうか。


 ・・・それは置いといてラスイの発言が少し不穏だ。


 「ラスイ、触角の調子がどうしたんだ?」


 「えっとその、あ、あの。 このダンジョンに入った瞬間から私の触角センサーにノイズが・・・・入りまして。 その、すいません。 周囲の生命反応が物凄く大雑把にしか分かりません・・・・」


 げ、ラスイの〈触角探索〉の強みである『そこまで分かるのか?』ってレベルの精密な生命把握能力が失われたのか。

 濃い魔力は電波障害を起こすと聞いたことがあるが・・・・触角探索って電波に近いものなのだろうか?


 「皆さん、早く先に進むっすよ!」


 俺がラスイの触角の不調に頭を傾げていると、シクスが既に少し先に進んでおり、俺達に呼びかけてきたので小走りでシクスの元へ向かい・・・・


 「ぶっ!!」


 ラスイが途中でずっこけた。


 「!? どうしたラスイ!」


 転んだ音とラスイの小さな悲鳴を聞き、少しラスイより先に進んでいたシクスが振り返り、俺達はいきなり転んだラスイの足元を凝視した。


 この洞窟、全てが光沢眩しい金、というか金魔石で構成されてある。

 普通の洞窟だとそこらに転がるのは小石だろうが、この洞窟に関しては転がってるのは小さな金魔石になる訳だ。

 だから、俺達はてっきりラスイはその小金魔石に足を引っ掛け転倒したと思ったのだが・・・・違った。

 

 こけたラスイの足首に、金色の液状の何かがガシッと掴むようにまとわりついていたのだ。

 床も同じ金色だった上、ラスイの触角探索が使い物にならないせいで誰も気づけなかったのだ。


 「な、なんですか! この金色の液体は!」


 『キュゥウゥゥゥウ!』という高音かつ独特な鳴き声がその何かが発する・・・・液状の体、この鳴き声、恐らくこの環境に適応した結果の金と同じ姿・・・・こいつは[スライム]の1種だ!

 しかも[ベビィスライム]のようなめっちゃ小さい誰でも倒せるような雑魚ではない、正真正銘の厄介で危険な魔物だ!!


 スライムは周囲の魔力を取り込み性質を変化させる。

 場所ごとに微妙に違う魔力の性質によって環境は決まると言っても過言では無い・・・だから結果的にその場の魔力を取り込むことで、スライムは周囲の環境に適応出来るようになる。

 つまり環境の数だけスライムの種類にも数があり、余りにも多いせいでその全てが世界的な魔物の図鑑に載ってはいない。


 その為、大部分が図鑑由来の俺の魔物知識の中にこのダンジョンのスライムはいないが・・・・予想は出来る。

 この場の魔力が凝固して生まれる金魔石だらけの環境に適応したスライム、つまりここの魔力を取り込んだなら多分このスライム自体も大体金と同じ性質を・・・・


 『キュゥウウゥウ!』


 まずい、考えすぎた!

 やばい、スライムが体を広げ大きくしてラスイを取り込もうとしている!

 あ! 


 時既に遅し、ラスイが中に取り込まれた!

 スライムの行動が流れるように早すぎて、俺、テクル、ラスイ、そして当の本人のラスイでさえ何かアクションを起こす前にやられた!


 金は展延性に優れている・・・元々液状で体を広げることが得意な生き物であるスライム。

 その2つの性質が合わさり、ラスイを完全に包み込めるほどの大きさに広がってしまっている。

 いきなりすぎて動揺してるテクルが触手を使ってスライムを引き剥がそうとするが・・・・薄く広がりラスイと密着してるせいで、全力が出せず上手く剥がせないようだ。

 というかテクルはラスイに弱い、ラスイが近くにいるところには、うっかり攻撃が当たってしまうのが怖いのか触手を上手く使えなくなってしまう。

 

 シクスも腕にクラック・ブランクを開け、中に何か使えそうな道具がないか探してラスイを助けようとしているが・・・・まだ使えそうな物は見つからないようだ。


 早く何とかしないとラスイが窒息してしまう!

 でもデバフだけの俺に出来ることなんて・・・・


 ・・・・・・いや、待て。

 あるぞ、“6種類”の内の1つのデバフ・・・・この状況で使えそうなのが。


 俺はこのスライムに・・・いや、このダンジョンに適応している〈ゴールドスライム〉に、右手を押し付け接触付与を発動する。


 与えるデバフは・・・・まだ、パーティの3人には見せたことが無かったもの。

 

 〈重荷〉デバフだ!!

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