第42話 独自魔法は仲間入りを決定する

 「魔人の能力は魔物としての性質から来る為、魔法と違い魔力を消費しないっす。 更に魔人は基本的な全ての魔物に共通する膨大な魔力量があるっす。 やっぱ魔人って凄いっすよね!」


 確かにラスイが魔力切れをしたところは見たことがない。


 シクスの魔人の知識はまるで研究職かと思える程の理解度だ。

 5分ぐらいほど喋り続けるシクスの話を聞いたが、中々に興味深かった。


 「・・・うん。 分かった、もう分かったから」


 テクルは魔人のことを褒めちぎっているシクスを途中で止めることが出来なかったが、さすがにもう中断させたかったようだ。


 「ここまで魔人に対して好感を持った人なんて初めてです。 ・・・・仲間入りで、いい、と私は思いますけど・・・・」


ラスイは仲間入りして良いと思ってはいるがいつも通りの卑屈さの為、積極的には言わず俺達の意見を待っているようだ。


 「・・・・そうだな。 私もいいと思う」


 やはり魔人差別が激しい社会の中でここまで魔人に対する好感を露わにしているのが魔人である2人に響いたのだろう、テクルも仲間入りに賛成している。


 「・・・ちなみに、何の魔法が使えるんだ?」


 だが、俺にはそんな魔人云々の事は関係ない。


 仲間入りすることによって人数が増えればクエスト報酬の取り分が減る。

 つまり減少する取り分を取り返せる程の有能な魔法を使えるのが理想だ。

 別に魔法以外でも有用な力なら良いが、冒険者は基本的に魔法を重視するので。


 まぁ一般的には重視するってだけで、俺達は魔法に関してはガタガタなパーティだけど。

 俺デバフだけ、ラスイ最下級のみ、テクルは昨日宿で聞いたがそもそも魔法が使えない。


 だから本当は冒険者だからって理由では無く、多少でもいいから限定的な場面だけではないどんな状況でも使える汎用性有りの有用で有能な魔法が使えて欲しい。


 「僕の魔法っすか・・・・いいっすよ! 僕の魔法は・・・『独自魔法』っす!!」


 そう言うとシクスは服の右袖を捲りあげ右腕を露わにする。

 そのシクスの右腕に本当に微かな灰色の光を放つ“線”が浮かび上がる。


 魔法という大小様々な超常現象を起こす為に自身の魔力を体外に出す際変換させるl出口となる魔法陣は、極々小さな・・・それこそ微粒子サイズで読み取る事なぞ出来ない魔法文字と呼ばれる特殊な文字の組み合わせの集合体、というのは一般常識。

 だが、基本的に円環型に魔法陣を構築するのがオーソドックスだ。


 しかし腕に浮かび上がったのは魔法文字で出来てるであろう直線という珍しい型の魔法陣。

 この直線型の魔法陣は、〔魔法線〕という呼び名があったはず。


 そう考えていると腕の魔法線が再び微弱な灰色の発光をして・・・まるでファスナーが開くかのように魔法線のラインに沿って細い隙間が開く。

 その細い隙間の穴からは真っ白の何も無い空間のようなものがチラッと覗けた。


 俺は一瞬人の体に穴が開くグロい魔法かと思ったが、特段痛みを感じているようには見えず、実際に穴が開いたというより・・・・その隙間の内側が異空間に繋がっているような、そんなイメージだ。


 「これが僕の独自魔法、〈クラック・ブランク〉っす。 この魔法は自分に線状のラインに沿って自身の肉体に・・・・えと、空間歪曲を利用した何も無い空白の隙間を生み出す魔法っす。 この魔法があれば・・・・・」


 シクスは辺りを少し見渡し、近くの机に置いてある常にギルドが用意して設置してあるペン立てに入っているペンに目をつける。

 そのペンを取り、右腕にある〈クラック・ブランク〉の穴、つまり自身の右腕に近づける。


 すると・・・


 シュ!と、勢いよく引き込まれるかのように穴の中にペンが吸い込まれる。


 「こうしてクラック・ブランク発動で生み出した体表に生じる穴に近付ける事でものを収納出来るっす。 重さとかは関係ないっす!」


 「合格だ。 今日からよろしく」


 俺はそれを聞き速攻仲間入りを認めた。

 採集祭でもそうだったが、1度に大量のものを持てれば持てるほど他冒険者にアドバンテージを持てる。


 そもそも『独自魔法』とは様々な人が使える一般の魔法と違い、その人の魔力の性質や自身の特性に合致する様に作る自分だけの魔法だ。

 自分に合ったオリジナルの魔法を作れる時点で魔法使いとしてかなりの一流。


 そんな人がうちのパーティに入りたい?


 ・・・・そりゃもう歓迎するしかないだろ!!


 「・・・・あ、ありがとうございまっす!!」


 「こちらこそ来てくれてありがとう!」


 「新しい仲間が入ってくれるなんて・・・・感激です!」


 ラスイとテクルと喜ぶ俺。


 シクスはきっかり90度の礼をして感謝してきた。


 ・・・・この時、俺は知る由がなかった。


 お辞儀して下向きになり見えなくなっているシクスの顔が・・・・どこか悲しそうなものになっていたことに。

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