不老不死探求物語

天星 水星

第1話

 暗く、暗く、どこまでも暗い場所。


 そんな場所にいるのに恐怖することはなく、まるで温もりに包まれている気分で。そしてちょっとずつ自分という自我の境界線が薄れてきている。


―――あれ? 僕は誰だっけ?


 ふとした時に自分が何者なのか考えた。考えてしまった。自分の名前が思い出せない。それどころかどんな人生を送ったのか記憶がない。そのことに気づいてしまうと、すぐさま仮初の安心感はなくなった。


―――僕は誰だ!? それにここはどこだ!?


 声を出したつもりだが、この暗闇には響かない。それどころか手足を動かそうとしてもピクリとも動かない。まるで手足、それどころか体が無いように。


 それからしばらくの時が経ったと思う。何とかこの暗闇から抜け出せないか試してみたが成果はなしだ。いや一応成果はあったか。自我を守るという一点においては、それ相応の効果はあったと思う。

 というのもこの場所では自我が薄れている気がするからだ。少し前には思い出せたことや感じた気持ちが、この瞬間には思い出せなくなる。自分という存在が無くなるのはたまらなく怖い。

 ときにはみっともなく泣き喚いたし、存在するかもわからない神に助けを求めたりもした。もっとも神は助けてくれなかったが。


 そうしているとどこかに引っ張られる感覚があった。この場所から抜け出せるなら何でもいいと引っ張られる感覚に身を任せることにした。もっとも抗おうとしても無駄だったと思うが。


 それからまたしばらくの時が経ったと思ったら、唐突に何かに宿った気がした。同じ暗闇だが何か温かいし、自我が無くなるようなこともない。そして何かしらの音が聞こえる。

 何回も同じリズムの音が聞こえる時もあれば、まったく意味が分からない音が聞こえる時もある。


 しばらくたつとまたどこかに引っ張られる。それもとんでもない痛みを伴って。


「おぎゃあああぁぁぁ!」


 僕、産まれました。

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