妖神

ミルク飴

序章

逢魔ヶ刻、日が沈み始めた山奥で、齢十二ほどの痛々しい姿をした少女が和装の男に声をかけられた。

「そこ行く娘よ、そろそろ日が暮れるぞ。何故こんな山奥に来た」

少女は、暗く濁った瞳で笑う。

「義兄さんに崖から落とされたんだ。もうお前はいらないって」

男は、黙って少女を見つめている。

「でも、ずっとここにいるわけににはいかないから・・・・・・そろそろ帰らないと」

男は、首を傾げて言った。

「お前はそれでいいのか?義兄を恨まないのか?」

少女は、濁った瞳のまま男の問いに返した。

「だって・・・・・・だって、世の中ってそういうもので、人は簡単に死ぬし、自分が一番可愛いんだ。だから、私を置いて逝った家族も、あの人たちも、「そういうものか」で済ませることが出来る」

男は、目を細めた。

「人間でありながら、妖怪共のような考えだな」

少女は、その言葉を聞いて目を丸くしたが、静かな笑いを浮かべて言った。

「へえ、じゃあ、お兄さんもか?」

「私は、また違う・・・・・・からかっているな?」

男は、頭を痛そうに押さえながら言った。

「ああ、とても信じられないさ」

少女は、その時初めて無邪気に、いたずらっぽく笑った。その様子を見た男は、少し考え込んで言った。

「では、こうしよう。もう二度と会うことは無いと思うが、もし、お前がその命を絶とうと考えた、もしくは、それほどの災いがお前に降りかかった時、その時は・・・・・・、」

そうして、男は言ったのだ。

「お前の命は、私が買おう」

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