青き暁の水平線―三隻の幸運駆逐艦―

熊谷 響

0.着任

きみは、行くんだね。


その先に、辛く苦しいことがあったとしても。


――そう、意思は変わらないんだ。


それならば僕がその意思を否定することは出来ない。


ただ、きみの、


その『記憶』は、僕が持っていよう。


さあ、立って。


世界を、


みんなを、


――頼んだよ。




――――――――――――――――――――




「新たな『艦船戦士』が着任しました!」


ある日の日本特殊海軍本部へ、その知らせは届いた。ずれた緑ぶちの眼鏡を押し上げながら、駆け込んできた青年「大淀」は手にしていた報告書を目の前の青年へと手渡した。


「新参か。久しいな。」


報告書の文字を追う瞳は朱色。短い黒髪が軍帽から少し覗いている。比較的小柄な青年ー彼こそが、日本特殊海軍全権「長門」であった。


「『陽炎型』か。」

「はい。武装のかたちからして、おそらく。」

「『陽炎』を呼んでおけ。貴様の兄弟がまた増えた、とな。彼奴も喜ぶだろう。」

「もう、既にこちらにいらっしゃいましたよ……」

「……なんというか、彼奴は鋭いな。」


大淀と幾らか言葉を交わしながら、長門は報告書を捲っていた。しかし、あるページでその手が止まった。


「大淀。……これはどういうことだ…?」

「それは……」


問うが、大淀も困惑した様子で口を噤んだ。


「どういうことだ。」


――「かつての記憶」が全くない、とは。

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