愛しているから、どうしたい?
鑽そると
愛してるから手放して
はじめにですが。
これは“ヘデラ・エバーグリーン”という女のおはなしです。
ヘデラにはとてもとても好きな人がいます
その人は優しくて、ちょっぴり意地悪で、面倒見が良くて、いつも余裕そうで、あざとくて、それから大嫌いな誕生日を特別な日にしてくれた魔法使いみたいな人でした。
だからヘデラは彼のことがとても、とても、とても、とても大好きになってしまったのは仕方ないことでもありました。だって彼はそんなにも素敵な人だったからです。
ヘデラと彼との出会いはミドルスクールの頃です。
ヘデラは親がいません。
顔も知りませんし、名前も知りません。でも、ヘデラが生まれているのでいたのはいたのでしょう。
幸いにもヘデラはその生涯をゴミ捨て場で終えることなく拾われて、教会みたいな施設で大人に育てられ、血のつながらない子供達と暮らしていました。
その環境はきっととても幸運だったのでしょうが、ヘデラがちょっぴり、結構、かなり、寂しがりになってしまったのは仕方ないことだったのでしょう。
施設にヘデラに年の近い者もおらず、いるのは年下ばかりだったのもあったかもしれません。ヘデラの施設での役割は、もっぱら「おねえちゃん」でしたから。
ヘデラは寂しがりがひどくなっていにつれ、好きなものへの執着もまた大きくなっていきました。おねえちゃんのヘデラが持ち続けられるほど好きで大切にできるものが数少なかったことも理由のひとつでしょう。
故に、ヘデラが彼に恋に落ちてしまったのはもう、運命の悪戯としか言えません。
優しくて、ちょっぴり意地悪で、でも面倒見が良くて、いつも余裕そうで、ケーキ屋さんの子供だとかで、いつも甘い香りを纏っている、あざといくらい素敵な彼!
彼は、施設育ちということもあって浮いていたヘデラを善意で構ってくれました。先程も言いましたがヘデラは寂しがりがひどくて、そのくせ人付き合いが苦手なので、彼の行為はよろこばしく徐々に甘えて傾倒していってしまいました。
気がついた頃にはすっかりヘデラは彼に恋に落ちていました。
これがヘデラの初恋でした。
幸運にも、そして不幸にも。ヘデラの初恋は叶いました。
自分の心の中に降り積もっていく感情を持て余し、緊張と諦観と絶望が入り混じった彼への告白はなんと受け入れられたのです!
ヘデラは人生で1番喜びました。
両思いで付き合っている、なんて、なんて、なんて素敵なことでしょう。
彼は自分のことを好きと言ってくれるたび胸が甘く痺れて、蕩けた心地に浸りましたが次第に新しい感情が湧き上がります。
不安です。
だって彼はあんなにも素敵で、輪の中心にいるような人で、いつも余裕そうにしているので。ヘデラはだんだんと夜毎不安に襲われました。
目を閉じると嫌な思考が頭をよぎって腹の中でとぐろを巻くのです。
告白を受け入れてもらったとき、「いいよ。付き合おうか。」なんて。ヘデラのことを憐れんでいってくれたんじゃないか、なんて。
彼の言葉を疑っているわけではありません。信じられないだけなのです。
だって。だって。だって。
もしも彼が、自分と誰かを並べて選ばざるを得なくなった時。ヘデラは自分を選んでもらえる自信がないのです。
顔は可愛くないし、髪の毛くくったら丸顔がひどいし、そのままだとぬぼったい。体型は肉付き豊かで服で誤魔化したいし、その癖ダイエットも碌に続けれない。
おしゃれはわからないし、服の組み合わせの良し悪しなんて判断できないし、メイクもどうすればいいのかわからないし、聞く相手もなければもしも失敗したときに笑われるのが恐ろしいと言い訳だけが募っていく。
頼られるほど賢くないし、ばかとかわいがられるほど可愛げもない。頼られるほど気も効かないし、甘えられるほど人に上手に接せられない。
悪いことはどんどんあげられるのに、それを改善しようとしてもたったひとつの失敗でもうなんにもできなくなる。
ああ。こんな自分とステキな女の子ならば。
きっと私は選んでもらえない。
捨てられたくないの。でも選び続けてもらえる自信がないから不安で不安でたまらなくなる。
ヘデラは彼のことが大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで言葉では足りないくらい大好きでした。
だからヘデラは、自分の愛と彼の愛の天秤の傾きが怖くてたまりません。捨てられたくないのです。ずっと一緒にいたいのです。
ねぇ。それって。いけないことなのですか。
束縛しなきゃ素敵な彼がヘデラを忘れてしまうかもしれないじゃないですか。ステキなオンナノコにすっかりうつつを抜かしてしまったらどうするのですか。メッセはすぐにかえしてほしいし。会えないならば声が聞きたい。何もなくてもそばにいたい。どうして普通の人たちは不安にならないのなるよなるでしょならない方がおかしいでしょう。
嫉妬するでしょう。大好きな人に距離が近い奴なんて!ああ、近い離れてよ!どうして嫌だって感情が重たいの一言で集約されるの?だったら好きな人にべたべたくっついたりハートマークのメッセ送ってきたりご飯に行ったりなんて許せるの。あんなにあんなに素敵な彼のことを好きな人なんてこの世で私だけでいいのにそんなのそんなのそんなのそんなの許せないでしょう。
ねぇだって!
好きって言ってくれればいいの。
そばにいてくれればいいの。
その言葉がなければ。
ひとりぼっちになったら。
わたしは。不安でたまらなくなるの。
言葉がなくて心で通じ合うなんて詭弁です。
移り変わるのが、心でしょう。
ヘデラのそれは、彼がヘデラとは違うカレッジスクールに通うとなって更に悪化しました。まぁそれは、当然ですね。
彼はとてもマメで。従来の面倒見の良さもあったのでしょう。ヘデラの度を超えた束縛も嫉妬も受け止めてカレッジの環境を考慮した上で、ヘデラの不安を解消せんとしてくれていました。
毎日毎日嫌気もささずに電話にメッセ、休暇で帰ってくる度最大限時間を取ってはデートだってしてくれて。彼はとてもとてもとてもよくしてくれました。
だから余計に不安を増長した、といえば。
ヘデラの面倒くささがわかるでしょう。
さらにヘデラにとっていっとう脅威だったのが、彼がハイスクールの頃に出来たという友人の、カレッジまで一緒だとか言う男。
彼にしては珍しく休日に出掛けに誘うくらいですから、本当に気が合ったのでしょう。
男?そんなの何が関係あるのでしょう。
性別が同じだろうと彼のそばにいるということは変わりませんし、その友人が彼にどんな感情を抱いているかなんて分かりませんし、その友人が彼から心を許されているという事実は変わりませんし。
…多分、おそらく、きっと、間違いなく
彼はヘデラよりもその人と一緒にいる時間の方が心穏やかで、楽しいと思って大切にしているでしょう。
だって。あんな。にぎやかしく笑った彼の姿をヘデラは見せてもらったことがありません。
ねえ私のこと愛してますか。それは、あなたの優しさで見捨てれないだけの同情心じゃないって、言えますか。
ああ だから へデラはダメなのです。
だって 結局彼を疑ってばかりなのですから。
____へデラの誕生日は、世間ではクリスマスと賑やかしい日の次の日でした。
へデラにとって誕生日は一等特別です。特別、大嫌いでした。
ヘデラにとって誕生日は施設の人に拾われた日で、捨てられたことを証明する日でしかないのです。
だって、だって、だって。ヘデラは段ボールに入れて捨てられてました。理由は知りません。親なんて顔も知らなければ名前も知りません。理由があったのかも、なんて、知りません。
望まれてなくて、愛されてなくて、やむなくなんて言葉で上っ面だけ慰めないでください。だって、本当に愛していたのだとしても、薄暗くい路地裏のゴミ箱の間に入れて捨てれた程度の愛なのでしょう。
ねぇ、だって、仕方なくても。人も碌に通らない場所に捨てることを許さなくちゃいけないのですか。
誕生日はへデラが生まれた日で、名前をつけられた日で、そうして親に見捨てられた証明日なのです。親から一番初めにもらう愛は無償だなんて、口が裂けても言えません。
だってへデラは、お母さんにもお父さんにも名前を与えてはもらえませんでした。
だから、なんて言い訳ですね。
誕生日が近づくと一層へデラは、悪い根性がコントロールできなくて面倒くささに拍車がかかりました。見捨てられたような不安とどうしたって拭えない恐怖がぐるぐるまぜこぜになってしまうのです。
どうしよう、どうしよう、彼に見捨てられたらどうしようって、頭の中で自分がうるさくて病まないから、その感情を慰めて欲しくて彼にいっとうと連絡が増えました。
____へデラは誕生日が大嫌いで、大嫌いで、吐き気を催すほど大嫌いでした。
繰り返すようですけど、だって、それってつまりは捨てられた記念日ってことでしょう?誰もが無条件に愛する赤ん坊状態でもへデラは愛してはもらえなかなった証明みたいじゃないですか。
でも、彼が付き合えた年の初めての誕生日。いっぱいいっぱい甘やかして、ケーキを焼いてくれて、とろけるくらい好きを伝えてくれて、だからへデラはその誕生日だけは大好きになりました。
あぁ、念の為付け加えておきますが。
施設の人たちがへデラの誕生日を祝ってくれなかったわけではありません。
ただ言っても施設で、へデラ以外にも子供達はいっぱいいますし、さっきも言いましたがへデラの誕生日はクリスマスの次の日でしたから。
仕方ありません、へデラのためだけに、とパーティをするにはいささか施設には子供が多く、大人が少なかったので。いつからかクリスマスと一緒にまとめてもらった方がむしろ、楽にすら思ってしまうようになってしまいました。
施設の人にはとっても感謝しています。
けれど、やっぱり、その寂しさは拭えなくて。
拭ってくれたのが、やっぱり、彼だったのです。
彼はへデラのためだけに貴重な1日をくれて、へデラのためだけにパーティをして、へデラのためだけにケーキを焼いて、へデラのためだけにプレゼントを用意してくれて、へデラのためだけに1日一緒にいてくれました。
大嫌いで大嫌いで大嫌いな誕生日を、彼が特別な日にしてくれたのです。
ただ、ああ、何を言ってもいいわけです。
多分、きっと、おそらく、確実に、時期が悪かった、なんて。なんて。
そもそも彼のお家はケーキ屋さんで、つまりはクリスマスシーズンというのはとってもとっても忙しいわけです。彼の家はクリスマスに特別なイベントというやつをしていましたから、特に夜まで忙しくってやまないでしょう。
お家の手伝いをして、それから学業もして、忙しない毎日に厄介な女の面倒なんて本来見る暇もないのです。
散々散々着信を残して、疲れた体だろうに夜に電話を掛け直してくれた彼に醜い嫉妬やくだらない自己満足、自分勝手、喚き散らかしては最終的にはポエムみたいに彼に愛をねだってねだってうるさい女に、どうして彼が苛立たないと思っていたのでしょう。
へデラは彼に甘えて甘えて甘えすぎでした。
_____ちょっと黙ってくれ、と。
冷たい声で言われた後、頭を冷やそう、と。ため息まじりにつぶやかれ、ぷつりと切れた電話が全ての答えで結果でしょう。
まるで何も考えず、自分のことだけ彼に要求するから、ダメなのです。
へデラは最悪な女でした。
だから、電話が切れてようやく自分の愚かさを顧みてもとっくに遅いのです。落としてひび割れた画面がまるでヘデラ自身を指してるようです。
だって、だって、だって、頭に浮かぶ言葉が言い訳につづく言葉な時点で手遅れです。
寂しかった?不安だった?彼の友人たちが羨ましくて?捨てないで欲しくて?明日の誕生日が怖くて?声が聞きたくて?
____彼は、明日、約束してくれていたのに。
その約束を全部全部台無しにしたのはどいつでしょう。
彼はいつも、いつも、いつも、いつだって!へデラのために、へデラのことを思って、散々散々してくれていたのに!彼に甘えてばっかり!
寧ろよくもまぁ、ここまで一緒にいてくれたものです
醜い嫉妬と悍ましいほどの束縛、重たすぎる執着と枯れることない愛情の飢え、顔も碌に可愛くも美しくもなくてスタイルだって平々凡々、頭の良くなければ気もきかない、オシャレでもなければ器用さもない、可愛がられるほどの不器用もなければ愛嬌もない。
プリンセス、なんて呼ぶにはちょっと、結構、かなり、とっても、綺麗じゃありませんでした
ヘデラにとって彼からの拒絶は最大限の絶望に他なりませんでした
言い知れぬ焦燥感に、訳も分からず意味もなく息切れして夜中だというのに施設を飛び出ました
どこに行くというのでしょうか、わかりません、でも、恐ろしくて怖くて不安で何処かに消えてしまいたかったのです
何にも考えずに、たくさんの人に迷惑をかけてばかりの行動はみっともないと言わざるを得ないでしょう。
最低なのは、最後まで。まぁ、こればかりはへデラが悪いというわけでもないです。きっとへデラの人生の中で半分くらいはへデラが悪くないことですね。
クリスマスにはしゃいで、羽目を外して。ゲラゲラ大声で笑った千鳥足のバイクが青信号を渡るへデラの体を跳ね飛ばしました。ヘデラの体はひと一人分くらい飛ばされて、地面に何度かバウンドしました。
バウンド、と言っても。ボールのように上手には跳ねなかったので体のあちこちが引き摺られたような跡ができました。
誰かの声が聞こえます。すっかり熱が冷めたらしい声たちが「逃げろ!」だなどと叫んでいます。霞む視界には赤いテールランプが遠ざかっていくのが見えました。
まぁ、夜中ですし。車もちょうど通らなくて、へデラの体は道路に転がっています。
起きあがろうとしても腕に力が入らなくて、そういえば肘が反対側に曲がっています。額に垂れる赤い液体が邪魔で鬱陶しいですが、拭うこともできなそうです。
そういえばコンクリートって随分と素肌で触れると刺々しいんですね、砂利の混ざった頬が抉れてしまっています。
頭がまるでドラムの重低音みたいな音と一緒に痛みを訴えますし、体のあちこちが悲鳴を上げます。人間の体って、複数の痛みを同時に感じないんじゃないんでしたっけ。なんて、へデラは碌に賢くもないので雑談以下の思考回路ですね。
誰かの必死な声が聞こえます。
駆け寄る足音の後、声をかけられているようですが、残念ながら私からは掠れた息しか出ません。指先はすっかり痺れてしまっていて、時折痙攣みたいに跳ねますが碌に何もできやしないでしょう。
視界がどんどんと白んでいって、もう近くにいるらしい男かも女かもわからない人が何を喋っているのかもわかりません。
最後に聞こえたのは遠くの方で鳴り響く甲高いサイレンの音でした。
クリスマスの夜中に、不吉なベルなことです。誰かに何かがあったのでしょうね。
_____ただ、呆然と。私の頭の中には、それでも好きな彼のことが巡って仕方なかったのです。
だってへデラには、それしかなかったのですから。
それしかなくて、それだけで彼を苦しめ続けたのです。
「どうしたんだ?」
ぱちり、と。瞳が瞬きました。まるで雷が視界の隅で走ったようです。
目の前には森のようなエメラルドの瞳が悪戯そうに釣り上がった大好きで仕方ない彼が立っていました。
何度も瞬きを繰り返す私を心配そうに覗き込んだ彼は、随分と幼い顔つきです。よく見ると、格好も懐かしい制服に身を包んでいます。
まるで?いいえ、確かに。2人が通っていたミドルスクールの制服です。
「おーい?ほんとにどうした?」
彼は、私の目の前で確かめるように手を振ってから、片方の眉だけ下げた困ったような笑みを浮かべました。
「お前が話したいことがあるって、俺のこと呼んだんじゃなかったんだっけ?」
…そうです、そうです。ミドルスクールの時、彼が好きで好きて頭を埋め尽くす好意の感情に気が狂ってしまいそうになって、吐き出してしまいたい、そんなヤケクソなだけの告白がしたくて、彼を呼び出しました。
私のみっともない「好き」に、彼が「いいよ」と返してくれたから、彼と付き合うことができたのです。
東の国で言う、これは走馬灯と言うやつなのでしょうか
でも、私は彼を呼び出してはほとんどすぐに「好き」だなんて恥ずかしげもなく、ロマンチックのかけらもなく告白したはずですから。こんなふうに心配の声をかけられた記憶なんてありません。
夢でしょうか
まさか過去に戻った?
わかりません
わかりません
わかりません!
…でももしも後者なのだとしたら。どうでしょう。
彼の青春時代の大半全てと言っても過言じゃない時間を、面倒で病んでいて鬱陶しくてみっともなくて、そんな価値なんてまるでない女のために消費させていた過去を、もしかしたら、塗り替えれるでしょうか。
可哀想な彼は、優しくて、私を捨ててくれませんでしたから、だから私は甘え切ってそうして、そんな優しい彼にとうとう愛想を尽かされたから。
私が「好き」なんて言わなければ、彼を解放してあげれるはずです。
彼は私なんかよりよっぽど真っ当な女の子と幸せに、なるのでしょう。けれど、幸せになれるのでしょう。私なんかでは与えてあげれない、幸福に満ちた安寧の日々を過ごせるのでしょう。
愛してます。大好きです、好きで、好きで、好きですきで好きの感情であなたをあなたを縛り付けて苦しめてとうとうあなたのためになるようなこと、一つも出来やしませんでした。
どうしてかなんて知りません。
でも。
もしかしたら。
そんな全部を無かったことにできたら。
どうせ、どうせ、私はあの日死んだはずです。
死んだはずのあの日まで彼に飯事みたいな恋愛ごっこで幸せにしてもらいました。それで、それで、それで満足するべきです。亡者の分際でもう一回の愛すらねだろうなんて醜すぎるでしょう。思い上がりも甚だしい。
____ああ。でも。
好きって想いを抱いていることだけは、許してください。
どんなに苦しくても、貴方を苦しめた分ちゃんと苦しみますから。
「…ううん、実はね、勉強を教えて欲しいって頼みたかっただけなんです。」
嘘をついてしまって、ごめんなさい。
「愛しているから手放して幸せになってほしいヘデラ・エバーグリーンのおはなし」
あるいは?
へデラの言葉に「え」だなんて間抜けた俺の声は彼女には聞こえてはいなかった。
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