第9話 ささげし愛のカタチ

カールを見送った私は、流した涙の意味をずっと考えていた。

彼の選択は、試練を完遂するために必要なことだ。

神々との契約というのは無理難題をこなす精神性を試す物だ。

彼はその資質は十分にある。

そして彼の死を私は悼むつもりだ。

嘆くつもりなのだ。


しかし、ふとそれでいいのか?

という感情が胸をよぎるのだ。

この気持ちはなんだろう。

その意味を私はいつまでも見いだせずにいたのだった。


カールは瞬く間に国を再興していた。

そして今度は報復として、敵国の大陸に残った兵を過酷な拷問に掛けたのだ。

それを見据えるカールの瞳は、意思に燃えた瞳のままきらきら輝いていた。


その後海を渡り、一国ずつカールは攻め込んでいく。

カールに率いられた兵は以前とは士気が違った。

この世界の理、不死の理は安寧を破壊する。

どんなに生の真似事をしようと安寧は訪れないのだ。

その事実をカールは強く、強く訴えたのだ。


カールの快進撃が続く、その勢いは瞬く間に世界の併合を完了させたのだった。



「おーい! オルディーヌ! いるかぁ?」


粗野な声が、洞窟内に響いた。

随分と今更来たものだ。

闘争の神、グアールの声だ。


「遅かったですわね。 もうおじ様の信奉者は滅びましたよ?」


「いや、そりゃいいんだがアーガンドもおいらもこの世界からはもう手を引くつもりだから、おめーはどうすんのか聞きに来たんだ」


やはり、神々はこの世界に飽きていた。

勢力争いに負けたというのに、恨みごとの一つもない。


「お父様はいかがお過ごしなのですか?」


「なんだ? おめぇちゃんと話してねぇのか? おめーさんが主神やるなら、親父さんに話付けとくがどうする?」


「お願いするわ。 私今忙しいので、助かります」


「あの新しい王か? よく飽きもせずに見てられる。 随分とご執心だな。 呪いまでかけて、昇神でもさせるつもりか?」


「呪い? 何を言っているのおじ様?」


不思議なことを言う。

私は彼に試練と、慈悲を与えただけに過ぎない。

私はただ見守っていただけだ。


「なんだ気づいていないのか? 今あの人の子を支配しているのはお前からの慈悲という甘美な毒だぞ? 死の魅了など人の子が抗えるはずがあるまい? あの瞳の奥に燃える炎は神の愛を求める狂信の炎だ。 おめーあの子を魅了しきっているぞ?」


「嘘……、ごめんなさい。 父上によろしく伝えて」


私はその言葉に動揺した。

あの私が愛した瞳は……。

身震いして、己の所業について恐怖する。

いつから? いや最初から。

私は何を悦に入っていたのだろう。


「おい……大丈夫か? 顔色わりーぞ?」


「お願い。帰って……。 大丈夫だから」


グアールは最後まで私の心配をしていたが、私は一人になりたくて無理やりに帰してしまった。


私は彼を見ているだけでよかったのに……。

神としてのプライドとありようを優先してしまった。

ただ、もっと早くそばに置いて箱に入れてしまっておく神としての傲慢さでも発揮していればこのような人を操り人形の様に扱い楽しむ悪辣な自分を知ることもなくいられたのかもしれない。


あぁなんと醜悪だろうか、私はやはり嘆きの魔女だ。


しかし、王権は父上からすぐに譲渡された。

世界の支配権は、心根が腐った魔女に渡されたのだった。

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