嘆きの氷女は嘆きたい
羽柴
第1話 幸福で退屈な世界
世界は停滞を選んだ。
争いに皆疲れていたのだ。
繰り返される戦争、飢饉、害獣の襲来。
か弱き民草は、吹かれるだけで吹き飛ぶ路傍の草花の様に簡単に手折れていった。
その悲劇に私はむせび泣き、日々を悲嘆に暮れ過ごす。
そして手折れた命が、また新たな命の糧となることを祝福し心を弾ませる。
生生流転、この世の理、私は死を司り死を嘆く者、観覧者であり死神である。
無常の死を厭いながら幾星霜、深い嘆きは晴れることはないが人の定命の命をただ愛していた。
しかし、人は私ほど悲嘆に嘆くことを良しとしなかった。
安寧を求めた結果、神々に嘆願した。
曰く、「我々は悲嘆の魔女を楽しませる道具ではない。 意思があるのだ」と神々へと請願したのだ。
元来神々というのは私を含め、短絡的で享楽的だ。
人々の営みを愉悦交じりで観劇していたのは私だけではないのだ。
そして、最悪なことに非常に慈悲深く飽きっぽい。
その請願は受け入れられることになる。
人の命は永遠となったのだ。老いることも死ぬこともない。
ただしその世界には新たな命の芽吹きもなくなった。
生命は流転するのだ。人が死ななければ流転も終わる。閉じた世界の完成である。
退屈な世界。
私の、神々の、大好きな観劇は終わったのだ。
命は停滞し、神々は飽きた。そう飽きたのだ。
神々はそのうちよその世界を作り、また新たな過ちを犯すだろう。
それまで私は眠ろう。
私は氷の棺眠った。
悲嘆の熱き涙でまたこの棺が解けることを願いながら。
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