第12話 桃花と咲耶、物憂げにランチを食す
昼休みの二年三組の教室では、いつものように、桃花と咲耶が、向かい合って弁当を食べていた。
ちなみに、桃花は母の作ってくれた
思わず『今日は運動会?』と訊ねたくなるほどのおかずの多さだが、咲耶にとっては、これくらいの量が通常だった。
――にもかかわらず、特に運動をしているわけでもない(
必然的に、特に太りやすい体質の女子達などからは、
今日も例外ではない。
教室内で、弁当や購買のパンを食べている女生徒達は、『何よ、あのバカみたいな量? あれだけ食べて太らないってどーゆーことっ?』や、『キーッ! ホントに神様って不公平!
一方、そんな女子達の視線にも一切気付くことなく、咲耶はモグモグと弁当を食べ進めていた。
すると、
「咲耶ちゃん、
突然、桃花が申し訳なさそうに謝って来て、咲耶はピタリと食べるのを止め、顔を上げて桃花を見た。
「べつに、桃花が謝ることじゃないだろう? 悪いのは、あの憎ったらしい仮面王子なんだからな」
「……ううん。わたしもいけなかったの。秋月くんに言われたこと、すぐに咲耶ちゃんに相談してればよかったんだけど……なんとなく言い
いつもだったら、困ったことがあれば、
昨日だって、龍生宅から車で送ってもらっている途中にでも、龍生から言われたことを、伝えていればよかったのだ。
桃花は昨日の夜、
『実は、秋月くんに
お試しで付き合ってって
言われちゃったんだけど、
付き合うって、具体的には
どーすればいいのかな?』
というメッセージを送っていた。
秒の速度で、
『付き合う!?
お試しって
どーゆーことだ!?』
咲耶から返信があったのだが、詳しい
『お試しだろうと何だろうと、
付き合うなんて
絶対反対だ!!』
『あの仮面王子、
何を考えてるかさっぱり
わからん! 危険だ!!』
『桃花にもしものことが
あったら、私は
どうすればいいんだ!?』
付き合うとは、具体的にはどういうことなのかが知りたかっただけなのだが、それ以前に、付き合うこと自体を反対されてしまい、昨夜は結局、
『とにかく早まるな!
秋月には、私が
話をつけてやる!』
ということになったのだった。
(咲耶ちゃんには心配掛けちゃうだろうけど、秋月くんが言ってたように、楠木くんの事情を知ってるのはわたしだけなんだし……。やっぱり、困ってる人をそのままになんてしておけない)
そこでふと、桃花は結太の席へ視線を移した。
彼の席には、今、誰も座っていない。
昼休みになると同時に、結太は教室の外へと出て行ってしまい、それきり戻って来なかった。
(今までは、教室の自分の席で、パン食べてたのにな……。やっぱりわたしがいるせいで、教室には
だとしたら、どうにかしなければ。
このままずっと、結太に
桃花は意を決し、咲耶をまっすぐ見つめて口を開いた。
「あ……あのね、咲耶ちゃん。わたしやっぱり――」
「朝、秋月に会って来た」
「うん、そう。秋月く…………えっ!?」
驚いて目を見開く桃花に、咲耶は浮かない顔で。
「あいつのことは、今でも完全に信じたわけじゃない。だが、桃花のことは、一応理解しているようだし……。その……だから、桃花がどうしても、奴と〝お試しのお付き合い〟とやらをしてみたいと言うのなら、私はもう、何も言わない。……いや、あいつが信用ならない奴だとハッキリしたのならば、即座に付き合いはやめさせる。しかし、奴の正体が定まらないうちは……これは、あいつにも言っておいたことだが――しばらくは、静観することにしたんだ」
「咲耶ちゃん――!」
桃花の顔色が、ぱあっと明るくなった。
何故なら桃花は今、『咲耶ちゃんが反対しても、わたし、秋月くんと〝お試しのお付き合い〟してみたい。ごめんね』と言おうとしていたのだ。
心配してくれる咲耶には、申し訳ない気持ちでいっぱいだったが、その咲耶から
「ありがとう、咲耶ちゃん! わたし、付き合うとかって、まだよくわからないけど……出来る限り、頑張ってみるね!」
ニコリと笑う桃花に釣られ、咲耶も
咲耶は気分を変えるため、唐揚げや卵焼き、おにぎりなどを、次々に口へ放り込み、あっという間に弁当箱を
「だがな、桃花。あの野郎が変なことしようとして来たら、すぐ私に言って来るんだぞ? 全力でボッコボコにしてやるからな!?」
などと、物騒なことを言い放つのだった。
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