第6話 三者面談


 有賀教頭は、美しい天女のような乙姫さまを見てぼ~としてしまった。先に応対に出た相撲取り体型の女は、乙姫さま付きのフクという侍女だったのだ。

有賀がぼ~と見とれているうち、“シュー”と催眠スプレーを掛けられ気付いたら寄宿舎のロビーに寝かされていた。奈美は、もう帰ったらしい。



「乙姫さまは、どうしてる」


有賀は、何やかんやとかこつけて鯛やカメに乙姫さまの事を聞いて回った。気になって仕方がないようだ。


「そうだ。三者面談だ」


いいことを思いついた。教師、生徒、保護者、カメの保護者である乙姫さまが出て来るはずだ。

有賀は担当の助皮先生に、授業参観、三者面談をするよう命じた。

厳命を受けた助皮教諭は不審に思ったが、生徒たちに三者面談の通知書を配って持たせた。



 三者面談、当日、三々五々母親中心に保護者たちが集まって来た。

そんな中、清心高校の校門前に大型バスが横付けされた。ぞろぞろと出て来たのは、天女服をまとった白い集団だった。

“すわっ!”「どこかの新興宗教団体の殴り込みか?」と色めきたったが、有賀教頭先生が出迎え先導している。で、授業参観者らしいと分かった。



「授業を始めますう~」


助皮先生の声が裏返っていた。

生徒たちの後ろには、父兄、主に着飾った母親たちでごった返して、入れない者は廊下にあふれていた。全ての目が助皮先生に集中していた。助皮先生はあがっていた。


生徒後方の中央に、丸を二つ頭頂にくっつけたような黒髪の髪型の天女服の輝くような美女乙姫さまが、羽衣を後方になびかせ控えている。

乙姫さまの左右には、軍配団扇ぐんばいうちわを大きくして柄を長くしたような物で、そよそよと風を送る侍女がいて、頭上には長い竿の先に紙吹雪を盛ったザルをぶら下げる侍女がいて、ふわりふわりと紙吹雪を舞散らしていた。その乙姫さまの左右には校長と教頭が居て、助皮先生を注視している。有賀教頭の脇にはフクが居て、教頭が乙姫さまに近づくのを阻止していた。


異様な雰囲気の中、助皮先生は、どっと汗が噴き出た。助皮先生は、赤いハンカチを取り出し汗を拭った。


「ずいぶん、なまめかしいハンカチを使っているのね」


「えっ!」


助皮先生は、ハンカチを見た。ハンカチを広げた。赤い三角形のすべすべのすけすけのひらひらの付いた布だ。


「ああ~!」


パンティだった。


「きゃースケベー!」


「ヘンタイー!」


「ハレンチー」


「ま~何という事ざんしょ」


「どこに行ったのかと思ったら、お前が持っていたのかよー」


「返せー」


「これは何かの間違いだー」


「恥を知れー、ヘンタイー」


「助皮先生、何という事ざんす」


赤いパンティではひと悶着あり、争奪戦では多数の怪我人もでている。

教室は騒然となった。


進退しんたいきわまった助皮先生は、「自習にします」と叫んで脱走した。



助皮先生は、保健室に引き籠ってしまった。そんな頭を抱える助皮先生の頭上に、ひらひらと紙吹雪が舞い落ちてきた。

目の前には、乙姫さまが居た。隣にはカメがいた。


「多少のエロがあっても良くてよ。聖人君子じゃ、面白味がないわ」


「乙姫さま~」


地獄に仏。地獄に乙姫。

乙姫さまは、助皮先生の手を取った。滑らかで、しっとりとした真っ白い繊細な手だった。


「カメをよろしくお願いしますね」


「はい、それはもう。はい。カメくんは、素直で、マジメでいい子です。断言します。いい子です」


助皮先生は感極まり乙姫さまの手を取り、滂沱ぼうだの涙を流した。

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