羅針盤のイオス

里予木一

プロローグ:昔語り

 昔、人と魔族の大規模な戦争があった。現在その記録はあまり残されていないが、魔王含む魔族の大侵攻により、人だけでなく、エルフ、ドワーフ他、地上に住むあらゆる種族が危険にさらされたと言われている。


 その危機を打開したのが、勇者として伝わる人物達で、有名なところだと人間族のカーマイン、ドワーフ族のブルーノ、エルフ族のヴェールが良く語られる。他にもリザードマン、バードマン、獣人など様々な種族の勇者が集まり、魔王を打倒したと言われている。


 その中で、一人だけ実在を信じられていないものがいる。正体不明のその人物はイオスと呼ばれ、ことあるごとにまるで奇跡のような活躍を果たしているのだが、その正体は一切語られない。伝承においては、山を消し飛ばす、天候を操作する、海を割るなど、奇跡ともいえるような行動を起こしているため、物語を盛り上げるための架空の人物である、とか、人ではなく神だったのでは、など様々な憶測がなされている。


 当時からなのか、後世の後付けなのかは不明だが、イオスの導きにより幾度となく魔族に勝利したという伝承から、今ではこう呼ばれている。


 ――羅針盤のイオス、と。



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