アキ

清瀬 六朗

第1話 秋が嫌い

 秋が嫌い。

 暗くなるのが早いし。

 自分の好きな水色や青の服が映えない。

 だから。

 秋は嫌い。


 アキは足早に歩いた。

 アキの後ろに、暖かい色の落ち着いた照明や、暖かい色のぎらぎらした照明、その照明に一部分だけ照らされ、不自然な色で浮かび上がる街路樹が遠ざかって行く。

 家族だったり、恋人どうしだったり、下校途中の中学生や高校生だったり、その歩道の上を行き交い、笑いさざめく人たち。

 向こうには、ほとんど夜の空なのに、地面に近いところだけ、青と夕焼けのだいだい色が残っている空が拡がる。

 その光景がアキの背中に流れて行く。

 それを振り払いたい。

 そんなものから早く自由になりたくて、アキは早足で歩く。

 アキ自身のヒールの音がコンクリートで反射して、その耳に響く。

 耳ざわりなほど、はっきりした音で。

 その音からも自由になりたい。


 自分が世界一の美人だなんてうぬぼれたことはない。たぶん、この県でもこの市でも、自分より美人はいくらでもいるだろう。

 でも、自分が会社のフロアで一番の美人だというくらいは、うぬぼれではなく事実だと、なんとなく思っている。

 川島かわしまアキ、二十四歳。

 白い肌、なめらかな頬、軽くウェーブのかかった髪、いかり肩っぽい肩から腕の線、縦にも横にも大きすぎない絶妙のプロポーション。

 夏に青や水色や藍色の服を着たときに人を惹きつける力はだれも及ぶはずがないと自分で思っている。

 そのすべてが目立たなくなり、くすんでしまうのが、秋。

 だから、もしかすると、フロア一の美人ですらいられなくなるかも知れない。

 ただの目立たない女子社員。

 この川島アキはそんなのになってしまうのか。

 そんなことを気にするのは、来年、二十五になって、「四捨五入で三十歳」になるから、なのかな?

 ああ、いやだ。

 そんなことを考えてペースを上げる。

 少女が飛び出して来た。

 何の前ぶれもなく、アキの前に少女が飛び出して来た。

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