はじまりはいつも 2023/10/20

1日の始まりはいつもVサイン。

元気が出るおまじない。

嫌なことばかりあるこの現代社会で、自らの士気を高めることは必須スキルである。


今日も鏡の前でVサイン。

でも今日は元気になれない。

何故なら、就職の面接があるから。

連敗記録更新中。

私には何の価値もないのだろうか。

世界は価値のない人間に厳しい。

なんて生きづらい世の中なんだ。


「そんな顔をするなよ。俺がいるだろ」

「その声は!」

振り向くと、そこには同棲中の彼くんがいた。

彼は理解のある彼くんだ。

「一人では出来なくても―」

理解のある彼くんが歩み寄り、私の隣に立つ。

「二人で力を合わせれば、出来ないことはない。そうだろ」

彼くんが私の目を見る。

確かに私は自分一人では何もできない。

でも彼くんとなら。

私はコクリと頷き、鏡を見る。


「いくよ、彼くん」

「いつでもいいぜ」

「1日の始まりは」

「いつも」

「「Vサイン」」


決まった。

私と彼くんの息のあったVサイン。

そして鏡には見事なWサインが写っていた。

元気が溢れてくる。

今日の面接はバッチリだ。


「もう大丈夫だな」

彼くんはしんみり言う。

どうしたのだろうと思い、彼くんの方を見ると少し薄くなっていた。

「彼くん!」

「お前はもう俺がいなくても大丈夫だ」

彼がさっきより薄くなっていた。

「無理よ。私一人じゃWサインなんてできない」

「大丈夫だ。お前にはもう一本腕がある。それを使えばいい」

彼くんの体はほとんど透けていた。

「彼くん!」

彼くんを捕まえようとして手を伸ばす。

「大丈夫だよ。君ならできる」

しかし、触れる直前で光の粒子となって消えていった。

「そんな‥彼くん」

彼くんが成仏してしまった。

私の様子を見て満足したのだろう。

つまり彼くんとはもう会えない。

その事実が私を叩きのめす。

崩れ落ちて、目から涙が溢れる。


しばらくして私は立ち上がる。

彼くんは言ってくれた。

大丈夫だと。

頑張ろう。

自分は信じれないけど、彼くんの言葉なら信じることが出来る。

―君ならできる―

その言葉を胸に生きていこう

それが彼くんの望みだから。


1日の始まりはいつもWサイン。

元気が出るおまじない。

嫌なことばかりあるこの現代社会で、自らの士気を高めることは必須スキルである


あの後の就職面接は完璧で、採用を勝ち取った。

でもいつも側にいた理解ある彼くんは、もういない。

でも寂しがってはいられない。

彼くんがくれた言葉で、今日も私は元気です。

見守っててね、彼くん。

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