涙の理由 2023/10/10

「涙の理由?それを聞きたくて走ってきたの?」

私は呆れる。

走ってきたのは、私のファンだと言って憚らない後輩である。

私のことを何でも知りたいらしい。

こうなると思ったから、見つからないようにしたのに。

「はい、何かあったのなら放おっておけません」

「何でもないわ。ワサビが効いただけよ」

「嘘です。ワサビなんて食べてないですよね」

たしかに適当に言い逃れをしたが、普通追求するかね。

「あのね。それは聞いてほしくないって意味だから」

「分かりますよ。でも先輩のこと知りたいんです」

「‥あんたね、そろそろ怒るわよ」

「先輩、怒った顔も素敵です」

さすがのこれには開いた口が塞がらない。

段々落ち込んだのがバカらしくなってきた。

この子の相手をすると、最後にはいつもそうなる。

この子なりの励ましなのだろうか。


「あー、涙の理由ね」

彼女の目が輝き始める。

「あれ、何だっけ」

「えー、今更なしですよ、それ」

そう言われても、今はもうどうでも良い。

だが彼女は納得しないようだ

その時、悪魔が囁いた。

私のことを知りたいとな

ならば教えてあげよう


「うーん、寿司食べたら思い出せそう」

「ホントですね。そこに回転寿司あるんで入りましょう」

彼女は疑わず、寿司屋に入っていく。

計算通りだ。

今の私の顔はかなり邪悪であろう。

これを見逃すなんて、あいつもまだ未熟だ

涙の理由、教えてやるよ。

私のことも、たくさんな。

最初に言ったはずだ。

わさびが効いたのだと。

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