やりたいことが見つからないままおっさんになった

夢や目標。

私が一切持つことが出来ないもの。

記憶の中で最後に夢を語ったのは幼稚園の頃だったか。

当時は警察官になりたいと言っていた。

その後私が夢や目標を語ることが極めて少なくなった。

私の小学生、中学生時代は常に虐げられる毎日であった。


そんな毎日の中で、私の自尊心は徹底的にへし折られた。

全てを否定され続け、私は自分の考えを語る際に頭が真っ白になるようになった。

正確に言えば頭には語りたいことが浮かぶのだが、胸の中にある何かがそれを打ち消してしまい、声として、音として述べることが出来ないのだ。

実はこれに気付いたのはつい最近。

心に余裕が出来て、自分の内面、過去と向き合った際の一つの答えだ。


高校生の時の進路相談で私は大学進学を選択した。

それを知った父は「大学なんかお前が行ったところで無駄だ。長男は働いて家を支えて両親に楽をさせるものだ」と、絶対反対の姿勢を見せる。

ならば高校進学の時のように奨学金を借りるなり、自分の力で行けば良いと考えたが、今回は父が母を暴力で抑えつける。

私の進学の道は閉ざされた。

少なくとも、その時の私にはそう思えた。


高校卒業後、私は家を出た。

そしてアルバイトや日雇いの仕事をして七年を過ごすことになる。

将来など見えなかった。

いや、見なかった。

一日一日をただ、無駄に、何も考えることなく過ごした。


その間に私は一度結婚をしている。

二十歳の頃だったか。

結婚式の一ヶ月後、元妻が他の男性と車の中で事に及んでいるのを目撃し離婚。


その後派遣の仕事を転々とし、三十歳にしてようやく正社員の道を歩む事になった。

その際に付き合っていた今の妻と結婚。

それから約十年は楽しかった。

必死に働き、必死に勉強し、信頼出来る妻との生活も幸せだ。


だが私の本質は変わっていない。

何がしたいのか。

どう生きたいのか。

常に考える。

特別な資格があるわけでもない。

何かに秀でているわけでもない。

そんな私がこれからどう生きたら良いのか。

今でも自分の考えを口に出そうとすると、胸の中の何かが邪魔をする。


夢や目標はそのゴールへ向かうための力を与えてくれる。

モチベーションを保ってくれる。

まっすぐなレールを敷いてくれる。

夢や目標を持てる人は幸せなのだと思う。

何かを始めたいのならば、一歩踏み出せば良いだけなのもわかる。

ただ、何を始めれば良いのかもわからない。

どこに向かえば良いのかわからない。


少し考え方を近付けてみる。

半年後にこの世を去るのならば何をするだろうか。

明日この世を去るのならば、やり残したことはないか。


父と話し合いたい。

今までの憤りを全てぶつけたい。

そして一緒に酒を飲んでみたい。


母にちゃんと礼を言いたい。

目を見て、恥ずかしがらずにまっすぐにお礼が言いたい。

また抱きしめてもらいたい。


弟に謝りたい。

彼はいつでも私を敬ってくれていたにも関わらず、私は彼に何もしてあげられていない。


妹にも謝りたい。

彼女は彼女なりにもがき、苦しんでいるだろう。

だが、私は労いの言葉すら掛けてあげることが出来ていない。


あとどのくらいチャンスが残されているのか。

どのくらい時間が残されているのか。

その間に私は家族と向き合うことが出来るのか。


悩んでいる間にも時間は過ぎ去っているし、タイミングも逃している。

この文章を書いている間にも、一時間は経過している。

私の人生の一時間を使って書いた文章。

この一時間を使用すれば、上に挙げた家族への思いの一つは達成可能なのではないか。


男性の平均寿命は約81歳。

私には残り40年でも両親は違う。


私もおっさんになってしまったが、そろそろ胸の中にある何かを取り除く時なのかもしれない。


今後何をすれば良いかはわからない。

だが、家族に対しての後悔だけはしたくないのがわかった。


伝えに行ってこよう。


私を産んでくれてありがとう。


こんな兄貴でごめんな。

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