月夜に猫

 ——茜が今野ターゲットに接触してる間、由奈には今野の自宅に潜入して証拠捏造をしてもらう。

 普段から大麻を使用していたと、踏み込んだ警察達に思わせるんだ。

 もちろん一人じゃあない……深矢を連れ出すんだ。


 ***


 ——時刻、23:08:36——


 暗い部屋に街灯の淡い光が射し込む。

 深矢はベッドに寝そべりながら、それによってできた長く伸びる影を見つめていた。


 海斗に待てと言われた三日間。

 監視の動きは充分に把握できていた。深矢の見立てでは、そろそろ監視に穴が出てくる頃だ。


 何となく、首元から羽型のネックレスを取り出した。

 月光に当たって銀色に輝いている。それを顔の前に掲げ、想いを込めるように握りしめる。


 三年前、深矢は同じように青嶋の地下牢で軟禁されていた。三年前の事件で事情聴取を受けていた時期だ。


 その時深矢を連れ出しに来たのは由奈だった。

 あの時が由奈と話した最後だった。このネックレスを託されたのもその時だ。


 由奈は今、どこにいるのだろうか。

 このネックレスを託した意味は。

 あの時どうして深矢を外に逃がしたのだろう。

 青嶋から抜け出す直前「一緒に来ないか」と聞いて返ってきた「私は行けない」という答え——



 ふと、街灯の光を影が過ぎった。


 茜のシルエットではなかった。まして海斗のものでもない。

 由奈のことを考えていたからだろうか——いや違う。


 スーッと音もなく窓が開かれる。


「鍵閉めてないのはわざと?」


 深矢は思っていなかった展開に二秒ほど呼吸を停止した。

 それからゆっくりと振り向き、影の主を確かめる。


 その人物はバランスよく、窓のサッシに腰掛けている。そのしなやかさは猫のようだ。


「……由奈?」


 尋ねるようにその名を呼ぶと、その侵入者は目を細めて微笑んだ。

「おどろいたでしょ」


 深矢は参ったように笑って、握りしめたネックレスをしまった。


 まさか、こういう形で再会を果たすとは。

 数日前の海斗の自信ありげな表情を思い出す。海斗の奴め、仕組んだな。


「……ちょうど、昔のことを思い出してたんだ」


 由奈が何のこと?とでもいうように首を傾げる。

 深矢は首を振ってベッドから降りた。


「外に、出ていいんだな?」

 由奈はふふっと笑って手を差し伸べた。

「もちろん。早く出なきゃ、あと十五秒でコレが再起動しちゃう」


 由奈が指差した先には、窓を監視するためのカメラが。深矢を観察するため、監察課が仕掛けたものだ。


「そりゃあ急がなきゃいけないな」


 深矢は笑って、由奈が飛び降りたのに続き、ヒラリと窓枠を飛び越えた。

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