第16話 もっと気持ちよくなって欲しいから……

「面白いとこ見れたし私帰るわ」


 愛ちゃんはそう言うと、俺たちに手を振りながら駆け足で去っていった。


「むー。言いたいことだけ言って逃げるとか……酷い妹だ」


 その後ろ姿を不機嫌な顔で見る恋。

 その顔をしたいのは分かる。ただ恋は恥ずかしい話をされただけだからな。

 俺としては、一安心。これでちゃんと2人でデートに行ける。


「でも驚いたな、まさか恋があんなこと考えてくれてたなんて」


 可愛すぎだろ。陰で努力している女子が一番愛おしい。


「べ、別にその……私はただ凛久くんとの関係がもっと深まればなと思ったから相談してただけで……それ以外に深い意味は……」


「俺は不満なんて一つもないけど、もっと良くしようとしてくれてたんだ」


「うん……だって私、そんなに上手くないし、凛久くんが満足できてなかったらなって不安で」


 俯きながら言う恋。


「俺は恋と居るだけで満足だよ? 上手い下手なんて関係ない。恋が頑張ってくれてるだけで俺は嬉しいよ」


 と、俺は恋の頭を撫でる。

 自分にだって余裕がないはずなのに、それにも関わらず俺のことを考えてくれている。


 最高の彼女すぎるだろ。


 一つ不満があるとすれば、彼氏を寝取ろうとしてくる妹がいるくらいだ。


「色々教えてもらったんだよ私。愛にやり方とかを」


「おう、そうなのか」


「経験があるからか分からないけど、結構凛久くんの弱点みたいなところ言っててすごいな~って思った」


「……色々と経験ありそうだもんな」


 あいつ何を姉に吹き込んでる。

 自分の経験談を交えてアドバイスするなよ。もっと世間一般なアドバイスをしとけよそこは。


 恋がまだ経験がない初心な心を持ってるからバレなかったものの、もしある程度経験があったらバレてたぞ?


「やっぱ、経験の差ってすごいね。関心しちゃったよ」


「あんま関心はしない方がいいと思うけどな」


 経験人数をステータスと思ってる勘違い女子みたいになるぞ。ただ穴としか見られていないのに、それを自慢げに語る女子が一番イタイ。


「愛のおかげでね、多分これまで以上に凛久くんを満足させられるようになったと思うよ?」


 俺の服の袖を掴み、耳を少し赤らめながら言う。


「それは嬉しい限りなんだけど。そこまで真剣に考えることなのか? 徐々にでいいと思うんだけど」


 こういうのはパートナーとの積み重ねが大事。

 お互いを知っていくうちに、自然と満足するという流れがある。

 そこまで急ぐ必要もないとは思うのだが……


 顔を覗き込みながら言う俺に、


「もっと凛久くんに気持ちよくなってほしいから……」


 かぁっと赤くなりながら、上目遣いで俺の目を見ながら言う恋。

 その婀娜やかな瞳に、俺はゴクリと喉を鳴らす。こんな顔されたら、耐えられるわけがない。


 真っ先に俺の息子が疼く。

 この後のデートの予定は決まった。


「ホテル、いこっか」


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