episode.29
シルヴィとアルベールは正座をして、今までの経緯を話して聞かせた。
時折、溜息混じりに「貴方達は……」と呆れる声が聞こえたが、一先ず話終えんことには仕方ないと聞き流した。
全てを話終える頃にはグレッグは呆れを通り越して哀れみの表情をしていた。
まあ、分かるよ。私に巻き込まれたアルベールが可哀想だって言いたいんですよね!?
「……君達の事情は分かった。……また回りくどい事を……」
最後の方は聞こえない程小さな声で呟いた。
「す、すみません!!今回の件は全て私の責任なんです!!総監様は仕方なく、渋々私に付き合ってくれてるんです!!」
土下座しながら謝罪するが、グレッグの様子がおかしい。
「うん。シルヴィは一旦黙ってて。総監の機嫌が損なわれるからね」
「なんで!?庇ったつもりなのに!!」
グレッグの言う通り、アルベールは大層機嫌が悪そうに眉を寄せていた。
「しかし、困ったねぇ。今や君らの事で城内はもちきりだよ?このままじゃ仕事に支障が出る」
目頭を押さえながらうんざりしながら溜息を吐いた。
「いくら期間限定の関係だとしても、今の状況じゃまともに聞いてくれる者はいないと思うよ?仮に信じた者がいたとこで、人の噂話と言うのは尾鰭が付くからね。火に油を注ぐ状態じゃないのかな?」
最もなことを言われ、シルヴィもアルベールも言い返すことができない。
まあ、今まで女性に無頓着だったアルベールの初めての色恋沙汰が特ダネと言わずしてどうする。
とはいえ、ここまで騒動になるとは当の二人でも想定外。
グレッグはしばらく考えこんでいたが「仕方ない」と呟き二人に向き合った。
「うん。君ら、ほとぼりが冷めるまで
まさかの左遷宣告受けました……
◈◈◈
「おや?シルヴィは?」
次の日、何事もなくやって来たパウルが医局に入って第一声の言葉だった。
「これはこれは。お待ちしておりました」
キョロキョロと辺りを見回すパウルに近づいたのは営業スマイル全開のグレッグと眉間に皺をよせたレリスだった。
「シルヴィはどうしたん?」
「は?あんたのせ──!!」
「シルヴィと総監は昨日の騒ぎの責任を取って謹慎中です」
レリスがパウルに牙を剥きそうになったところですかさず間に入ったグレッグが説明した。
パウルは顔色一つ変えずに「そうか」と一言。
その態度にレリスは拍子抜けしたらしく、あっけに取られていたがグレッグは違う。
(ほお……この場は大人しくしとくべきだと判断したようだな)
今ここで騒ぎ立てても自分が不利になるだけと言う事が分かっているらしい。
グレッグの思っていた通りパウルは終始大人しくグレッグとレリスの薬の説明を真剣に聞いていた。
敵意むき出しだったレリスも仕事だと割り切ってしまえばこちらも通常営業に戻った。
「いや~、流石この国の薬は最高級やね!!いいもん仕入れさせてもろうたわ」
「そう言っていただけるのなら説明したかいがあります」
ご機嫌そうなパウルにグレッグも笑顔で応える。
「──……で?僕の婚約者殿はどこにおるん?」
パタンと買い付けた薬を鞄にしまうと、鋭い目つきに変わったパウルがグレッグに詰め寄った。
「先ほどお伝えしたように謹慎中です」
「そやから、どこにおるんか聞いとるんよ。宿舎にはおらんかったようやしね」
「──ッな!!あんた宿舎にまで行ったの!?」
思わずレリスが声を荒げ、怒鳴りつけた。
流石にこれにはグレッグも驚いた。
(まさか宿舎まで行くとは……早めに手を打っておいてよかった)
「有り得ない……もしシルヴィが宿舎にいたら、あんた何しようとしてたのよ」
「無粋なこと聞気おるなあ。婚約者なんやから
その言葉にレリスとグレッグは顔色を変え、本当に間に合ってよかった。と心の底から安堵した。
「──……最低」
「あははは、それは誉め言葉としてもろうとくわ」
レリスが心底軽蔑した目を向けたが、パウルは一切気にしていない。
しかし、いくら婚約者(自称)とはいえ、いくらなんでもやり過ぎだ。
それに、二人はまだ出会ったばかりでお互いの事をよく知らないはず。それなのに何故……?
「……一つ、お聞きしますが、貴方は本当に
確信に迫る為にグレッグが口を開いた。
「当たり前やん。そやないとこんな所まで来んわ」
(こんな所……ね)
自分らの聖地とも言える職場をその様に言われ、ピクッと眉が上がったが、パウルは気づかない。
「そうですか……いやあね、私にはどうしてもシルヴィ
「ああ!!もうこんな時間やん!!」
わざとらしく言葉を遮った。
「そろそろお暇させてもらうわ。ここにおったら僕の恥ずかしい内面まで見抜かれそうやしね。それに、どうやら僕は招かざる客らしいし」
チラッと視線を向けた先には敵意むき出しのレリスを始めとする医局の者達。
「じゃ、
そう言いながら足早に去っていった。
その姿が見えなくなると、グレッグは椅子に深くかけ天を仰いだ。
(あの態度は、何かを隠しているな……)
しかし、シルヴィの家は没落寸前。結婚してまで手にするものでは無い。
シルヴィを確実にものにする為に手篭めにしようとするところを見ると……
「はぁぁ~……またタチの悪い者に目をつけられて……」
そう呟き、考えるのをやめた。
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