episode.27
「総監様!!急いでください!!」
「ちょっと待て!!私の歳を考えろ!!」
今、シルヴィとアルベールは城の回廊を全速力で駆けている。
それは何故か。それは、期限が迫っている新薬申請の為。
──時はシルヴィとアルベールが恋仲(仮)になった時にまで遡る。
シルヴィの耳には名を呼ばれた時の余韻が残り、暫くは惚けていたが突如正気に戻り、外に目をやった。
その時点で日は傾き始め、山は赤く染まりつつあった。
「大変!!総監様!!早くここを出なければ、申請に間に合いませんよ!!」
シルヴィが急かすように言うが、アルベールは落ち着いていた。
「ああ、今から馬を飛ばしても城に着くのは日が落ちた頃だろうな」
外を見つめながら言うアルベールは、既に諦めモード全開でシルヴィがいくら急かしても動こうとはしない。
「なんでですか!?今日の為に頑張ってきたんじゃないんですか!?」
「そうだな。……だが、申請なんかよりもずっと大切なものを守れた」
「えっ!?なんですかそれは!?」
満足そうに言うアルベールだが、それが何なのかは教えてくれずシルヴィは不完全燃焼。
とはいえ、この目でアルベールの頑張りを見てきたシルヴィはどうしても諦めきれなかった。
「総監様、行きましょう!!」
「なに!?今からではもう間に合わん!!」
「やってみなきゃ分からないでしょ!?」
シルヴィのゴリ押しに負けたアルベールは、シルヴィと共に城に戻ってきたと言う訳だ。
城に着いた時には、もうほとんど日が暮れていた。だが、シルヴィはそれでも諦めずに城中を駆けた。
「はい。確かに承りました」
「ああ~、良かった。ギリギリ間に合いましたね!!」
安堵の表情をうかべるシルヴィに対し、壁にもたれ掛かるように項垂れているアルベール。その姿は生きる屍……
「総監様?大丈夫ですか?」
「……ああ……」
額に汗をかき息絶えだえに、目を潤ませ見つめ返す眼鏡男子の破壊力たるや否や!!!!
(くぅぅ~~……!!生きてて良かったッ!!!!)
それじゃなくとも汗がシャツに張り付き、その体格をしっかりくっきり見せつけられ、色気ダダ漏れで見上げられたら正気の沙汰じゃいられない。
「これは、あかんです!!あかんやつです!!ある種の犯罪ですよ」
「……今だに君の言うことが理解できない……」
息が整ったアルベールがゆっくりと立ち上がると、シルヴィの頭に手をやった。
「君のおかげで間に合った。私一人では諦めていた所だ。ありがとう」
そう言いながら微笑むアルベールに、シルヴィは堪らず鼻から血を出し再び倒れた。
◈◈◈
シルヴィの見合い騒動から二日経った。
仮とは言え恋仲となったシルヴィとアルベールだが、恋仲らしくイチャイチャ…………なんてことはなく
「……シルヴィ・ベルナール。君は何度言えばわかるんだ?」
「え?」
相も変わらずアルベールの尻を追いかけて、煩わしそうに溜息を吐くアルベールの姿があった。
その様子を呆れるように見る医局部の者達。誰もこの二人が恋仲という事に気づいていない。
仮だし、わざわざ公表するようなこともないだろうという事でグレッグにも話をしていない。
まあ、この関係もすぐに解消されるし、みんなに変な誤解をされなくて済むから黙ってくれているのは有難い。
うんうん。と微笑みながら頷いているシルヴィをアルベールは怪訝な表情で見ていた。
「シルヴィ~!!仕事よ~」
「あ、はい!!」
先輩に呼ばれアルベールに軽く会釈をして、その場を離れた。
「そういえば、薬の買い取りに来てる商人の話聞いた?」
包帯を巻いていると先輩のお姉様に問いかけられた。
商人という言葉に「え?」と嫌な予感が頭を巡った。
「なんでもすっごいいい男らしいのよ!!しかもシルヴィが大好物、眼鏡付きよ!!」
はい。確定。
「なあに?その顔!!いつものあんたなら飛びついて食いついてくるじゃない」
「いや、まあ、私にも調子が悪い時があるんで……」
「え!?大変!!具合が悪いの!?」
いつもと違う様子のシルヴィを心配したお姉様方は慌ててグレッグを呼びに行ってしまった。
「いや、違う……」と手を伸ばしたまま固まっていた。
けど、まあ、このまま仮病を使っていればパウルに会わなくて済むのなら仮病も悪くない。
先輩方には心配かけさせちゃうけど、これも致し方無い。
そんなことを考えていると、物凄い足音を立てたアルベールが駆け込んできた。
「なんで総監様が!?」
「具合が悪いと聞いたが大丈夫なのか!?」
「へ?」
グレッグが来てくれると思っていたが、まさか総監であるアルベールが来たことにまず驚いた。
それと同時に仮病だという事がバレる!!という思いで血の気が引いた。
「……確かに顔色が良くないな……」
それは貴方様が来たからです!!とは口が裂けても言えない。
「今日はもう休め。私が部屋まで運ぼう」
「は!?いやいやいや!!大丈夫です!!一人で行けます!!」
総監様にお姫様抱っこ!?そんな贅沢なこと正気を保ってられるはずがない!!
必死に断るシルヴィと自分が連れて行きたいアルベールの攻防が続けられている中、声がかかった。
「んじゃ、僕が連れたったる」
振り返るとそこには腕を組んで微笑んでいるパウルがいた。
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