episode.16
「ふふふふふふ、いい感じじゃない?」
「ああ、この調子で一気に距離を縮めるか?」
むせるアルベールに寄り添うシルヴィを物陰からこっそり除き見ながらほくそ笑んでいるのは、ライアンとシルヴィの先輩であり先生でもあるレリス。
レリスは第一小隊で医官も務めていて、シルヴィは元より衛生兵みんなの憧れなのだ。
スラッとしたスタイルに切れ長の目。鼻筋はスッと通り、まさに容姿端麗。
因みに、アルベールの眼鏡を割った犯人がこの人。
昨日、帰り際にわざとらしくアルベールにぶつかり落ちた眼鏡をわざとらしく踏みつけた。
いくら作戦の為とは言え、アルベール相手に躊躇なく手を出せるのはこの人以外他に居ない。
実はこのレリス。一時期アルベールと恋仲だと噂されていた。
同じ職場に美男美女がいるのだ。恋だの愛だの言っている暇のない者達にとっては、他人だろうと潤いを満たす為のかっこうの餌食になるだろう。
まあ、シルヴィが現れるとそんな噂はすぐに聞かなくなったので真相は謎のまま。
「見てよ、あの人の顔!!あんな顔もするのねぇ……」
ライアンが横目でレリスを確認するが、嫉妬している様子はない。
今回の計画も一番乗り気なのがこのレリスなのだが、ライアンは噂の真相が知らされていないので、複雑な気持ちでこの場にいる。
(本当に何とも思ってないのか……?)
もし本当に恋仲だとすれば、こんな計画乗ってくることもないだろうが……むしろ全力で止めに来るはず。
「どうした?」
「あ、ああ、いや、本当に総監の事は何とも思ってないんだなと思ってな」
つい、本音が出てしまったが、まあ、悩んでいるより聞いてしまった方が後々の事を考えれば最善策だと言える。
レリスは一瞬驚いた顔をしたが、その内笑い始めた。
「あははははは!!だからそんなに浮かない顔してたの!?そんなしょうもないことで!?」
ライアンはバツが悪そうに頭を掻いた。
「ん~~……まあ、その内知ることになるだろうから言うけど、私結婚するのよ」
「はあ…………………──ッて、はぁぁぁ!?!?!?」
レリスの思いもよらない発言にライアンは腰を抜かさんばかりに驚いた。
相手は当然アルベールでは無いと言うことだろう。
じゃあ、一体誰がレリスを射止めたのか。
今のライアンはシルヴィ達よりもレリスの相手が気になって仕方ない。
「相手は第一部隊所属のディランよ」
「え………ええええええ!!!!!!????」
ライアンの様子を見て、クスッと笑いつつ相手の名前を教えてくれた。
その名を聞いて、更に驚愕した。
ディランと言えば先日の実技訓練の際に初戦でやる気のなさを全面に出しつつ秒殺で決着をつけた、あの人だった。
失礼だが、まさかあの人がレリスを射止めるとはどうにも納得できない。
確かに、腕前は尊敬出来るほど強いが、常に気だるそうにしていてシャキッとしている所を一度も見た事がない。
そんな者がみんな憧れレリスの相手……似つかわしくない。
そう思ってしまった。
「ふふふふ、なんでディランなのかって顔してるわね」
「いや、うっ、あ、はい……」
ライアンは良くも悪くも馬鹿正直。しかし、レリスはそんなライアンを嫌悪するでもなく、ただ面白気に笑っていた。
「まあ、今は私の事より目の前の二人の方が重要案件だから、その話は飲みながらでも教えてあげるわ」
(俺にとってはどっちも気になる所なんだな……)
そうは思っても、今のレリスは目の前の二人に夢中で話す気などないのだろう。
ライアンは溜息一つ付くと、考えることをやめた。
「お、店から出るみたいね」
レリスの視線の先の二人は何やら会話をしながら店を出て行く様だった。
傍から見ればカップルにも見えなく無いが、どちらかと言えば兄妹だな。
今回の計画で最も重要な事は二つ。
一つは、アルベールに自分の気持ちを気づかせること。
シルヴィに気がある事は既に周知の事実だが、当の本人が無自覚だという情けない状態なので、そこを打破する。
二つ目はシルヴィにアルベールを”推し”と言う以前に”男”だと分からせる事。正直、これが一番の難関。
「シルヴィの推しにかける精神は並半端なものじゃないからねぇ」
「あいつから推しを取ったら人間の皮を被ったただの人形になっちまうからな」
呆れるように話す二人など当の本人達は気付きもせず、シルヴィとアルベールは店の外へ。
「……この後はどうするんだ?」
「えっと……とりあえず任務は終えましたので、宿舎の方へ戻ろうかと」
「そうか」
「ええ、では、貴重なお姿拝見出来て良かったです。次は眼鏡姿でお会いしたいですね!!」
そんな挨拶を交し、シルヴィは宿舎の方へアルベールは新しい眼鏡を取りに店の方へ向かって行った。
「ちょっとちょっと!!それだけ!?もうちょっとアクションあってもいいんじゃないの!?」
「まあ、あの二人相手じゃこれが限界だろ」
レリスは半分体を乗り出し、引き止めたい衝動を必死に抑えている。ライアンは何となく分かっていた様でさほど驚きも焦りもしない。
「──……おんや?何やら面白いことをしているみたいだね……?」
そんな声と共にポンッとライアンの肩に手が置かれた。
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