episode.13
スーーーハーーー…………
朝食を終えたシルヴィはアーサーとサラとも別れ、職場である医局部の扉を開けれずにいた。
「あの人、ああ言う性格だから自分が言った言葉なんて一々覚えてないし、相手の事も気にしてないわよ」
「そうだな。何人も泣かされていたのを見た事あるが、当の本人は気にもしていなかったしな」
「そうそう。悩んでいる方が馬鹿を見るのよ」
なんて朝食を食べながら進言された事を思い出した。
二人が言う通り、アルベールは過去は振り返らないタイプの人間だ。そんな事、言われなくたって分かってる。
今、シルヴィの足を止めているのはアルベールのせいでは無い。
(職場で何かやらかした次の日って入りずらいものじゃない!!)
そう、これは自分自身の問題なのだ。
「よしっ!!」
ゴクッと喉を鳴らし、覚悟を決めて、いざ──……
カチャ……
「おはようござい──……?」
扉を開けると、やたら騒がしくいつもの落ち着いた雰囲気が一変していた。
「ああ!!シルヴィ!!」
シルヴィの姿を捉えたグレッグが珍しく血相を変えてこちらにやってくるので、一体何事だ!?と身構えているとガシッと肩を掴まれた。
「総監を知らないか?」
「は?総監様ですか?」
「ああ、実はまだ姿が見えないんだ……」
「なんと!?」
グレッグの言葉で騒がしかった理由が判明した。
アルベールはどんなに徹夜しても朝は必ずこの医局に顔を出すのが日課だった。
そのアルベールが今日はまだ姿を現さないなんて前代未聞。天変地異でも起こるんじゃないか?と騒がれているのも頷ける。
「まあ、あの方も
「ほわぁ!?」
ポンッと肩を叩かれたシルヴィは満面の笑みのグレッグにあれよあれよと医局の外に追い出された。
「いや、あの!!」と必死に断ろうとするが「まあまあ、いいから」とやんわりと言いくめられ気づいたら医局の外だった。
「生きてるかどうか確認するだけいいから、頼んだよ」
それだけ言うとバタンと扉が閉められた。
何か以前にもこんな様な事があったような……
そんな事を思いながら、アルベールの執務室目指しとぼとぼと歩いて行った。
◈◈◈
スーーーハーーー……
あ、冒頭に戻った訳ではございませんよ。
アルベールの執務室前に到着したはいいが、中々ノックが出来ないでいたのだ。
とりあえず扉に耳を当てて中の様子を伺ってみたが、当然分かるはずもなく……
「えぇぇい!!ままよ!!女は度胸!!いったれ!!!」
意を決してコンコンと二度ノックしてみた。
シーーーン……
応答がない。
まあ、そのはずか……ここで応答があればシルヴィが来た意味がない。
それでも一応ノックしたという実証が欲しかった。
ノブに手を当て、ゆっくり開けてみる。
「……総監様~?……失礼しますよ~……」
小声で顔を覗かせるも、アルベールの姿がない。
「あれ?」と思いつつ、執務室の中へ足を踏み入れた。
相変わらず机の上には書類が山になっており、先が見えない。
「ああ~、こんなところに……」
回り込んでようやくアルベールの姿を発見した。
アルベールは机の下に潜り込むようにして眠っていた。
「総監様!!朝ですよ~!!!」
大声で呼んでも目を覚まさないところを見ると、相当疲れが溜まっていた様だ。
死んだように眠るアルベールを起こすのは忍びないと思いつつ、声をかけ続けた。
「ん~~、こりゃ駄目だ」
一度寝たら起きない人っているけど、ここまで起きない人も珍しいんじゃないだろうか。
「それにしても……」
眠っていても絵になる人は絵になるもんだなぁ……と思いつつアルベールを見つめていた。
眼鏡を外しているのが本当に惜しい……
ふと机の上に外された眼鏡が置いてあることに気が付き、自然とその眼鏡に手がいき寝ているアルベールの顔にそっと乗せた。
(ふぁぁぁぁぁぁ!!!!グッジョブ、私!!!!)
シルヴィは声にならない声を上げながら歓喜した。
いつもはこんなに間近で見られないアルベールだが、寝ている今なら見放題!!
(なんと言うサプライズ……)
シルヴィは鼻息荒くアルベールを見つめていた。傍から見たら完全に痴女。
その異常に暑苦しい視線に気づいたのか、アルベールがようやく目を開けた。
「──うわぁ!!!!」
「ほぁ!!!!」
アルベールは目の前でだらし無く顔を弛めて自分を見るシルヴィに驚き、シルヴィはまだ目を覚まさないと思っていたアルベールが目を覚ましたから驚き退いた。
「な、何をしている!?」
「あ、ご、誤解ですよ!!?誓ってやましい事はしておりません!!グレッグ様に頼まれて総監様の様子を見に来たんです!!」
「……なに?」
必死に誤解を解こうと早口で捲し立てると、アルベールがポケットから懐中時計を取り出し、時間を確認すると盛大に溜息を吐きながら頭を抱えた。
「あの、誰にでも寝坊はありますから。むしろ総監様にも人らしい一面があったんですね!!」
「なんだと?」
フォローしたつもりだったが、どうやら相手の取り方によっては嫌味に聞こえてしまうらしい。
シルヴィが慌てふためいていると、アルベールはフーと息を吐いた。
「いや、すまない。起こしに来てくれたんだな」
カチャといつも通りに眼鏡をし、髪をかきあげる姿はまさに悶絶もの。
むしろこちらがお礼をしたい……!!
そんな事を考えているシルヴィをアルベールはチラッと横目で見て「ゴホンッ」と咳払いをした。
「あぁ~~、昨日の件だが………」
ドキリと胸が跳ねた。
まさか、また何か言われるのだろうか……流石に二度目は爆死出来ますけど?
ハラハラしながらアルベールが口を開くのを待った。
そして──
「……すまなかった」
あれ?
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