僕の師匠は行商の魔女

とろろ定食

一章 行商の魔女 突然の別れ


――両親が死んだ。


少年、アイゼンが村長にそう聞かされたのは数日前だった気がする。

言葉の代わりに涙と嗚咽しか返せなかったアイゼンはそのまま無気力な日々を過ごした。

気が付けば涙を流すための水分も無くなった。

そしてどんな境遇であれ腹は減る。


家の中を乞食の様に漁ったが、誰も水くみに行っていないので水は無い。

そして両親が帰ってくる予定の夜から1日程度の食料しかなかった為、既に食べる物も無い。


まずは水を汲もうと、家から出ると村中央にある井戸に向かう。


「アイゼン……もういいのか」


井戸の傍には両親の死を告げた老人。村長が作業をしていた。


「……ぁ」


アイゼンは返事をしようとしたが、喉が干上がっており声が上手く出せない

そんなアイゼンを見た村長は苦虫を潰したような顔をしながら、井戸から水を汲んでアイゼンに手渡した。


「アイゼン。今のお前に話していいか分からない。が、そんな状態で放置も出来ん。少し話がしたいが良いか?」


受け取った水を無心に飲んだアイゼンは、光の無い瞳を村長に向けるとコクリと頷く。


「では、ここではなんだ。私の家に行こう」


村長はアイゼンの背中に手を当て、そのまま家まで連れ添った。

村長の家に着くと、アイゼンを食卓に座らせると、村長はその向かいに座った。

そしてひとつ溜息をつくと、苦しそうに話し始めた。


「アイゼン、これからの事なんだ。お前の両親の事は残念だった。そして残されたお前はそれでもこれから生きていかねばならぬ」


「はい……」


「しかし、私も、村の者も豊かではないんだ。皆お前の事は自分の子のように愛している。だが、一時は出来てもお前が成人するまで自分の家族と合わせてお前を食わせてやれるだけの余裕がないんだ」


アイゼンはまるで懺悔するかのような村長の話をただ聞いていた。

村長の話も理解できる。その上でその話を自分にしなくてはならない村長に申し訳なく感じながら。


「村の者たちと話して、しばらくは持ち回りでお前の面倒をみようという話にはなったんだ。その間にお前には自分で生きていく術を身に着けてもらわねばならん。子供にこんな事を強いる我々を許してくれ」


そう言い終えると、村長はアイゼンに頭を下げた。

アイゼンは震えた。先程飲んだ水がまだ身体に行きわたっていないからか、泣いたとしても涙にならず身体が震えるしかできない。


「……めんなさい。ごめんなさい村長さん。ぼ、僕が。僕のせいで」


「ち、違うぞアイゼン!お前は悪くないんだ!何も!お前は何も悪くないんだ!」


そう繰り返しながら村長は立ち上がるとアイゼンを抱きしめた。

そしてアイゼンの代わりに涙を流す。


いつだったか、村に来た行商の人が言っていた。

神様って人がいて、神様は皆を救ってくれると。


であるならば、両親は。僕は。この村の優しい人達は一体何で救ってもらえないんだろう。

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