第18話 勉強になります

 公用車(アルファード)車内。

先生は後部座席で静かに寝ている。

伴は初めての街(地元)の夜の運転に慣れてない。

ルームミラーで先生を見て、


 「先生、お疲れの所すいません」


中尾先生は片眼を開けて、


 「どうした」

 「事務所までの道順が分かりません」

 「うん? 今、何時だ」

 「二一時十分です」


先生は夜の外を眺め、


 「・・・そこの信号を右に曲がりなさい。その方が早い」

 「ハイ!」


伴はハンドルを右に切る。


 「? ここも一通ですね」

 「そうだったかな・・・」


そう言ってまた寝てしまう。

伴は不安そうにルームミラーを見ながら車を走らせる。

すると後ろに付いて来た車の屋根に、いつの間にか「赤色灯」が回っている。


 「あ、ヤベ~!」


伴は車を停車させる。


 「どうした?」

 「すいません。後ろに覆面(フクメン)が」

 「ナニ?」


振り返る先生。

先生は急いで寝て?しまう。


 「先生?・・・センセエ?」


蛍光帯を着けた警官がウインドーを軽くノックする。

伴がパワーウインドーを下げ、


 「あ、ご苦労さまです。何か?」

 「忙しい所すいません。あのね、この道路は二二時まで一方通行なのよ。東京から?」

 「あ、はい」

 「ちょっと免許証見せてくれます?」


伴は背広の内ポケットから免許証を取り出し警官に渡す。

警官は伴の免許証を見て、懐中電灯で後部座席を照らす。

警官は驚いて、


 「あれ~? 中尾先生? 何~んだ、先生の車ですか」


先生は薄目を開けて。


 「ウン? 伴くん、着いたの」


中尾先生は外の警官を見て『わざとらしく』、


 「あれ? お巡りさん、何か遭ったんだべか」

 「いや~、先生んとこの運転手さん、また一通に入っちゃったみたいです」

 「ナニ、バカ者が! あれほど運転に気を付けろと言ったじゃないかッ! お巡りさん、すいませんね~。このバカ運転手、明日出頭させます。まったく君は運転が下手クソなんだから~」


警官が恐縮して、


 「良いです良いです。東京から来たんだ。夜道が不慣れだったんでしょう。『警告』を切って置きますから」


先生は更に大声で、


 「そうはいきませんよ。違反は違反ッ! 私はそう云う事が大嫌いなんだ。秘書の教育にも良くない」


伴は平謝り。


 「すいません! 勉強になります」

                          つづく

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