第5話 官公庁へ挨拶廻り

 伴と武智が議員会館を出て来る。


 「伴、タクシーを捕まえろ」

 「ハイ!」


タクシーが停まり、急いで二人が乗り込む。

武智が運転手(メキシコ系外人)に、


 「ホセさん(五十歳)、経産省ッ! 今日は半日付き合ってもらうよ」


武智は運転手に名刺を渡す。


 「出稼ぎかい?」

 「いえ。結婚して日本国籍です」


運転手は名刺を見て、


 「オウ! 秘書サンですか。有り難う御座います」


伴は小声で、


 「知ってる方ですか?」

 「メーターの上を見ろ」

 「・・・あ~あ、さすがですね」

 「バ~カ」


経産省の前にタクシーが止まる。

ビルからは多くの人が出入りしている。


 「ホセさん。ここで少し待っててくれる」

 「ハイ。頑張って下さい」

 「?」


伴と武智が廊下を歩走(ホバシ)りに歩いて行く。

武智は伴の靴を見て、


 「おい、伴。ちょと待て! 」

 「ハイ」

 「オマエな。靴ぐらい磨け」

 「えッ? あ、ハイ」


伴は立ち止って、ハンカチで靴を拭く。


 「それと何だ! そのネクタイは。曲がってるぞ」

 「あ!」


伴はガラス窓に自分の姿を映しネクタイを直す。

武智はそれを見て呆れた顔で、


 「あのな、これから会うヤツは『偉い人』なんだ。ビシとしろ、ビシと」

 「ハイ。すいません」


 伴と武智が経産省正門から、走って出て来る。

ドアーの開いたタクシーに飛び乗る二人。


 「ミスター・ホセ、次、『財務省』!」

 「はいよ」

 「おお、日本語うまいねえ」

 「カミさんが江戸っ子ですから」

 「かみさんが江戸っ子?」


武智は隣りの伴を睨(ニラ)み、


 「おい」

 「ハイ」

 「受付嬢の前でニヤニヤしてるんじやない! 副大臣の秘書だぞ」

 「え? あッ、すいません」


 財務省の前にタクシーが停まる。


 「ホセくん。ワリッ、またここで待っててくれ」

 「はい、気を付けて」

                          つづく

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