第4話 実技試験終了
2つ目の試験が終わると、受験生たちは大きなホールのような場所に案内された。
この部屋の天井には召喚術を可能にする召喚ゲートの模様が描かれている。
3人目の試験官の人が前に出てきた。今度の先生はおじいさんだ。
「最後の試験は、召喚術です」
(やったぁ!)
イーアは召喚術だけは得意だった。ユウリにも負けない。だから、今日はずっと試験の中に召喚術があることを祈り続けてきた。
「この部屋では、召喚道具がなくても、召喚することができる。呼んでもらうのは『風船魚(プープク)』だ。もしもプープクと契約していない人がいたら、手をあげなさい」
誰も手をあげなかった。
『風船魚(プープク)』は誰でも初等魔学校で契約をしている、とっても初級な召喚獣だ。
プクーとふくらむだけの無害なかわいいまん丸の精霊だ。
何の役にも立たないけれど、無害で召喚の練習にいいので、プープクは初等魔学校の召喚術の授業でよく使われている。
(プープクなら、楽勝!)
試験は10人ずつ行われた。
まずは受験番号1番から10番の受験生が番号順に部屋の真ん中に一列に並ぶようにいわれた。
10人いっぺんに召喚するのだ。
その他の受験生たちは部屋の端で待つことになった。
最初の10人は、全員なんなく風船魚(プープク)を呼び出した。
10人全員の手の上に、まん丸の小さな風船魚(プープク)がのってふわふわ跳びはねている。
「全員、よくできました」
試験官の先生がそうほめた。
(ユウリは当然、成功だよね!)
でも、召喚術だけは、イーアの方がユウリより得意なのだ。
「全員合格。後ろの扉から外に出なさい。では、次の10人、11番から20番まで、前に出て番号順に並びなさい」
そんな調子でどんどんと進み、やがてイーアの順番がまわってきた。
41番から50番までだから、イヤミな少年もいっしょだ。
召喚の呪文は二つの部分からなる。
前半は<魔導語>で、異界のゲートをあけるための呪文だ。
後半は召喚する相手に呼びかける『精霊語』だ。
呪文は良い召喚道具があったり召喚士の腕がよければ一部省略可能。
でも、今日は失敗するわけにはいかないので、イーアはちゃんと前置きの呪文から唱えた。
<異界の扉を開きて我が僕を呼び遣わさん。開け霊界の門>
イーアはしっかり集中して唱えた。
イーアが知る限り、召喚は集中力が全てだ。
記憶力とか思考力とかは、全然要らない。
『聞け、我が声を。来たれ、風船魚。霊界に住まう者』
呪文の詠唱が終わるとすぐに、イーアの前にドーンとプープク(?)が現れた。
手の上じゃなくて、イーアの差し出した手の前に、風船魚のまんまるな顔がある。
直径数メートルはある巨大な顔だ。
(あれ? なんかちがう……)
しかもこの風船魚は、プクーッと
(怒ってる? このプープク、なんか怒ってる!?)
そこで、試験官の先生のあわてた声が聞こえた。
「まずい。あれは上位種ドプープクだ。危険だから、全員、すぐに離れなさい!」
ドプープクはさらに膨れあがり跳びはねるように上下左右に揺れ動いた。
イーアの左右の生徒はあわてて逃げていった。イーアも後ろにとびのいた。
巨大風船魚がくるっと縦に一回転しながら跳ね動いた。そして……。
パーンッ
大きな破裂音とともに、イーアは後方にはじきとばされてひっくり返った。
「いったぁ~」
イーアが床にぶつけた頭を抱えて起き上がったときには、巨大風船魚の姿はどこにもなかった。
さっきまでイーアの左右にいた受験生たちは、遠くから恐る恐るこっちのようすを観察していた。
「だいじょうぶ?」
髪の毛をピンでとめたキリッとした顔の女の子が、離れたところからイーアに声をかけた。
「うん。だいじょうぶ」
その時、反対側から怒声が響いた。
「なんてことをしてくれるんだ!」
イーアが振り返ると、列の左端にいたイヤミな少年がはね飛ばされて転んでいた。
イヤミな少年は倒れたまま、青ざめた顔でイーアに怒鳴った。
「君のせいで召喚できなかったじゃないか! 1つ目の試験の時も、もうちょっとでわかりそうなところで君が後ろで爆発を起こしたせいで失敗したんだぞ! 毎回毎回集中力が切れるようなことばかり! 俺の邪魔をするな!」
こんな風にどなられると謝りたくなくなるけれど、今回は全員におおいに迷惑をかけているので、イーアはみんなにむかって「ごめん。みんな」と謝った。
「あたしはいいけど、それより……」
きりっとした顔の女の子は、前の方を指さした。
その指の先をみて、イーアは教室のはしっこで試験官の先生がひっくりかえって気絶しているのに気が付いた。
先生は止めようとして近づいたところで、ドプープクの破裂の直撃を受けてしまったようだった。
他の先生たちが駆け寄って声をかけていた。
「オレン先生、だいじょうぶですか?」
「うーん……」
試験官のおじいさん先生はうなったまま起き上がれずにいる。
その様子を見ながら、イーアは思った。
(終わった……もうダメだ……)
・
・
・
3つの試験が終わると、その後は午後の面接が始まるまで、お昼休みだった。
親切なことにグランドール魔術学校は受験生のためにサンドイッチと飲み物を用意していてくれた。
イーアは配布されたサンドイッチを手に持ったまま、ユウリと一緒に中庭のベンチに座って魂の抜けた顔でぼーっとしていた。
ユウリはイーアをはげまそうとして言った。
「きっと召喚は成功って認められたよ。ちゃんと風船魚を呼び出したんだから。他の子より強い風船魚を呼びだしちゃっただけなんだ。大成功だよ」
あの後、しばらくして試験官の先生は無事に起き上がった。そして、イーア以外は、もう一度召喚術の試験を行った。
イーアは「君はもういい」と言われて外に出されたけれど、それが何を意味するのかは、受験生には誰にもわからない。
イーアはうなだれたまま首をふった。
「召喚が合格でも、それでも、全然たりないよ……」
魔法陣は0点だ。
自然魔法も、きっと、受験者たちの中で下から何番目かだ。
もしもイーアの召喚でKOされちゃった先生の心が海のように広くて召喚術の試験に満点をくれたとしても、イーアは上から10番目になんてなれそうにない。
ユウリは言った。
「だいじょうぶ。まだ午後の面接があるよ」
「……そうだね!」
イーアはがばっと顔をあげると、サンドイッチにかぶりついて、食べながら元気よく言った。
「こふなっはら、ほれにはへるひはなひもんね!」
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