【再掲】第23話 おかん








  稲荷様ならぬ、ウィラ大明神の五臓六腑の活躍により、セール品の鶏胸肉を十分に確保しただけでなく、ついでに限定品の豚コマ100g/69円も手に入った。


 タイムセールを告げる館内放送の調子が悪く、そのタイミングでウィラがトイレへと駆け出したことによって生まれた隙を、あたしは見逃さなかった。


 おかげで買いたいものは全部揃い、買い物かごの中でひしめき合いながら、レジの列に並んで会計待ちをしていれば、戻ってきたウィラと合流を果たす。


「ナギ! お待たせ」


「おかえりウィラ。迷子センターに行く必要はなかったな?」


「うちは子供か!? いや、それ言うたらあんたのような牛久大仏を見間違える訳あらへんやろ?」


「確かにそうだな?……って、誰が牛久大仏だよ!?」


「「HAHAHA!」」


 こんな調子でレジ待ちもあっという間でさ、楽しい買い物の時間を送れたものだね?

会計を済ませて袋詰めしている間も、会話は盛り上がる訳さ。


「ナギ、さっきお手洗い行った時なんやけど、なんか知らんうちに30人ぐらい付いてきおったんやで?……いやぁ、あん時うち、走らんかったら間に合わなかったんとちゃいますか? ほんま冷や汗もんやで?」


「ウィラ、よくやった。お前アイスは好きか? さっきの約束通りさ、買い食いをしようぜ? ああ、もちろん今回はあたしの奢りだ。Baskin R〇bbins 行こうぜ?」


「いや、うちお花摘みに行っただけなんやけどな? バスキンロビンスってあれか、31のことかいな? ほんならダブルで……って、ナギ、そんなんやったらタイムセールで買った意味ないやろ?」


「良いんだよ、あたしの気持ちぐらい受けとれよ?」


「ふふっ、ありがとう。せやけどナギ、そら愛の告白とちゃいますか?」


「「HAHAHA!」」


 本人は知ってか知らずか、ともあれお手洗いに間に合ってよかったな?


 その一方で、無償で提供されるトイレに殺到した買い物客たちは……ああ、おかげであたしはホクホクの気分で満足の行く買い物が出来たものでさ、笑いが止まらないぜ?


 タイムセール分をペイするけど、買い食いするって言ったろ? HAHAHA!


 さて、ウィラに袋詰めを手伝ってもらいつつ、慣れない手付きで四苦八苦する様は可愛げがあっていいよな?


 本当、まるで妹でも出来たかのようで、袋詰めのコツを教えたら徐々に慣れてきたのか、仕舞いにはあたしを差し置いて袋詰めに夢中になっていた。


「ウィラ、お前飲み込みが早いな? 教えたこっちが楽しくなってくるよ」


「そらナギの教え方が上手いんやで? 考えてみたら当たり前なんやけど、そら肉を下にしたらあかんし、ビニールに入れんと破けてまうからな?」


「ああ、そこに気付いてくれて助かるぜ? 本当、お前は賢いな」


「それ言うたらナギもやで? うちに気付きを与えたんやから教え上手やし、なんちゅうか……あんたはおかんか?」


「ま、世話焼きなところもあるからそうかもな?」


「「HAHAHA!」」


 ウィラの言う通りなのか、あたしは面倒くさがり屋の癖に世話焼きでさ、なんと言うか天の邪鬼なところもあるよ。


 ま、それよりもウィラに対して、何故かお世話を焼きたくなると言うか……おかんね、それにしては大きい娘だね?


「ま、ナギがうちのおかんやったらな、そらそれでおもろいんやけどな?」


「一応だけど、家事全般は得意だぜ?」


「あっ、もうおかんやったわ」


「「HAHAHA!」」───。






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