【再掲】第21話 奏ない
◇
あたしとウィラは、お互いにとんだ勘違いをして改札の前、手と手は繋がないけれど笑って電車だけを見送った。
まだ土地勘もなにもあったものではないものの、話を聞いている限りウィラはあたしのご近所さんらしい。
こりゃ明日からの登校時間も賑やかなことだろうな。
帰り道ふざけて歩き続けるあたしとウィラは、楽しい会話の続きをしていたが……さて、さっきまでかわいい笑顔の花を咲かせていたウィラが、急に恥ずかしそうに俯いてモジモジとしてどうしたのだろうか?
ああ、そう言えばあたし、今日はスーパーで買い物したいからさ、丁度良いかもな?
少し気の利いた言い方……やっぱりお花摘みか?
なんて考えていると恥ずかしそうに俯いていたウィラが、上目遣いであたしの視線に合わせてからゆっくりと口を開いた。
「ナギ、さっきあんたが言ってたことなんやけど……」
あれ、お花を摘みにいくって話じゃねえのかよ?
急にモジモジして変な奴だな?
それじゃあなんだろう?……ああ、ウィラの様子からしてあれか?
昼前の話の続きか?
あぁ、あれはノリとは言えさ、愛の告白と言えばって体育館裏に行ったからか、やっぱりそういう雰囲気か?
おいおい、そりゃちょっと時間差がありすぎないか?
「……あれや、おな中ってな、あんたなにエロいこと言うとんねん?」
……え?……ああ、何が言いたいかはわかった。
またかわいい勘違いと言うか、明らかに地元じゃないからさ、同じ中学の奴(通称:おな中)はいないだろう、って意味で言ったつもりだったんだけどな? HAHAHA!
こいつ、性的な意味のナニかと勘違いして……ああ、かわいくて堪らねえな?
HAHAHA!……とは言え、ここはちょっとからかいたい気持ちを抑えて抑えて……よし、あたしは落ち着いた。
このまま放っておいたらさ、まるでおピンクな魔法にでも掛かってしまったかのようだからさ……ああ、今すぐ本当のことを教えないとこりゃ面倒だ。
「……ウィラ」
「な、なんや? う、うち……なんかへ、変なこと言うてもうたか?」
おいおい、恥ずかしさのあまりにビクビクしちゃってかわいいな?
ま、今から本当のことを言うからさ、取り越し苦労の拍子抜けになることだろうよ。
「よく聞け……」
思わず彼女の両肩を掴み、真っ直ぐ目を合わせれば……顔を赤らめて視線は右へ左へ泳ぎ放題。
むしろこっちが恥ずかしくなるから勘弁してくれよ?
「なっ、なんや、なんやっ?!」
ああもう!?
なんでお前はさ、憧れの王子様を目の前にして、まるで無数の薔薇が咲き誇ったかのような乙女チックな雰囲気の中、今にも卒倒しそうな面白い反応をしているんだよ!?
卒倒しそうのはこっちの方だよ!
ウィラ、お前の可愛すぎる反応にこっちがおかしくなるぜ?……あれ、あたしって、実は女の子の方が好きなのか?……おいおい、今度は無数の百合の花が咲くんじゃねえか? hahaha,oh jesus!……はい、まずはあたしが落ち着こうか?
こういう時はさ、心身共に落ち着くために深呼吸を一つ、二つ……よし、大丈夫だ。
まるで今から告って有無を言わさず、強引に唇を奪うような構図と勘違いしかねない、おピンクな魔法の掛かった状況とおさらばしよう。
あたしらにはおピンクな雰囲気よりもさ、海外コメディのようなギャグ時空の方がお似合いだろ?
「ウィラ……"おな中"って、そういう意味じゃねーよ! 同じ中学校って意味だよ!!」
「……へっ?」
やあ、おかえりウィラ、お前も一つ勉強になったな?
目を丸くしてパチパチと大きく、何度か瞬きをした彼女は、一呼吸置いていったいどんな二の句を告げるんだろうな?
「……そ、そうやったんか!? うち、知らんかったわ!?」
「「HAHAHA!」」
こうして無事に非日常的な魔法は解け、あたしらの日常は帰ってきた。
あたしらはこれからも変わらぬ日常を送るにあたってはそうだな……まずはスーパーの特売をチェックしようか?───。
◇
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます