11話「アラタなる課題」

 神代器。それは昔、全種族を巻き込む大戦中に人間達が創り出した代物。



 それは概念すらも操れる力を有した代物である。最初は透明なガラス玉の状態で存在し、選ばれた者は最初にどんな形の武器を扱うか決めることが出来る。そして通常の武器では決して破壊出来ず、所有者が健在な限り敵に使われる事はない。



 人間は他の種族と比べると圧倒的に弱かった。ドワーフと比べると力は劣り、エルフより聡明ではなかった。そんな中、不利な戦況を覆すために神代器は創られたのだ。



 神代器が創り出された事により、人間達は強力な力を手に入れた。その力は持ち主次第で無限の可能性を秘めており、使い手の命が続く限り、失われることはない。そして1つの種族が裏切り、戦局が大きく変わった。



 勝利を手にした人間達は他種族から、人生を、人権を、ありとあらゆるものを取り上げ、戦争は終結した――。



「とまあ。簡潔に話すとこんな所だな。結局は戦争に勝ちたかったから、が主な理由かな」



 草原に囲まれた道を歩いている一人の女性。長い銀の髪、青い透き通った瞳に黒い上着を羽織り、中の白いシャツからは少しヘソがチラッと見える。おまけに一本アホ毛が目立つ女性レオイダ・クメラという女性がこの世界の特別な武器。『神代器』について少年少女に話していた。



「へえ~けど凄いよな。魔法とかで概念すらも操れるんでしょ?創った人はとんでもない人だったんだろうな」



 神代器の誕生について素直な感想を言うのは少年は、髪色は茶色寄りで短く、髪型は少しツンツンして逆立っており、無地の黒い服を着た輪道新太という少年。



「それに、一つ一つの武器に能力が備わっている。よく勝てたよねアラタ」



「ホントに生きた心地はしなかったけどな…そういえばリオは魔道具とかは持ってないのか?」



 新太が少女に向かって話しかける。



 その少女はリオという。薄い緑色の半袖の上着を羽織り、ショートボブの藍色髪で頭には赤いカチューシャを着け、腰回りには矢を入れた筒を見飾っている。



「流石に持っていないよ。一つの魔道具だけでもかなりの値段がするし…」



「武器屋か何かに神代器とか売られてるとかはないの?」



「そんなの駄目に決まっているだろうアラタ。店に世界を崩壊しかねない代物が普通に売られていたら危険だろう」



 それを聞いた新太は「確かに…」と小さな声で気付かされる。



「ま、誰でも神代器を持てる訳じゃない。武器と相性の良い者だけがそれを持つことが赦され、他の者が持とうとすれば重くなり、動かせなくなる」



「先生が知ってる中でヤバい神代器とかはあるんですか?」



「そうだなあ。あるとすれば『破壊』の能力を持った武器かな」



「「え」」



『破壊』という単語を聞いた瞬間。新太とリオは思わず足を止めてしまう。



「クメラさん。もしかして戦った経験が?」



「その時は流石に辛かった。破壊の事に関することなら何でも出来てしまうんだ」



「そんなの持ちたくねえなあ…」



「でもアラタは簡単に持てて、当てただけで壊れるんでしょ?」



「そうだよリオさん。私はちょっとした道具すらも扱うことを許されない。ある意味素敵な能力を持っています」



 自慢げに鼻高々と話す。そう、新太はこの世界に召喚された者なのである。そして他の者達とは違う特殊な能力を身に付けていた。それは戦闘に扱う武器・防具は一度衝撃が入れば簡単に破壊されてしまうという、厄介極まりない能力を有していた。



「その分お前は立ち回りをどうするのかを考えないと生き残れないがな」



「くぅ…」



「私も頑張って支えるから…ね?」



(え、天使か何かなんですか?)



 そんな他愛のない会話をしていると遠くから別の会話が3人に聞こえてくる。



「なんでこんな目に…」



「言うな…油断してた俺も悪い」



「だってよぉ…全部盗られるなんて」



 向かう先から2人組の男が肩を落として、落胆している様子が見られる。そんな2人組を見ていたら偶然と目が合ってしまい、なんだか気まずい空気になる。



「あ、どうも」



「「……」」



 挨拶をしてもこちらを睨んでくるだけ。明らかに不機嫌な気分なのだと判断したため、あまり関わらないようにしようとしたのだが…



「いや~どうやら荷物の中身を全て取られてしまってな…」



「畜生!女だからって油断するんじゃなかった…」



「それは…災難でしたね」



「アンタ達はこの先に行くのか?」



 自身達の目的地について新太はよく知らない。そのため目配せをして様子を伺っているとリオが手を引いてくる。



「もしこの先に行くのなら用心しといた方がいい。俺達の様に物を盗られたら元も子もないしな」



(なんだ…普通に冒険してる人か)



 この世界で、戦いに生きる者は食うか食われるかの弱肉強食な世界。物を盗られるぐらいの冒険者なんてその程度の実力者にしか過ぎない様な世界なのだ。



「まあ、気を落とさずに頑張れ。としかこっちからは言えないんで」



「ああ…そっちも気を付けて…」



 そして新太達は背を向けて移動を開始しようとした瞬間。突然新太は先程会話をしていた1人の男に羽交い絞めにされ拘束される。



「な、おま!?何しやがるんだ!」



「うるせえ!こちとらいきなり無一文になってお先が真っ暗なんだよ!」



「こいつの命が惜しいなら有り金全部置いていけ!」



「まあ、こんな事するとは思ってましたけどね…どうしますクメラさん」



「完全に油断していたアラタが悪いが…動かせるかアラタ?」



 腕を動かそうとしてみるが、相手も冒険者。一筋縄ではいかず不利な体勢から力を出そうとしても中々出来ない。



 緊迫した場面の中堂々と歩く者がたった1人だけ居た。



「は?な…んで」



「クメラさん!?」



「ぁ…ああ?おいっ!止まれよ…止まれって言ってんだろ!」



「お前達がそうなってしまったのは、自分達の不注意が原因なのではないか?」



「くっ!」



「私から大切な者を奪おうとしていると言うのなら、それを私は排除するだけだ」



 銀髪の女性が目をカッと見開くと、彼女を中心に地響きが起こりだす。そして次の瞬間新太の周りの地面が盛り上がっていき、近くに居た2人組は下から上へ押し出される様に空中へ投げ出されている。



「うお!?魔法ってやっぱりすげえ…」



 側に居た新太はその凄まじい魔法を見て、改めて関心する。空中に投げ飛ばされた2人は地面に落下しそのまま気絶した。



「さあ。先を急ごうか」



「あれ?この人達はどうします?」



「無論放置だ。無一文な奴らから奪う物なんて何もないだろう」



 そして3人はスタスタと歩き始める――。













「さてとこの辺りで休むとするか」



 道を外れ見渡しが良く、近くには浅い川が流れている場所に3人は移していた。



「先生!一つお願いしたい事があるんですけど」



「ん?どうした」



「いや…俺もそろそろ魔法とか使ってみたいな~って思い始めてるんですけど」



「まだお前には早いと思うんだがなあ」



「お願いします!なんか周りがどんどん魔法とか使ってるから、今のうちに使えるようになっておけば後々戦いやすくなると思うんで!」



 両手をパアンッ!と叩いて、この世界の魔法について教えて欲しいと懇願する新太。その誠意を見た彼女は腕を組んで悩んでいる。



「それならば、新太。体から魔力を出してみろ」



「ん?分かりました」



 言われた通りに自身の周りに魔力を出し、湯気の様に発せられる。その光景を見て目を瞑って頷いて、魔力を出すのを止めさせる。



「自分で出して何か変わった事に気づいたか?」



「いえ全然。これっぽっちもわかりません」



「お前はあの戦いを通して、魔力の『質』が上がったんだよ」



「魔力の…『質』?なんすかそれ」



「人の体は鍛えれば鍛える程強くなるだろ?魔力だって実戦経験をすれば、魔力の使える量だって増えるし、少量の魔力でもいつかは魔物化したロザリーの様に大きなクレーターだって作れるようになる」



「つまり、魔力も成長するってこと。でも生半可な戦いじゃあ『質』は上がらないらしくて…」



「どうすれば上がっていくんだよ?リオ」



「一番効率が良いのは、命を懸けた実戦。だな」



 あのロザリー戦で新太は生きるか死ぬかの戦いを経験した。その経験が今開花されつつある状況により、新太は内心喜んでいた。



「でも先生。どうやってそれを判別したんですか?」



「その魔力に色が薄く出てきているんだ。お前ならしっかりしていけば濃く着いてくるようになっていくだろうさ」



「色って、赤色とか青色とかが着く様になるんですか?というか俺何色?」



「それを今から判別するんだ。リオ…これを使ってアラタに見せてやってくれ」



 ズボンのポケットから何かを取り出し、リオに向かって投げる。受け取った時にリオも何をすればいいのかを理解した。



 渡されたリオの手には人差し指と親指で持てる程の大きさの透明な結晶が手にあった。



「え、何その透明な結晶…それで何すんの?」



「ま、とりあえずアラタはこの結晶を見ててね」



 言われた通り結晶に注目する。リオは魔力を出し、その魔力が段々と結晶に集まって行くのを新太は理解する。



 そして魔力が集められ、変化が生じていく。



「おぉ…」



 透明な結晶の中に小さく火が灯され、やがて熱を帯びていく。



「まあ火が灯ったということは、私は将来赤色になるってことなんだけど…」



 リオは口ごもりながら説明をする。



「前にこの世界の地脈について教えただろ?その結晶は属性に反応して変化するんだ。その結晶を武器や防具にも加工したりすんだよ」



「そうやって魔道具とかが作られるんだな~そして赤色ってことは、お前の使える属性はやっぱり『火』って事か」



「正確には、一番適している属性。だけどね」



 その光景を見せたリオはその結晶を新太に手渡すと、片目を瞑ってウィンクをしてくる。手渡された結晶を見て新太も魔力を込め始める。



 そしてほんの少し土埃が舞って目に入らない様に顔を伏せていると、魔力を込めた結晶が薄い緑色に光っていて、そこからは優しいそよ風が吹いていた。



「へえ~アラタはその属性なんだ…なんか意外」



「薄いけど緑色に光ってるけど…属性は?」



「お前は、『風』属性が最も適しているんだよ」



「風…属性」



「アラタが風属性かあ…うーん」



「え、なんかマズイ事とかあんの?」



 2人は腕を組み、難しい表情をして唸っている。



「いや…単純に相性が悪い…だな」



「は?」



「風属性はかなり工夫しながらじゃないと敵にダメージを与えるのが難しい。半端な風を当てて、相手に涼しい風を送っても意味ないだろ?」



「それに、魔力に関しての知識が足りてないアラタにはキツいかも…」



「そ、そんな」



 両膝を地面に落として、落胆する新太。もし違う属性だったのなら…やる気が変わったかもしれない。



(あ、いや待てよ。まだ希望を捨てるには早いぞ。まだ俺はこの世界のルールに当てはまらない可能性が…)



 属性という事は他にもあるはず。もしも1人に対して持てる属性は限られている可能性は捨てきれない。そして自身はこの世界ではイレギュラーに近い存在…もしかすると魔法に至っては他とは違う力が備わっているのではないかと考える。



「じゃあ先生。属性って他にどんなのがあるんですか?」



「火、水、土、風、雷…あと光、闇の7つだ」



「それって、属性は一人一つまでとかそういったルールとかありますか!?」



 キラキラと目を輝かせ、期待の眼差しを彼女に向けるのだが…。



「いや、努力次第で全属性使える」



「あぁ…」



 新太は静かに手を合わせて拝み始める。もしかしたら自分一人だけはルールに当てはまらない。そんな夢物語を描くのだが…真実は残酷なのである。



(風、風かあ…基本思いつくのは、相手を切り裂く、思い切り飛ばすみたいな技…が連想される…それかどっかの忍者漫画の技)



「さあ、魔力の説明は終わりにして、修行するぞ」



「それって魔法の修行!?」



「いや、今まで通りの接近戦の修行だ」



「先生!お願いしますぅ!魔法を使ってみたいんですぅぅ!」



 新太は思い切りの土下座を2人の前で披露した。何故かその姿を見てしまった2人は哀れむ様な視線を向ける。



「はあ……じゃあアラタ。逃げないって約束するか?」



「え…に、逃げないです」



「言質はしっかり取ったからな。…ん!!」



 彼女は新太の発言を聞くと、林方面に行き右手を一本の木に当てる。



 バアァァァァァァァァッ!!



 すると突然そこにあった木が吹き飛ばされ、切り株だけが残った。そんな突拍子もない出来事を目の当たりにした新太とリオは目を丸くしてただただ見ていた。



「先生…?一体何を?」



「お前には3日間与える。この期間の間に木を風の魔力で吹き飛ばしてみせろ」



「出来なかった場合は…」



「罰を与える」



 正直出来る気が微塵もしない。まだ新太には魔力関して知識は身体に纏わせて身体強化ぐらいしかわからない。



「あーそうだ。もう一つ」



「な、まだあるの?それか罰の内容…」



「違う、罰はまだ決めてない。重要な事だ」



「重要なこと…」



「この期間、私はお前に一切教えない」



「なぁ!?」



 脳裏によぎる絶望の文字。一体何故こんな事になってしまったのかを考えるのだが、思い当たる行動しかない。



「お前には少し、現実を知ってもらうしかない。魔法を使うためにはどれだけの訓練が必要なのかをな」



「ぐっ…じゃあ先生。もし俺がこの3日間で出来たら…こっちの要求を聞いて下さいね?」



「ああいいぞ。出来たらな」



「ハッハー!こっちも言質取りましたからねー!」



 話が終わった後、新太はすぐさま移動し林の方面へ姿を消した。この場に残ってしまった2人は、ただただ彼を待つしかない。



「先生…アラタは出来るんですか?」



「正直無理だろうなあ」



「最初の合格ラインが厳しすぎるし、ただでさえ属性魔力の動かし方をわかってないアラタに出来るとは思えないんですが」



「うーん。ただ私は確認しておきたいんだよ。アラタはロザリーとの戦いでかなり成長したと思う。新たな可能性を賭けて、この先を生き抜いて欲しいんだよ」



「それでも…私は出来ないと思います」



「それを決めるのは私達ではないよ。さてお前の事も鍛えないといけないしな!」



「…!よ、よろしくお願いします!」











「こう…体の周りにある魔力が腕をつたって…手に集める。そして魔力だけを…外へ!」



 新太は林の奥へ進み、一本の木に向かって両手を押し当てていた。そしてチュンチュンと小鳥が囀るだけで、木には何も起こらない。



「知ってたよ!ああ知ってたさ!どうせ俺は脳筋タイプの人だって!」



 新太が知っている魔力の知識は身体強化のみ。そこからどのように魔力を変化すればいいなんてのは分からない。



「まずは、風属性を出すところからか?魔力放出を始めるところからか?」



 頭を木に打ち付け、思いつくやり方をあれこれ模索するのだが、どれも自分に出来るとは思えなかった。



「とりあえずどっちも練習するしか無い…!」



 頭に思い浮かぶ練習法を手当たり次第に試す。木に張り手などを何度も打ち付けたり、気合いだけで魔力だけを出そうとしたり、有名な技の真似事で出そうとしたりと、かれこれ2時間近くを無駄にしていく。



「どう…すればいいんだ?」



 四つん這いになって落胆している新太は、どんどんと焦っていく。しかし速くなっている心臓の鼓動を落ち着かせて、今まで自分が経験してきた事を思い出す。



 それは最近の戦闘の出来事を思い出していた。他の者はどのように魔力を出していた?どうやって魔力を別の属性に変換させていた?



「自分の魔力から別の物質を生み出す…みたいな感じなのかな」



 両手が触れないように近づかせ、その手に魔力を集約させていくのだがその手からは何かが生み出されることはなかった。



「今回こそは、どうにもできない気がする…!」



「あー!」と声を出して唸っている新太に対して突然の足音が聞こえてくる。すぐに臨戦態勢を取る新太は相手の姿を確認すると、ため息を吐いて心を落ち着かせる。



「なんだリオか…どうした?全然進歩がない俺を笑いに来たのか?」



「なんでそうなるの。絶対足踏みしてるだろうから見に来ただけよ」



 そこには藍色髪をした少女。リオが木の裏から出てきたのだ。



「その様子だと良い結果とは言わなそうね」



「ああ。全然駄目だ…みんなどうやって魔法とか出してるのか分かんなくてさ」



「このままじゃ罰執行だ…。ああ、もしかしたら全裸で不思議な踊りをやらさせる可能性があるな」



 指を顎に当て内容を考察してみるのだが冷汗が出てくる。正直やりかねないものだから怖い。



「いや、でもそんな事はしないんじゃない?」



「もしかしたらって事があるだろ?あの人は前、黒革ボンデージ服着て夜の女王をしてたーとかだったら、やりかねないぞ」



「アラタはあの人をどんな目で見てんの!?」



「お、そうだ!リオ頼みがあるんだ」



「な、なによ。改まって」



「お前の炎を出す所見せてくれ!」



 両手をリオの肩に、バシン!と勢いよく置いて、懇願する。勢いに負け渋々見せることになるリオだが、別に嫌というわけではなかった。



「でもそれだと…クメラさんとの約束を破る事になるんじゃ?」



「いやそれは先生から直接ってことだろ?リオから教わっては駄目というルールは設けられてない!」



「屁理屈だなあ…」



「お願いします!助けてください!」



「じゃあやるわよ…ん!」



 リオの手には火柱が灯され、その間新太は少女の手を凝視していた。魔力がどのように動いているのか、集める瞬間はいつなのか?しかし見ていても何かがわかる事は無かった。



「何か分かった?」



「駄目だ…全然分かんない」



 目からは涙が流れそうになっている新太を見たリオは、奥の手を切り出す。



「手っ取り早く感覚を掴みたいなら、その使いたい属性に触れること」



 それを聞いても新太の顔は「?」を浮かべていた。それでもリオはお構いなしに解説を続けていく。



「仮に水属性の魔力を扱いたい時に実際に、水に触れる。水の中に潜る。水を飲む。などをして実際にその感覚を掴むやり方だってある」



「それをすれば出来るのか?」



「それは自分次第。出来る者も居れば、出来ない者も居る。そして、新太の場合『風属性』だから結構難しいと思う」



「……いや。それだけでもありがたいよ…頑張ってみる!」



「うん。頑張ってね」



「そう言えばさ…お前様子を見に来たって言ってたよな。どこから見てた?」



「えーっと…アラタが両手を前に出して、大きな声で「ハァー!」って変な構えをしてたのは見てた」



「…………今すぐ忘れてくれ」



「あ、最後に気になったけどさ。仮に3日間で出来た場合…アラタはあの人に何を求めるの?」



「え?ん~強いて言うなら………胸を揉ませてもらえないかなって思ってる」



「死ね!!」



「ギャアァッ!!」



 変態発言を聞いてリオの渾身の右ストレートが新太に炸裂し、鼻血が飛び出る。



「男は結局それか!そっちにしか目がいかないのか!」



「うるせー!!俺みたいに、思春期迎えた男ならな!あんな大きな物に触れたいもんなんだよ!そしたら世の男達のやる気は上がるんだよ!」



「ぐ…なんて奴!…とにかく最初は性質を変える練習をしとく事!わかったか!この変態!」



 ビシィ!っと指を指し新太に忠告するとリオはこの場を去ろうとする。



「リオ。ありがとう…絶対物にしてやるから!」



 そしてまた一人になる新太は手で両頬を叩き、気合いを入れ直し真っ直ぐ正面を向く。



(まずは、魔力を風に変える技術を身につける。そしてそれを放出する)



 口で言うのは簡単だが、実践するのは難しいのはわかっている。本来なら1ヵ月かあるいは1年かかる技術なのかもしれない。



 だがあれだけ啖呵きってしまった以上簡単に逃げてしまうわけにはいかない。新太にもプライドはあるのだ。  



 新太の頑張りは無駄に終わるのか、成功に終わるのかはまだわからない――。


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