キメラフレイムの謎とき動画:もう一つの雷獣対決①

 雷園寺穂村ことキメラフレイムが運営する配信動画が、四月の中頃に更新された。桜は徐々に散り始め、あるいは葉桜になっている所もあるが、春もたけなわと言って良いだろう。

 とはいえ、最初に出てきたのはいつものアバターでは無くてゲームの紹介動画のような物であったが。勘のいい視聴者たちであれば、それらがあやかし学園のファンゲームのようなものであった事に気付いたかもしれない。

 もっとも、最後には「⚠️少し遅いですがエイプリール・フール向けに作った動画です⚠️」というテロップが流れたのだが。


『月白五尾:ガチゲームのプロモーションかと思ったわ:\100』

『トリニキ:エイプリールフール向けって遅すぎ、遅すぎない?』

『りんりんどー:あそこまで凝ってるんだからしゃーない』


「はい、皆さんこんばんわ~早速ファンゲーム(仮)の動画を楽しんでいただけたでしょうか?」

「本当は、四月一日とか遅くとも四月初旬にあの動画はアップしたかったんですが、色々と動画作成に時間がかかってしまって、それで今回の配信と抱き合わせになったのです」


『ハチミツキ:それならしゃーない』

『ユッキー☆:キメラ君凝り性だから仕方ないね』

『トリニキ:妖怪のクリエイターは弱いな!! オレを見ろ!! 絶対に遅れないぞ!!』

『きゅうび:トリニキさん煽らない煽らない』

『燈籠真王:トリニキが言うと説得力があって草』


「そう言えば、あやかし学園公式チャンネルでもエイプリルフール動画が上がってましたよね」


 トリニキの発言を踏まえ、穂村は頷いた。「あやかし学園、シーズン4スタートか?」とか言う文言でもって、数分ばかりの短い動画が投稿されていたのだ。六花が京子に誘われて屋上でパンケーキを焼くという、何とも珍妙な動画だった。

 もっとも、これはエイプリールフール用の動画に過ぎず、内容自体もネットの海に散らばるネタでもって構成されたものらしいが。

 ネタについてはトリニキが監修していたので大体想像がついたり、それと解りつつも穂村たちがすっとぼけたりしているうちに、何となく盛り上がりを見せていた。


「……さて本題に入りましょう。今回は『もう一つの雷獣対決』というタイトルでお送りします。この動画の常連さんであるユッキー☆さんと、ハチミツキさんの画力対決ですね」


『オカルト博士:ユッキー☆君は常連どころか太客だろう』

『トリニキ:推しへの愛が太すぎるッピ!』

『しろきゅうび:金づる判定の恐れはないのかな?』


「私たちは良い子なので、視聴者の方を金づる扱いなんかしませーん!」


 ミハルの迫真の主張にてコメントを流しつつ、穂村は軽く説明を行った。

 元々は雉鶏精一派主導で幽世の神使たちとの交流会があったのだ。その際に三國と大瀧蓮がガチンコ勝負を行ったのが第一の雷獣対決である。

 それとは別に、三國の甥である雪羽と、蓮の弟分(血縁関係はない)である光希の間で、画力対決を行おうという話になったのだ。それ故に、もう一つの雷獣対決という名になっているのだ。


「ユッキー☆さんとハチミツキさんはお互いハクビシン姿の雷獣なのですが、絵を描くのが好きという共通点まであったのです。そこでどうやら、お二人で絵を描いて勝負してみようというお話になりまして」


『だいてんぐ:画力対決は平和で良いと思います』

『隙間女:あの時かなり焦ってましたもんね』

『MIKU♡:ワイは楽しんでたけど?』


「ともかく、画力対決の際はお二人には同じモデルを描いていただきました。丁度、モデルの志願者もいましたからね」


 ミハルの説明と共に、背後に一枚の写真が映し出される。

 それは一人の少女、もっと言えばケモ耳狐娘の写真だった。肩のあたりまで伸ばしたストレートヘアは輝くような白銀色であり、髪と同じ色の狐耳と四尾を具えている。よく見れば、銀髪のひと房(向かって右側、つまり左耳の直下だ)と狐耳の先端は淡いオレンジ色のアクセントがあったが、それはまぁ良かろう。

 問題は彼女(?)の服装であった。

 黒ないし濃紺、そして差し色としてパステルピンクや白のアクセントがあるそれは、本人曰く「地雷系要素を取り込んだチャイナドレス」との事だった。

 大まかなデザインはチャイナドレスを基調としているのだろうが、服の表面は刺繍やらレースやらフリルやらがふんだんにあしらわれていた。シンプルに見えつつも趣向を凝らした服装。それも装飾の一部は地の服と同じ色なので解り辛くもなっている。

 問題は問題でも、絵師泣かせの服装である。絵師の道に足を踏み入れていない穂村でも、モデルの服装の難しさには目ざとく気付いていた。


『ラス子:ちょっとまって、京子ちゃんじゃないやん!』


「ええと、今回モデルになってくださったのは、那須野ミク氏でございます。彼、いえ彼女……? はあやかし学園の監督でもあり、メイド喫茶でのバイトの経験もあるそうです。まぁその……一昨年割れた殺生石の化身という設定、では無くて来歴のようです」


『トリニキ:殺生石の化身(大嘘)』

『ユッキー☆:⚠️蕾花ニキにはまったく似ていません!⚠️ ただの女装好きな変態ナレギツネです!』

『オカルト博士:殺生石の化身ではないけど……子孫だから多少はね?』

『見習いアトラ:流れ弾喰らってる狐がいるの草』


「ちなみにミクさん、現在は無事に闇堕ちしており、この世に混沌をもたらすともコメントをしていました」


『だいてんぐ:きゅうび君ノリノリじゃあないか(呆れ)』

『月白五尾:現世でも邪神系妖狐が解き放たれるのか……』

『絵描きつね:殺生石の化身でもこんなに違うとはな』

『サンダー:そもそも京子ちゃんで良かったのでは?』

『きゅうび:ワイは京子ちゃんやミクちゃん以外にも変化できるんやで』

『トリニキ:正体現したね(ゲス顔)』

『ユッキー☆:元からバレバレだったんだよなぁ……』


 とまぁ、こんな感じで開幕早々盛り上がっていたのだった。

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