第2話 何気ない日々

 午前6時30分。彼女はスマホから鳴り響くアラームの音で目を覚ました。

 彼女の名前は平井由香里。地元の大学に通う1年生である。

「ん…んん…」

 彼女は眠たそうに目を擦りながらベッドから降りる。

「早く学校へ行く支度をしなくちゃ…」

 由香里は独り言を零すと寝室を出て階段をゆっくりとした足取りで降り始めた。


 傍から見れば至って普通の日々を送っているかのように見えるだろう。

 けれど、平凡な日々は2年ほど前に終わってしまった。

 今から2年前、詳しいことは分からないがある研究所から起きた火災が原因で、時空に歪みが生じたらしい。そのせいで過去の時代から現代へ来てしまう人が増えたのだとか。


 いくら時代が違えど同じ人間。無礼な態度を取らずに普通に接すればみんな自分たちと何ら変わりない人達だった。

 現にそのおかげで由香里は英樹と三郎という掛け替えのない友達とも出会えた。


 井口英樹は明治時代から令和時代に来てしまった20代の青年だ。向こうに居た頃も令和でも研究職をしているという。


 山木三郎は鎌倉時代から令和時代に来てしまったという武士だ。年齢はまだ20代の青年だ。


 両人とも話し方は現代人と比べれば古めかしいものの、考え方などは年相応の若者という感じで。

 由香里はそんな2人のことを大切な友人だと思っていた。


 けれど、友人達とまったり過ごす日々もそう長くは続かなかった。ある出来事をきっかけに日本が、世界が。無法地帯になってしまった。犯罪が横行し、いつ命を奪われるかも分からない。犯罪が多すぎて全てを取り締まりきれない。そんな悪夢のような世の中になってしまったのだ。


 由香里が暮らしているのは人口減少が目立つ地方。幸い、他の地域と比べて犯罪件数も少なく、比較的安心して過ごせた。


 由香里は卵焼きを作り、ウインナーを焼くと、ふっくら炊けたご飯をお椀に装う。

 由香里の両親は共働きで普段は由香里が家事をやっている。

 朝食が終わると、家族の洗濯物を干す。一通り家事を終えた由香里は庭先で大きく背伸びをした。

 ふと郵便受けに大量の紙が詰まっているのが目に入る。

 取り出してみると、全て由香里宛の手紙みたいだ。差出人の名前には「井口英樹」と丁寧な達筆で書かれている。


 秀樹はある日を境に毎日毎日、大量の手紙を書いて家のポストに投函していく。

 手紙の内容は秀樹自身の日常や研究の状況、由香里に対する思いや褒め言葉などが殆どであった。

 彼から初めて大量の手紙を贈られた時は驚いたけれど、今となってはこんな事には慣れっこだ。

 学校から帰って返事を書いて彼に直接渡せばいいだろう。

 そう思いながら由香里は手紙を自身の部屋の机の上に置いた。


 そして、教科書にパソコンをリュックに入れ、玄関を出る。


「今日も平穏な一日でありますように」

 そんな願いを胸にして、由香里は最寄り駅へと向かった。



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世界が無法地帯になったけれどヤンデレな友人が守ってくれます NAZUNA @2004NAZUNA

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