第14話 まじで・・・?

パワハラされた。私がそう感づくのに、しばらく時間がかかった。

上司と二人きりの実習室。この日は、シーケンス制御装置に使う電線のメンテナンスをしていた。電線がぼろぼろになって、端子が抜けてしまったり、原型を留めていなかったりするものが増えてきたので、上司からメンテナンスを依頼されたのだ。作業内容としては、電線を剥いて中の銅線にY型端子を通してはんだで固定する。という、手先と目を酷使するものだった。はんだ付けなんか中学生以来の私には、至難の業だった。そんな私に、上司は、「今までよくそんなんで助手やってこれたね、とか言われたことないの?」「先生の手付きを見ていると、どうにも合わないような気がするんだけど」と、猛毒を吐いた。

私は、たしかに今まで色んな場所でいじめられた。パワハラだって受けてきた。しかし、流石にその一言はなかった。ちなみに今まで言われたことは、「あなたの代わりはいくらでもいる」「あなたがいなくてもこの学科は回る」(ちなみに初任のとき)くらいだった。だから、その衝撃は大きかった。さらに、私が普段暇で、職員室でゆっくりしていることさえ「税金泥棒」なんだそうで。

こんな分かりやすいパワハラは初めてだった。そして、猛毒は更に続く。

「向いてないから他の仕事に変わったら?」

皆さん御存知の通り、教員は現在深刻な人手不足・精神疾患患者の増加が問題となっている。特に工業は大問題である。もし、私がここで職を辞すればどんなに大変なことになるか分からないのだろうか?また、精神疾患を持つ私にとって、もしこの言葉がきっかけで命を落としてしまったら、彼はどうやって責任を果たすのだろう?

それくらいの暴言を人に吐くことが、どれだけ重罪なのか彼は分かって言っているのだろうか?

私は確かに手先は不器用だし、ものづくりが好きかと聞かれたら、すぐに首を縦には振れない。それに、いろんな学科を回ってきたので技術も固まっていない。休職期間も長かったし。忘れていることが多すぎる。まだまだこれからだ、と思うようにしていた。が・・・。

これはあまりにもひどいと思った私は、しばらく悩んだ末、校長室のドアを叩いた。

そして、校長に、まずは校内でパワハラが起こった場合はどう対応していくのか問うた。これは、私が校長のことをあまり信用してないからだ。なぜなら、実は復帰後に私は彼とひと悶着あったため(そこでも実は暴言を吐かれた)である。

しかし、そこは流石に厳重に処理するとのことで、私は少し安堵した。それから私は話を切り出した。すると・・・。

「実はさ、そのことなんだけど」校長は言った。「上司さんが、僕に『言い過ぎた』って報告に来たんだ」まじで・・・?!

どうやら上司、私に税金泥棒とか色々言ったあと、校長に言い過ぎてしまったことを報告しに来たらしい。・・・パワハラの自覚あんじゃん。そして、私に「向いてない」と言ったことも、実は他の教員との笑い話の中でのことで、実は私のことを影で褒めていた、ということもあとになって分かった。しかしよ上司。「大抵の人はあれ程言うとだいたい休んだり辞めたりしてしまうのに、彼女はよくやってくれてる」って、自分でパワハラしてる意識あるじゃん・・・。どうするの、そんなこと言って人が自殺したら。あんたはもっと、自分の言葉に責任と自覚を持とうね!!ビビリのくせに!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

どん底実習助手 結井 凜香 @yuirin0623

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ