子供達と神々の神楽 ～赤の章～

発見、付喪神

（「成（な）る程（ほど）、分（わ）かりました……」）

　二（に）年（ねん）生（せい）の教（きょう）室（しつ）を、隠（かく）れて外（そと）から監（かん）視（し）していたスセリは、サルタからの念（ねん）話（わ）を受（う）け取（と）りそう念（ねん）話（わ）を返（かえ）した。

　スセリはサルタからの念（ねん）話（わ）を受（う）け考（かんが）える。

（背（せ）格（かっ）好（こう）の近（ちか）い、子（こ）供（ども）の教（きょう）室（しつ）を探（さが）ってはみたけど、サルタの話（はな）しが本（ほん）当（とう）なら、こっちは無（む）駄（だ）足（あし）だった様（よう）ね。とは言（い）え、私（わたし）の考（かんが）えていた以（い）上（じょう）に収（しゅう）穫（かく）は有（あ）った）

「皆（みんな）、龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）が助（たす）けに来（き）た！」

　校（こう）内（ない）……

　正（せい）確（かく）には二（に）年（ねん）二（に）組（くみ）の教（きょう）室（しつ）から、スセリの耳（みみ）に葉（よう）司（じ）の声（こえ）が聞（き）こえて来（き）た。

「皆（みんな）、目（め）を閉（と）じろ。龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）、流（る）鱗（りん）纏（てん）で茶（ちゃ）色（いろ）い霧（きり）を外（そと）に出（だ）せ！」

「キュゥゥー」

　葉（よう）司（じ）の言（こと）葉（ば）を合（あい）図（ず）に龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）は鳴（な）き、龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）の鳴（な）き声（ごえ）と共（とも）に教（きょう）室（しつ）内（ない）に風（かぜ）が巻（ま）き起（お）こる。

　　ブオーン

　開（ひら）いた窓（まど）から、茶（ちゃ）色（いろ）い霧（きり）の様（よう）なモノが外（そと）に放（ほう）出（しゅつ）されるのを確（かく）認（にん）したスセリは思（おも）う。

（へぇ、流（る）鱗（りん）纏（てん）で付（つく）喪（も）神（がみ）の生（う）み出（だ）した霧（きり）を外（そと）に出（だ）すなんて。本（ほん）人（にん）が考（かんが）えたのか北（ほく）斗（と）の入（い）れ知（ぢ）恵（え）か、思（おも）ったより早（はや）く解（かい）決（けつ）した事（こと）を考（かんが）えると、成（せい）長（ちょう）しているのでしょうね……）

　屋（おく）上（しょう）に移（い）動（どう）したスセリは、クスクス笑（わら）いながら霧（きり）の様（よう）なモノを生（う）み出（だ）している付（つく）喪（も）神（がみ）に念（ねん）話（わ）を送（おく）る。

（「潮（しお）時（どき）よ付（つく）喪（も）神（がみ）ルック。グラウンドに出（で）て巨（きょ）大（だい）化（か）して戦（たたか）いなさい！　なるべく葉（よう）司（じ）達（たち）に見（み）付（つ）かる様（よう）にね」）

　念（ねん）話（わ）を受（う）け取（と）った付（つく）喪（も）神（がみ）は大（おお）声（ごえ）で叫（さけ）ぶ。

「アンタレース！」

　付（つく）喪（も）神（がみ）ルックはスセリの言（い）われた通（とお）り、葉（よう）司（じ）達（たち）三（さん）人（にん）に見（み）付（つ）けてもらう為（ため）動（うご）き出（だ）す。

　ガラ　ガラ　ガラ

　　ピョン　

　　　ゴロ ゴロ ゴロ

　隠（かく）れて居（い）た職（しょく）員（いん）室（しつ）の引（ひ）き戸（ど）を両（りょう）腕（うで）で開（あ）け、戸（と）棚（だな）を飛（と）び降（お）りると、体（からだ）を転（ころ）がしながら付（つく）喪（も）神（がみ）ルックは移（い）動（どう）を始（はじ）めた。

　その後（ご）、北（ほく）斗（と）と狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）が職（しょく）員（いん）室（しつ）や宿（しゅく）直（ちょく）室（しつ）を探（さが）すが、付（つく）喪（も）神（がみ）ルックは見（み）付（つ）から無（な）い。

　北（ほく）斗（と）と狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）は、一（いっ）階（かい）の家（か）庭（てい）科（か）室（しつ）に向（む）かう為（ため）、第（だい）一（いち）音（おん）楽（がく）室（しつ）の前（まえ）の階（かい）段（だん）に移（い）動（どう）。

　三（さん）階（かい）に有（あ）る三（さん）年（ねん）生（せい）の教（きょう）室（しつ）へ向（む）かう為（ため）に、階（かい）段（だん）を有（あ）がって来（き）た葉（よう）司（じ）と龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）に出（で）くわす。

「北（ほく）斗（と）、付（つく）喪（も）神（がみ）は見（み）付（つ）かったか？」

「職（しょく）員（いん）室（しつ）や宿（しゅく）直（ちょく）室（しつ）には居（い）なかったよ、今（こん）度（ど）は……」

　　コトン

　そう言（い）い掛（か）けた北（ほく）斗（と）の足（あし）に、何（なに）かが当（あ）たった。

「何（なん）だコレ？」

　持（も）ち上（あ）げた北（ほく）斗（と）と、それを見（み）ていた葉（よう）司（じ）はソ（・）レ（・）が付（つく）喪（も）神（がみ）ルックだと気（き）が付（つ）く。

（（！））

　理（り）由（ゆう）は、円（えん）柱（ちゅう）状（じょう）の瓶（びん）に棒（ぼう）人（にん）間（げん）の様（よう）な足（あし）が、蓋（ふた）に棒（ぼう）人（にん）間（げん）の様（よう）な腕（うで）が付（つ）いていた為（ため）。

「アンタレース」

　付（つく）喪（も）神（がみ）ルックはそう叫（さけ）ぶと、器（き）用（よう）に自（じ）身（しん）の体（からだ）にを掛（か）け、クルクル回（まわ）して体（からだ）の蓋（ふた）を開（あ）けると、分（ぶん）離（り）した蓋（ふた）を床（ゆか）に捨（す）てる。

　すると瓶（びん）の中（なか）から霧（きり）状（じょう）の粉（ふん）末（まつ）が姿（すがた）を現（あら）わし、二（に）階（かい）の広（ひろ）間（ま）の方（ほう）へ逃（に）げて行（い）った。

「……、待（ま）て！」

「……、待（ま）って！」

　驚（おどろ）いて葉（よう）司（じ）と北（ほく）斗（と）は我（われ）に返（かえ）り、葉（よう）司（じ）はそのまま、北（ほく）斗（と）は持（も）っていた瓶（びん）を階（かい）段（だん）にそっと置（お）いてから、霧（きり）状（じょう）粉（ふん）末（まつ）の付（つく）喪（も）神（がみ）ルックを追（お）い駆（か）けて行（い）く。

　二（に）階（かい）の広（ひろ）間（ま）に、葉（よう）司（じ）と北（ほく）斗（と）が到（とう）着（ちゃく）したのを確（かく）認（にん）した付（つく）喪（も）神（がみ）ルックは、葉（よう）司（じ）の開（あ）けた窓（まど）からグラウンドに出（で）、校（こう）舎（しゃ）や校（こう）舎（しゃ）外（がい）に吹（ふ）き出（だ）され漂（ただよ）っていた茶（ちゃ）色（いろ）い霧（きり）の様（よう）なモノを自（じ）身（しん）に吸（きゅう）収（しゅう）。

　巨（きょ）大（だい）化（か）する。

「「きゃぁぁぁ！」」

　巨（きょ）大（だい）化した付（つく）喪（も）神（がみ）ルックは、霧（きり）の巨（きょ）神（じん）の様（よう）な姿（すがた）と成（な）り、それを見（み）た生（せい）徒（と）や先（せん）生（せい）達（たち）は悲（ひ）鳴（めい）を上（あ）げた。

「うわぁ!!」

　龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）と共（とも）にベランダに出（で）て驚（おどろ）く葉（よう）司（じ）に、同（おな）じく狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）と共（とも）にベランダに出（で）た北（ほく）斗（と）が言（い）う。

「葉（よう）司（じ）君（くん）、龍（りゅう）蛇（じゃ）丸（まる）の風（かぜ）でアイツの動（うご）きを止（と）めて！」

「結（けっ）界（かい）はどうするんだよ！」

　北（ほく）斗（と）の言（こと）葉（ば）に葉（よう）司（じ）がそう言（い）い返（かえ）すと、北（ほく）斗（と）が説（せつ）明（めい）する。

「今（いま）の状（じょう）況（きょう）じゃ、たぶん恵（え）理（り）花（か）ちゃんが教（きょう）室（しつ）から離（はな）れるのはムリだよ。とにかく今（いま）は付（つく）喪（も）神（がみ）の動（うご）きを止（と）めよう、恵（え）理（り）花（か）ちゃんの方（ほう）はボクが何（なん）とかするから！」

「……分（わ）かった。龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）、行（い）くぞ！」

　そう言（い）いながら、葉（よう）司（じ）は臣（おみ）器（き）のキーホルダーを掲（かか）げた。

　すると一（いち）陣（じん）の風（かぜ）が吹（ふ）き抜（ぬ）け、校（こう）舎（しゃ）内（ない）から葉（よう）司（じ）と龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）が消（き）え。

　グラウンドに巨（きょ）大（だい）な状（じょう）態（たい）の龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）が姿（すがた）を現（あら）わす。

　少（すこ）しずつ校（こう）舎（しゃ）に近（ちか）付（つ）く付（つく）喪（も）神（がみ）ルックに、葉（よう）司（じ）は龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）の中（なか）から言（い）う。

「おい、霧（きり）野（や）郎（ろう）！」

（とにかく、北（ほく）斗（と）の言（い）う通（とお）りコイツの動（うご）きを止（と）めねぇと）

　そう葉（よう）司（じ）が考（かんが）えていると、付（つく）喪（も）神（がみ）ルックは葉（よう）司（じ）の声（こえ）に反（はん）応（のう）し、龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）目（め）掛（が）けてゆっくりと近（ちか）付（づ）いて来（く）る。

「龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）、流（る）鱗（りん）纏（てん）でアイツを閉（と）じ込（こ）めるぞ！　教（きょう）室（しつ）の窓（まど）ガラスには気（き）を付（つ）けろよ」

「キュゥゥー」

　葉（よう）司（じ）の命（めい）令（れい）を承（しょう）諾（だく）した龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）が鳴（な）くと、葉（よう）司（じ）は言（い）う。

「龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）。霧（きり）巨（きょ）人（じん）に流（る）鱗（りん）纏（てん）！」

　　ブオーン　

　龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）の生（う）み出（だ）した風（かぜ）の流（なが）れはグラウンドを覆（おお）い、暴（ぼう）風（ふう）となって付（つく）喪（も）神（がみ）ルックと龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）を閉（と）じ込（こ）めた。

「コレで此（こ）処（こ）から動（うご）けねぇだろ、悔（く）やしかったらかかって来（き）な」

　■■■■

　　ガゴン　ガゴン　ガゴン

　教（きょう）室（しつ）の外（そと）に出（で）ていた太（たい）耀（よう）、恵（え）理（り）花（か）、薫（かおる）、澪（みお）の四（よ）人（にん）と刻（とき）代（よ）は、狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）の足（あし）音（おと）で北（ほく）斗（と）が近（ちか）付（づ）いて来（く）る事（こと）に気（き）付（づ）く。

　そして刻（とき）代（よ）の近（ちか）くには恵（めぐみ）も居（い）る。

「狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）、安（あん）心（しん）し。天（てん）狗（ぐ）丸（まる）逃（に）げて行（い）った」

　太（たい）耀（よう）が少（すこ）し大（おお）きな声（こえ）で言（い）うと、北（ほく）斗（と）が廊下（ろうか）の死（し）角（かく）から現（あら）れて言（い）う。

「良（よ）かった、どうやって追（お）い払（はら）ったの？」

「それよりお前（まえ）、何（なん）で狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）と一（いっ）緒（しょ）に居（い）るんだ？」

　しかし太（たい）耀（よう）は、澪（みお）達（たち）に怪（あや）しまれないようにそう言（い）い返（かえ）し、北（ほく）斗（と）は慌（あわ）て答（こた）える。

「偶（ぐう）然（ぜん）会（あ）ったんだ。教（きょう）室（しつ）を出（で）て直（す）ぐ、声（こえ）で天（てん）狗（ぐ）丸（まる）が教（きょう）室（しつ）に居（い）るの分（わ）かったから、追（お）い払（はら）ってもらおうと思（おも）って案（あん）内（ない）してきたんだけど……」

　すると刻（とき）代（よ）が、少（すこ）し嬉（うれ）しそうに北（ほく）斗（と）に言（い）う。

「あの天（てん）狗（ぐ）なら、白（はく）銀（ぎん）の髪（かみ）の女（おんな）の子（こ）が追（お）い払（はら）ったわよ」

「虚（こ）蝶（ちょう）が現（あら）われ……――」

　更（さら）に太（たい）耀（よう）が、続（つづ）けて補（ほ）足（そく）の説（せつ）明（めい）をしようとするが……

　狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）に気（き）が付（つ）いた渡（わた）辺（なべ）先（せん）生（せい）が、教（きょう）室（しつ）から出（で）て来（き）て狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）に近（ちか）付（つ）きながら、その言（こと）葉（ば）を遮（さえぎ）る。

「お前（まえ）は、あの時（とき）の狼（おおかみ）ロボット！」

　そして北（ほく）斗（と）に目（め）を向（む）け、かなり強（つよ）い口（く）調（ちょう）で言（い）う。

「それと北（ほく）斗（と）、お前（まえ）教（きょう）室（しつ）に居（い）ろっつただろうが。澪（みお）と言（い）いお前（まえ）と言（い）い、大人（おとな）しいのか行（こう）動（どう）力（りょく）が有（あ）るのかハッキリしろ！」

　その様（よう）子（す）を澪（みお）が少（すこ）しビクついて見（み）ていると、渡（わた）辺（なべ）先（せん）生（せい）に北（ほく）斗（と）は申（もう）し訳（わけ）なさそうに言（い）返（かえ）す。

「ゴメンなさい、でもそんな言（い）い方（かた）ないんじゃ……」

　その言（こと）葉（ば）と北（ほく）斗（と）の姿（すがた）に、渡（わた）辺（なべ）先（せん）生（せい）は自（じ）分（ぶん）の落（お）ち度（ど）に気（き）付（づ）き、今（こん）度（ど）は落（お）ち付（つ）いた口（く）調（ちょう）で北（ほく）斗（と）に話（はな）し掛（か）ける。

「……確（たし）かに今（いま）のは、先（せん）生（せい）が余（よ）計（けい）な言（こと）葉（ば）を言（い）った。悪（わる）い」

「ボクも勝（かっ）手（て）な事（こと）をしてゴメンなさい……」

　北（ほく）斗（と）がそう言（い）って頭（あたま）を下（さ）げると、渡（わた）辺（なべ）先（せん）生（せい）は言（い）う。

「分（わ）かってくれれば良（い）い、それより葉（よう）司（じ）は如何（どう）した。一（いっ）緒（しょ）じゃないのか？」

　そう聞（き）かれた北（ほく）斗（と）は、咄嗟（とっさ）に嘘（うそ）を付（つ）く。

「さっき、ボク達（たち）は狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）達（たち）と会（あ）ったんですけど。葉（よう）司（じ）君（くん）は龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）について行（い）っちゃって……」

「龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）って、確（たし）かあのグラウンドに居（い）る奴（やつ）だよな」

「はい」

　北（ほく）斗（と）がそう返（へん）事（じ）をすると、渡（わた）辺（なべ）先（せん）生（せい）は少（すこ）し考（かんが）えてから、狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）に向（む）かってお願（ねが）いをする。

「狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）、悪（わる）いが組（クラス）の子（こ）供（ども）達（たち）を護（まも）っててくれないか？　俺（おれ）は葉（よう）司（じ）と言（い）う子（こ）供（ども）を探（さが）してくる」

　そして刻（とき）代（よ）に向（む）けても言（い）う。

「伏（ふし）見（み）、悪（わる）いけど田（た）原（はら）先（せん）生（せい）に説（せつ）明（めい）頼（たの）めるか？」

　そう言（い）い終（お）わった渡（わた）辺（なべ）先（せん）生（せい）は、葉（よう）司（じ）を探（さが）しに駆（か）けて行（い）ってしまう。

「流石（さすが）に心（しん）配（ぱい）なんでしょうね。善（ぜん）人（にん）で良（よ）かったわ」

　刻（とき）代（よ）がそう言（い）うと、恵（めぐみ）が刻（とき）代（よ）に聞（き）く。

「何（なん）の事（こと）？」

　すると刻（とき）代（よ）は微（ほほ）笑（え）んで教（おし）える。

「天（てん）狗（ぐ）に立（た）ち向（む）かったり、目（め）を盗（ぬす）んで助（たす）けを呼（よ）ぼうとする担（たん）任（にん）が、渡（わた）辺（なべ）先（せん）生（せい）で良（よ）かったって話（はな）し」

　そこまで言（い）って刻（とき）代（よ）は、北（ほく）斗（と）を横（よこ）目（め）で確（かく）認（にん）した後（のち）、心（しん）配（ぱい）そうな顔（かお）で恵（めぐみ）に言（い）う。

「それより恵（え）理（り）花（か）と薫（かおる）は大（だい）丈（じょう）夫（ぶ）？　何（なに）か物（もの）凄（すご）く不（ふ）安（あん）そうだけど」

　太（たい）耀（よう）はその言（こと）葉（ば）を聞（き）き、ある事（こと）を思（おも）い出して北（ほく）斗（と）に耳（みみ）打（う）ちをする。

「北（ほく）斗（と）、ちょっと」

「何（なに）？」

　北（ほく）斗（と）がそう小（こ）声（ごえ）で聞（き）き返（かえ）し、刻（とき）代（よ）はその様（よう）子（す）を確（かく）認（にん）して二（ふ）人（たり）に聞（き）く。

「二（ふ）人（たり）共（とも）、如何（どう）したの？」

　不（ふ）思（し）議（ぎ）そうな顔（かお）の刻（とき）代（よ）に、太（たい）耀（よう）が言（い）い返（かえ）す。

「トイレだよ、トイレ」

「それなら私（わたし）も……」

　太（たい）耀（よう）の言（こと）葉（ば）に薫（かおる）がそう続（つづ）け、太（たい）耀（よう）、北（ほく）斗（と）、薫（かおる）の三（さん）人（にん）はトイレへと向（む）かう。

　それを見（み）送（おく）った澪（みお）に、刻（とき）代（よ）は念（ねん）話（わ）を送（おく）る。

（「追（お）わなくて良（い）いわよ。スセリの方（ほう）も、そろそろ潮（しお）時（どき）みたいだしね」）

（「分（わ）かった」）

　念（ねん）話（わ）で澪（みお）からの返（へん）事（じ）を貰（もら）った刻（とき）代（よ）は、少（すこ）し悩（なや）む。

（とは言（い）ったものの、あの子（こ）達（たち）だけで大（だい）丈（じょう）夫（ぶ）かしらね？　まぁ私（わたし）達（たち）がこんな所（ところ）に居（い）たら、トイレから戻（もど）って来（き）た時（とき）邪（じゃ）魔（ま）だろうし……）

　そう考（かんが）えた刻（とき）代（よ）は、恵（え）理（り）花（か）に向（む）かって言（い）う。

「そろそろ教（きょう）室（しつ）に入（はい）りましょう。葉（よう）司（じ）君（くん）が心（しん）配（ぱい）なのは分（わ）かるけど、皆（みんな）の近（ちか）くに居（い）た方（ほう）が気（き）が紛（まぎ）れるかも知（し）れないわよ？」

　そう言（い）われ、恵（え）理（り）花（か）は少（すこ）し考（かんが）えてから返（へん）事（じ）を返（かえ）す。

「うん、分（わ）かった。それより刻（とき）代（よ）ちゃんは教（きょう）室（しつ）に戻（もど）らなくて良（い）いの？」

「先（せん）生（せい）が大（おお）目（め）にみて来（く）れてるけど、確（たし）かにそうね。それじゃ私（わたし）は貴女（あなた）が教（きょう）室（しつ）に戻（もど）ったら、私（わたし）も教（きょう）室（しつ）に戻（もど）る。貴女（あなた）が心（しん）配（ぱい）だし］

　刻（とき）代（よ）にそう言（い）われ、恵（え）理（り）花（か）は教（きょう）室（しつ）に戻（もど）って行（い）く。

「貴方（あなた）達（たち）も、早（はや）く戻（もど）りなさい。狼（おおかみ）さん、後（あと）はよろしくね」

　澪（みお）、恵（めぐみ）、狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）にそう言（い）って、刻（とき）代（よ）は自（じ）分（ぶん）の教（きょう）室（しつ）に戻（もど）って行（い）った。