謎の女神から100兆個のスキルをもらったんだが、正直扱いきれねえよ!~金髪碧眼の幼馴染と辺境でギルドを作って、最強スローライフ~
謎の女神から100兆個のスキルをもらったんだが、正直扱いきれねえよ!~金髪碧眼の幼馴染と辺境でギルドを作って、最強スローライフ~
謎の女神から100兆個のスキルをもらったんだが、正直扱いきれねえよ!~金髪碧眼の幼馴染と辺境でギルドを作って、最強スローライフ~
永菜葉一
謎の女神から100兆個のスキルをもらったんだが、正直扱いきれねえよ!~金髪碧眼の幼馴染と辺境でギルドを作って、最強スローライフ~
はてさて、今日も今日とて村の入口でお仕事だ。
俺の名はレオ。このミカミ村で門番の仕事をしている。
年齢は17歳。
まあ、小さい村なんで門なんてないし、基本的にはただ銅の剣を下げて村の入口に立ってるだ。それでも大切な役目ではある。ウチの親父曰く、10年に一回くらいはこの村にも魔獣が出るそうなので、日々警戒しておくに越したことはない。
「今日も一日、何事もなく過ぎますように……っと」
そんなことをつぶやきつつ、柵の横の定位置につく。すると、村の方から騒々しい声と足音が聞こえてきた。
「レオーっ! レオ、レオ! たいへんたいへんーっ」
「ん? アスティ?」
振り向くと、ブロンド碧眼の村娘が駆け寄ってきていた。見た目はまるで王都のお姫様のような美少女だ。しかし王族のような落ち着きはなく、腕に下げたバスケットを揺らしながら、大慌てで走ってくる。
名前はアスティ。
ウチの隣に住んでいる、俺の幼馴染である。
「こんな朝っぱらからどうした? 昼の弁当持ってきてくれるには早過ぎるだろ……もごっ!?」
一体、全体どういうことなのか。アスティはバスケットからパンを取り出すと、それを俺の口に押し込んできた。
「これ、レオん家のおばさんから預かってきた、いつものお弁当! 早く食べて食べて! 急がなくっちゃ!」
「もごもご……もぐっ! いやどういうことだよ!? まだ朝! さっき朝飯食ったばっかり! ってか、急ぎか何か知らんけど、いきなり人の口にパン押し込むな! 窒息するわ!」
「えー? でも急いでるし!」
「知らんがな! お前の都合で人を窒息させるんじゃありません!」
「も~、そんなこと言って、美少女のアスティちゃんに『あーん』してもらえて嬉しいくせにー」
「助走をつけて右ストレートのごとく押し込むことを『あーん』とは言わねえから! とにかく落ち着け。一旦、止まれ。良い子だから」
「むー、致し方ない。アスティちゃんは良い子なので一旦止まってあげましょう。お礼を言いなさい」
「ありがとうございます」
「よろしおす」
「感謝感激……いやなんで俺が平身低頭してんだよ!?」
思わず丁寧にお辞儀してしまい、我に返って叫ぶ。しかし一応、アスティの勢いを止めることはできた。俺は残りのパンをかじりつつ、一呼吸おいて話を向ける。
「で、一体どういうことなんだ? 冷静に話してくれ。いいか? 冷静にだぞ?」
「ん、りょーかい。あ、ミルクもあるよ? 飲む?」
「頂きたい」
「頂かせてあげましょう」
アスティはバスケットから蓋つきのポットを取り出し、カップにミルクを注いでくれる。それをもらって飲みながら、俺は話を聞いた。
「あのね、今日もね、レオん家でおばさんとお仕事しようとしてたの」
「ふむ、いつも通りだな」
このミカミ村は織物業が盛んだ。ウチの母親も布を織って商人に卸していて、アスティはいつもその手伝いをしてくれている。そんな感じで毎日ウチに出入りしているので、昼になると母親が作った弁当をアスティが届けてくれる、というのが日常だ。
「でね、織物の糸を外の物置に取りにいったら、ジルお爺ちゃんが通り掛かってね」
「あー、キャベツ畑やってるジル爺さんか」
「最近、ジルお爺ちゃんの畑が水不足で枯れちゃいそうなんだって」
「水不足? でも一昨日も雨降ったばかりだろ?」
「そう! 不思議でしょ? ジルお爺ちゃんも不思議がってた。何十年も畑やってるけど、こんなことは初めてだって」
「んー、そうか。それは大変だな。ただ……」
なんか嫌な予感がしてきた。俺はコップを傾けつつ、目を逸らす。しかしアスティはすぐに察し、俺の視界へと回り込んできた。
「だからあたし、ジルお爺ちゃんに言ったの! その謎現象、あたしとレオが解決してあげる、って! つまりは――依頼がきたの!」
アスティは目をキラキラさせて、ばばーんっとポーズをつける。
「ミカミ村唯一のギルド『獅子の軌跡』の出番だよ! 今回の依頼は『枯れた畑を復活させること』。というわけだから現場にいくよ! 早く早く!」
……あー、やっぱそういうことかー。
嫌な予感が的中した。刺激の少ない村暮らしのせいか、アスティは子供の頃からこういう『ギルドごっこ』が大好きなのだ。それは17歳になった今も変わらず、村人が困っているのを見つけると、依頼と称して解決しようとする。
で、当然のように幼馴染の俺も引っ張り出されるというわけだ。
いやまあご近所さんが困ってたら助けるのはぜんぜんいい。もしアスティより先にジル爺さんの話を聞いていたら、俺も行動を起こしただろうし。
でもこの歳になってギルドごっこは、しんどい。だいぶしんどい。
そもそもギルドなんてものは大きな街にあるもので、設立には領主の認可が必要だ。当然、田舎者の俺たちは認可なんて得ていない。ミカミ村唯一のギルドというのもアスティが勝手に言ってるだけで、つまりはごっこ遊びである。
端的に言って恥ずかしい。
超恥ずかしい。
頼むから村のなかでギルド『獅子の軌跡』とか大声で言うのはやめてほしい。アスティの命名ならまだいいが、実はそれ、5歳の頃に俺が考えたギルド名だから、恥ずかしさも100倍なのだ。
「……あー、わかった。とりあえず仕事上がりにジル爺さんのとこにいってみよう。午後にはウチの親父が門番の交代にくるからさ。あとなんつーか、その恥ずかしいギルド名はさすがに――」
「だめだめ! ジルお爺ちゃんは今困ってるの! 一流ギルドは依頼を特急で解決するものだって、レオも言ってたでしょ?」
「いやそれ5歳の時の発言な……?」
「もう、なんのために朝一番でお昼ごはんを持ってきたと思ってるの!」
「それは本当に意味が分からないんだが……」
「先にお昼ごはんを食べておけば、丸一日依頼のために使えるでしょ?」
「暴論! 休憩与えない気満々のすげえ暴論……っ」
「いいから行くよ! れっつごー!」
「ちょ……っ」
俺の腕を取り、アスティは勝手に走りだす。結局、村のなかへと連れ込まれてしまった。門番としては完全に職務放棄なんだが、すれ違う村のみんなは微笑ましい空気で「あらあら、今日も仲が良いねえ」とか「はっはっ、また尻に敷かれてんなぁ、レオ」と笑っているから始末が悪い。
そうこうしているうちにジル爺さんの畑に着いた。
腰の曲がった爺さんが桶と柄杓で水を撒いている。しかし畑の地面はカラカラに乾いていた。確かに不可思議な状態である。一昨日、雨が降ったはずなのに、嘘のような土の悪さだ。
「ジルお爺ちゃーん! 来たよーっ」
「……ほお? おお、アスティちゃん。レオも本当に来てくれたのかい」
アスティが元気よく声を掛けると、ジル爺さんは柄杓を置いてこっちを向いた。
「朝一番で駆けつけてくれるなんて、さすが村一番のギルドじゃのう」
「でっしょー! お任せあれ!」
「じゃあ、お願いしようかのう。頼んだよ、『獅子の軌跡』」
「……恥ずい。ああ、ちくしょう、本当に恥ずい……」
子供の頃に村中で言ってまわっていたので、年寄りの爺さんにまでギルド名が浸透してしまっている。羞恥心に心をやられ、俺は思いきり頭を抱えた。
しかしまあ、この畑の状態を見ると、困っているのは確かなようだ。ギルドだとか依頼だとかのは置いておくとして、同じ村の仲間として放っておくことはできない。
「ジル爺さん、いつかこの状態なんだ?」
「昨日辺りからかのう。一昨日に雨が降って潤ったと思ってたんじゃが、次の朝にはこの有様でなぁ……」
「原因みたいなのは?」
「とんと想像がつかん。何十年も畑と向き合っとるが、こんなことは初めてじゃ」
「なるほど……」
俺はあごに手を当てて思案する。基本的に村人同士は助け合って生きているから、ジル爺さんのところに限らず、俺も色んな畑の手伝いはしてきている。
だからジル爺さんの戸惑いはよくわかった。雨上がりの畑が一日でこんなに干上がってしまうなんてこと、普通はありえない。そうして思案していると、アスティがニッコニコで近づいてきた。
「ふふふ、どうかね、レオ君? これぞ我がギルドに相応しいS級依頼でしょ? 早急に動いたギルド長のあたしを褒めていいよー?」
「むう。ま、S級依頼とかギルド長とかはともかく……」
「レオの出番! って感じでしょ?」
ブロンドの髪をふわりと揺らし、アスティが得意げに微笑む。
「さあ、100兆個のスキルが火を噴く時だよ!」
スキルというのは魂に宿った天賦の才能のことだ。この世界には何千人だか何万人だかに一人、女神の祝福を受けてスキルに覚醒する者がいる。
その覚醒者たちはスキルを存分に使い、王都で出世したり、歴史に名を残したりする……らしい。らしいというのは、こんな田舎にはスキル持ちの覚醒者なんていた試しがないからだ。
ただ、それも過去のこと。つい先日、俺は馬車から落ちそうになったアスティを助けようとし、逆に自分が落ちて死にかけた。
数日、生死の境をさまよったんだが、その際、夢に謎の女神が出てきて、スキルを授かった。
それも――100兆個。
普通、どんな覚醒者でもスキルは一人に一つである。それだけで出世したり、歴史に名を残したりできる代物だ。なのに100兆個。もうワケがわからない。
正直、俺はミカミ村でのんびり暮らしたいだけなのでスキルなんていらないし、100兆個なんてさらに不要だ。
が、これにテンション上がりまくったのがアスティである。
最初は自分のせいで俺が死にかけたと毎日泣いて謝っていた。しかし俺がスキルで全回復したり、ちょこっと超人的な動きを見せたら、だんだん元気になってくれて――やがて『レオのスキルがあったら本当にギルド出来るよね!』と目を輝かせるようになった。
その果てがギルド『獅子の軌跡』である。
まあ、俺としてはアスティが喜んでくれるならそれでいいし、スキルが村人たちの役に立つなら悪い気もしない。……ギルドごっこは恥ずかしいけどな!
「……とはいえ、枯れた畑を復活させるって、どのスキルを使えばいいんだ?」
100兆個もあるので、一つ一つを把握なんてしていない。だからまずはスキルを吟味するところからだ。
「だいじょーぶっ。そのためにギルド長のあたしがいるんだから! ほらステータス出して出して!」
「へいへい。りょーかい、ギルド長」
アスティに言われるまま、目の前で手を横に振る。
すると俺の胸辺りに光の文字や数字が現れた。
――――――――――――――――――――
◇レオ
HP:21000
MP:18000
敏捷:19000
攻撃:22500
防御:18400
〇所持スキル
・肉体強化
・
・ウォーター・シャワー
・高速移動
・
・爪カッター
・魅了状態付与
・自動回避
・魔力の2乗化
・魔力100倍
・
・
・
・
――――――――――――――――――――
これはステータスといって、スキルの付与能力だ。
表示された数値や文字で自分の状態を確認することができる。
ちなみに今表示されているのはステータスの1ページ目で、これ以降、スキルの羅列されたページが延々と続いている。100兆個あるから日が暮れても見きれないほどだ。
あと俺はHPやMPなんかの数値もやたらと高い。最初の頃によく分からないまま『肉体強化』や『魔力増強』のスキルを使ったせいで、ぐんぐん上がってしまったんだが……噂によると、この数値は王都の聖騎士より高いらしい。ちょっと怖いので、これについては考えるのをやめた。俺は村で平和に暮らしたいんだ。
「うーみゅ……」
アスティが思案顔でステータスを覗き込んでくる。
ギルドごっこが好きなだけあって、俺の幼馴染はスキルにも詳しい。だからこういう時、最適なスキルを選ぶのはいつもアスティの役目だ。それはまあいいんだが……。
「……アスティ、近い」
「ほえ?」
夢中になって覗き込んでくるので、腕の辺りが密着していた。ブロンドの髪からは何やら良い匂いもしてくる。端的に言って、落ち着かない気分になってしまう。
「別にいいでしょ? 幼馴染なんだし」
「幼馴染でも年頃の男女だろーが」
「えー、レオ、めんどくさーい」
「面倒くさくても節度は守たまえ。俺、村を守る門番だぞ?」
「仕事のない門番でしょ?」
「おおい!? それを言ったらおしまいでしょーが!?」
「も~っ、レオがエッチな気分にならなきゃいいだけでしょ?」
「エッ……!?」
「幼馴染だからちゃーんと分かってるんだよ? あたしのおっぱいが当たりそうでドキドキしてるんでしょ? レオ、やらしー」
「ち、違うつーの! ばっ、おま……ば、馬鹿ですか!?」
「馬鹿っていう方がお馬鹿なんですー。レオのえっちー!」
ニヤニヤ顔でからかってくる、アスティ。
ちげーし! マジでちげーし!
確かにアスティは体の一部が大変豊かだ。
たまに、本当にたまに目がいってしまうこともないではない。
だが断じて違うのだ。
無防備に近づかれて俺が動揺してしまうのは、純粋に――。
「俺がアスティのこと好――あっ」
「ふえっ!?」
勢いでとんでもないことを口走ってしまいそうになった。
刹那で口をつぐんだが、アスティの頬は木苺のように赤く染まっている。
「い、いいい、いきなり何言ってるのよぅ!?」
「い、言ってない! まだ言ってない!」
「まだとかも言っちゃダメでしょー!?」
「あっ、確かに!? いやだからっ、ええと、その……っ」
「時と場合とタイミングを考えなさい! あたし、別にレオの気持ちなんて子供の頃から知ってるし!」
「ええっ!? 知ってんの!?」
目が飛び出るほど驚いた。
っていうか、100兆個のスキルをもらった時より驚いた。
「当たり前でしょー! いっつもそばにいてくれるし、あたしのやりたいことなんでも付き合ってくれるし、時々ふっと優しい目で見てくるし、レオ、分かりやす過ぎだから! っていうか、あたしもレオじゃなかったら安心しておっぱい当たりそうなほど近づいたりしないし!」
「お、おおう……」
動揺し過ぎて上手く口が回らない。
え、待て。
待ってくれ。
ってことは、ひょっとしてアスティも俺のこと……?
「あの……ええと、ってことはだな。もしかして……」
「でも時と場合とタイミングを考えてくれなきゃヤダ」
「じゃあ、時と場合とタイミングを考えたら……?」
「それは……」
アスティはもじもじしながら、さらにかぁーっと頬を赤らめる。
「……し、知らないっ」
ぷいっとそっぽを向かれた。
こ、こやつ、可愛すぎか?
もう心臓が胸から飛び出しそうだ。
しかし俺も男だ。
ここが勝負所なのは本能でわかる。
「アスティ」
「ん……」
表情を引き締めて向き合う。
するとアスティもおずおずとこっちを向いてくれた。
長い間、一緒に育ってきた幼馴染。
宝石のような蒼い瞳を見つめる。
そして俺は――。
「ゴホン。あー、すまんのう。それで儂の畑は……?」
「「はっ!?」」
ジル爺さんが気まずそうに言い、俺たちは我に返った。
「そ、そうだっ。畑、畑な! アスティ、どのスキル使えばいい!?」
「えとえとっ、えーと……あ、これいいかも! 『ウォーター・シャワー』!」
「よし、きた!」
俺はステータスを一旦閉じ、手のひらをかざす。
「ウォーター・シャワー!」
途端、無数の光が舞い、俺の手のひらから間欠泉のような水流が噴き出した。雨のように降り注ぎ、畑の上に小さな虹が生まれる。
そうして数分、水を撒いてみた。
しかし……。
「あれれ? どんどん土が乾いていっちゃう……」
しゃがみ込んで土を見つつ、アスティが目を丸くした。
その言葉通り、俺がスキルで潤した土は見る間に乾燥していく。
これには俺も驚いた。畑がこんな調子ではジル爺さんも仕事ができない。さすがに甘い空気は霧散し、2人で真剣に考え始める。
「水をやってもダメってことは……この土地自体に何か問題があるのか?」
「そうかも。レオ、もっかいステータス出して」
「了解」
「んー……これがいいかな? スキル『復元結界』。たぶん結界を作って、そのなかを復元する感じだと思うけど、合ってる?」
「ちょい待ち」
俺はステータスの『復元結界』の文字に触れる。するとスキルの内容が頭のなかに流れ込んできた。ステータスにはこういう使い方もあるのだ。
「アスティの言う通り、俺の半径5メルトルに結界を張って、自動修復するスキルみたいだな」
「おっけー、じゃあそれいってみよー!」
「了解」
ちなみにメルトルというのはこの地方の単位で、だいたい成人の歩幅で一歩分が1メルトルである。俺は土の上に手を置き、スキルを発動。
「復元結界!」
俺の手のひらを中心に光の帯が出現。5メルトルの範囲に光が折り重なって広がっていく。アスティは念のため範囲外にいるので対象外だ。結界のなかに光が溢れ、土が見る見る潤いを取り戻していく。
「お? いけるか……?」
スキルを解き、状態を観察する。しかし光が消え、『復元結界』が消失すると、また土が干からび始めた。
おいおい、これも駄目なのか?
こうなると本当に意味がわからない。どうしてこんなに土が枯れてしまうんだ? 俺が眉を寄せていると、ふいに畑の外からアスティが声を上げた。
「レオー! 『
アスティが言ったのは、時間固定のスキルだ。以前、いくつかスキルの実験をした時に使ったことがある。理由はとくに考えず、アスティが言うならと俺はすぐに手のひらをかざした。
「
光が広がり、花のような形になって弾ける。畑一帯が輝きに満ち、そのまま微動だにしなくなった。畑のなかの時間が固定されたのだ。
「アスティ、なんで
「んー、これで原因がわかるかも……って思って」
「というと?」
離れた位置から畑を観察しつつ、アスティは応える。
「『復元結界』で畑は一度元気になった。でもすぐにまた枯れそうになってたでしょ?」
「ああ、それで時間固定を掛けたから、まだ多少潤いはある状態になってるな」
だが『
つまり現状、畑のなかの時間は止まっているが、石ころの一つも投げ入れると、また時間が流れて枯れてしまう。
「もしこれで時間固定が解けたら、それは何か外部からの刺激があるってことじゃない?」
「……あっ、なるほどな」
それは盲点だった。こんなふうに畑が見る見る枯れてしまうなんてことは普通はない。どこかに特殊な原因があるはずだ。土地に変な魔力が流れているのか、妖精の類のイタズラか、まさか魔獣の仕業なんてことはないだろうが……とにかく超常的な何かに違いない。
可能性は色々あるが、もしこれで
「アスティ、頭いいなぁ」
「えっへん、ギルド長ですから!」
可愛らしく胸を張ってみせる、アスティ。
くそう、マジで可愛いな。早くさっきの話の続きがしたいぞ。
スキルを維持しつつ、そんなことを思っていたら突然――パキンッと音が響いた。
時間停止が解けた音だ。俺のスキルの光が消え失せ、時間停止も解除されて、再び畑が枯れていく。しかしどこをどう見ても外部からの刺激なんてあるようには見えない。石ころなんて投げていないし、空から鳥が下りてきてもいない。
「なんだ? 一体、どこから畑に刺激がきたんだ……!?」
まさかの事態に俺は戸惑う。
一方、アスティは真剣な表情で思考を巡らせていた。
「
ハッした表情でアスティが何かを言おうとする。
その瞬間だった。
突然、地面が揺れ始めた。ジル爺さんは立っていられず、アスティも堪らずによろける。俺だけは立っていられたが、それでも動揺は隠せない。
「じ、地震!? なんで今!? これ、偶然なのか……!?」
「違う! レオ、気をつけて!」
地面に膝をつけたまま、アスティが叫ぶ。
「地面の下に――
直後、畑の地面が爆発的に隆起した。キャベツの葉が無数に散り、巨大な何かが現れる。
ミミズのように細長い体。
しかし体躯は10メルトル以上ある。
顔の部分には巨大な口があり、細かな無数の牙が生えていた。
「サンドワームだと!?」
俺は両目を見開いて驚愕する。
サンドワームは主に地中を根城にする魔獣だ。大型のものは討伐難易度がA級にも相当し、それこそ王都のギルドでないと倒せないような強力な魔獣である。
――ピギィィィィィィィィッ!
サンドワームが耳障りな鳴き声を上げた。全身を獰猛に震わせると、奈落の底のような口を開き、そして――ジル爺さんへと向かっていく。
「ひぃ……っ!?」
「だめー! お爺ちゃん、逃げて!」
とっさにアスティが動いた。
足元に転がっていたキャベツを投げつけ、ジル爺さんを守ろうとする。
だがそれがいけなかった。
――ピギィィィィィィィィッ!
怒りの声を上げ、サンドワームが轟音と共に方向転換した。暗黒の口と牙がアスティへと迫る。
「あ……」
こぼれたのは、呆けたような声。
ジル爺さんを助けたら今度は自分が狙われる、なんてアスティは考えてもいなかったのだろう。目の前でジル爺さんがピンチだったから、とっさに動いてしまったのだ。
アスティはスキルを持っていない。
A級の魔獣に対抗する術などない。
一瞬後にはサンドワームの腹の中に飲み込まれてしまうだろう。
だが――俺がいる。
「
俺の手のひらから巨大な炎弾が放たれた。サンドワームに直撃し、閃光と共に大爆発が巻き起こる。ピギィッとサンドワームが悲鳴を上げ、その間に俺は飛行スキルの『ウィンド・ベル』で飛翔。
サンドワームの巨体が倒れていくなか、ちょうど真下にいたアスティを抱き上げて空へと駆け上る。
「レオ……!?」
「大丈夫か、お姫様?」
「ちょー怖かったー! 助けてくれてありがとー!」
アスティが半泣きでしがみついてくる。
おおう!? なんかすげえ柔らかいものが胸に当たってるんだけど!
しかしそれを言ったら格好付かないので、畑の上空を旋回しながらぽんぽんと頭を撫でてやる。
「よくあの状況でジル爺さんを助けたな。偉かったぞ」
「だってー、お爺ちゃんが食べられちゃったらやだもん! だからあたし、頑張った!」
「うんうん、よく頑張った」
正直、俺もとっさにスキルを撃とうとしていた。こっちも十分にジル爺さんを助けられるタイミングだったが、それは言わぬが花というやつだろう。アスティが頑張ったのは事実だからな。
俺たちが見下ろす先、ジル爺さんは腰を抜かしているが怪我はない。一方でサンドワームはピクピクと体を震わせ、まだ起き上がろうとしていた。
「あいつが土のなかから畑の養分を吸い取ってたってわけか」
「だね。あんな魔獣がこの辺に出るなんて思わなかった」
「10年に一度は魔獣が出る……ウチの親父が言ってたことは正しかったわけだ」
「でも……どうしよう? 王都のギルドにやっつけてもらうような時間もお金もないよ?」
「おいおい、俺を誰だと思ってるんだ?」
めいっぱい格好つけて笑い、スキルを操作して勢いよく急降下。アスティをお姫様だっこしたまま、流星のようにサンドワームへ突っ込んでいく。
「俺はこのミカミ村の門番だぜ!?」
「ひゃあ!? 落ちる落ちるー!? ってか、そこは『獅子の軌跡』のエースって言ってほしいんだけどぉ!?」
――ピギャァァァァァァァ!
サンドワームが殺気立ち、正面から突撃してきた。
アスティは大慌てで目を見開く。
「ぶ、ぶつかっちゃうー!?」
「大丈夫さ。
俺の手からスキルの光が放たれ、サンドワームが氷漬けにされたようにビタァッと急停止。その隙に俺はサンドワームの下へと滑り込む。
そして手のひらを掲げ、さらにスキルを放つ。
「ウォーター・シャワー!」
濁流がサンドワームの腹を突き上げた。間欠泉をモロに喰らったような形になり、サンドワームがビギャッと悲鳴を上げる。
「え? え? レオ、なんでこんなに戦えるの!?」
「そりゃ門番だからな。スキルを戦闘で使う訓練はこっそり色々やってたんだよ」
「ええっ、ギルド長になんの報告もなーい!」
「まあ、秘密の特訓だしな。よっと!」
衝撃波のスキル『ムーンブロウ』を連射。サンドワームの巨体をさらに上空へ押し上げていく。でかいミミズが空へと押し上げられていく光景はなかなかレアだ。
「レオ、ど、どうする気なの!?」
「あいつは俺たちの村を荒らして、その上、アスティやジル爺さんを襲おうとした。門番としてきっちり仕事をさせてもらう」
空に捧げられたような頭上のサンドワームを睨み、俺は右手に力を込める。
「スキル融合! 『
スキルの光が迸り、ゴオオオオッと烈風が巻き起こる。もはや太陽よりも俺の光の方がまばゆいぐらいだ。
そんな光景を見て、アスティがあたふたと慌て始める。
「え、ちょ、ちょっと……なんかすごい事が起きそうな雰囲気になってるんだけども!? なにこれ!? どういうこと!?」
俺はアスティのように一つ一つのスキルに関する知見はない。だから強そうなスキルをとにかく混ぜ合わせて敵にぶち込む。それが門番として編み出した、俺の戦い方だ。
右手が黄金色に輝き始める。
混ぜ合わせたスキルに名前はない。
よってそれっぽいことを言って、力を放つ。
「喰らえ! すげえ強いビーーーームッ!」
「えええっ!? すっごい適当―っ!!」
黄金の手のひらを中心に直径100メルトルに及ぶ魔法陣が出現。そこから巨大な光の塊が迸った。風が吹き荒れ、空は焼かれ、巨人の大剣のようなビームが雲を吹き飛ばしていく。
「待って待って! なにこれぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
風に煽られる髪を押さえながらアスティが絶叫。
一方、サンドワームはというと、
――ピ、ピ、ピギャァァァァァァァッ!?
極大のビームに飲み込まれ、あっと言う間に消し飛んだ。時間にすれば、ほんの10秒未満のことだった。ビームは消え、魔法陣は消失し、俺の腕も黄金ではなくなり、ミカミ村の空は静けさを取り戻す。
アスティを抱いたまま浮遊し、俺は「よし」とうなづいた。
「魔獣をやっつけた。これで一件落着だな!」
「一件落着じゃない! なになに!? すっごく適当ですっごく強い、今のビームはなんなの!? あんなの王都の聖騎士や騎士団でも出来ないはずなんだけどーっ!?」
混乱しまくりで叫ぶ、アスティ。
その声は村中に響き渡っていたという。
◇ ◆ ◆ ◇
「本当にまったくもう! ギルド長に黙ってあーんな必殺技を開発してるなんて」
「いやまぁ、その件はもういいだろ? おかげで魔獣も倒せたんだし」
サンドワームの一件が無事に解決し、時刻は昼過ぎ。
ジル爺さんの畑は『復元結界』で元に戻し、お礼にキャベツをいくつももらった。
それでサンドウィッチを作ったので、アスティはぷんすかしながら食べている。俺も朝にパンを口に詰め込まれたが、めいっぱい戦って腹が減ったので、一緒に摘まんでいる最中だ。
俺たちが今いるのは、ウチの近くの野原。
ベンチ代わりの丸太に並んで座っている。
ちなみに門番の仕事は親父と交代したので、今、俺は休憩中だ。
しかしギルド長のお怒りは収まらない。
「ぜんぜん良くないし! だって必殺技だよ? 必殺技! その必殺技の名前、あたしが考えたいじゃない!」
「え、そこ?」
「そう、そこ!」
そこなのかー。
相変わらず、ウチの幼馴染の感覚は分からない。
「本当にもう、ただでさえ100兆個もスキルがあるのに、さらに融合した必殺技なんてあったらページが足りないじゃない」
「はい? ページ?」
なんのことだ? と思っていたら、アスティはサンドウィッチを入れていたバスケットをごそごそと漁り、なかから羊皮紙の冊子のようなものを取り出した。
「じゃーん! レオの100兆個スキル辞典!」
「じてん……?」
「そ! あたしたちのギルドってこの先、王都で伝説になるでしょ? その時、レオのスキルを世に知らしめるために100兆個全部を確認して、ここに書いていくの!」
ドヤ顔で言われ、目が点になった。
「い、いやいや無理だろ……100兆個のスキルなんて扱いきれねえよ!?」
「ダメです。やるのです」
「拒否権なし!?」
「当たり前でしょー? アスティちゃんはギルド長なんだから。ギルド長の命令はぜったいで、レオに拒否権なんてないのです!」
お、おお……当たり前のように言い切りおった。ここまではっきり言われると、逆に逆らえない気がしてくる。やれやれ、と思いながら俺はサンドウィッチを口に運ぶ。すると、
「というわけなので……」
ふわりとブロンドの髪が舞い、突然、アスティがころんと肩に寄りかかってきた。
「……これからも可愛い恋人のアスティちゃんを守ってね。拒否権なんてないからね?」
「ふぁっ!?」
思わずサンドウィッチを落としてしまった。下は芝生なのでセーフなはずだ。うん、大丈夫だ。ぜんぜん食べれる。いやそうじゃない! 落ち着け、俺!
「ちょ、え、こ……恋人? ギルド長とか幼馴染じゃなくて!?」
動揺しまくっている。
俺は今、めちゃくちゃ動揺しまくっている。
一方、アスティは頬を赤らめてぽつりと囁く。
「拒否権は……ないと言いました」
「――っ」
考えてみれば、ジル爺さんの畑で俺は告白寸前だった。それに対するアスティの答えがこれなのだろう。
どうにも照れくさくて、俺は芝生の上のサンドウィッチを拾って、バスケットの蓋の上に置いた。そして明後日の方を向きながら、ぼそっと言う。
「子供の頃から……ずっと好きだった」
「……知ってるし」
「たぶんアスティも俺のこと……好きだろうなって思ってた」
「……知っての通りだし」
「マジか」
「マジだし」
チラッと見る。目が合った。その途端、アスティはかぁーっと頬を赤らめてうつむく。おい、可愛いなおい。まあ、そういう俺もめちゃくちゃ顔が熱いんだが。
「じゃあ、その……今日から恋人同士ということで」
「ん」
小さなうなづきが返ってきた。
2人のそばをそよ風が吹き抜けていく。
なんだかすごく気恥ずかしい空気だ。
でも嫌ではない。ひどく落ち着かないが、むしろずっとこの空気のなかにいたいとすら思ってしまう。
それに気持ちが溢れそうだった。
もっと気持ちを伝えたい。
だって子供の頃からずっと好きだったんだ。
たった一言言っただけじゃぜんぜん足りない。
「あのさ、アスティ」
「レオ」
俺が口を開くと、被せるようにアスティが言った。
「あたしに魅了のスキル掛けたでしょ?」
「へ? いやそんなの掛けてないぞ。スキルの光もなんも出てないだろ?」
「ううん、掛けた。ぜったい掛けた。掛けたってことにする」
「はい? 掛けたってことにする……?」
「そう。だからあたしが今からすることはスキルのせいなの。――レオ!」
突然、アスティががばっと体を起こした。
そして、
「――だーい好き♡」
頬にチュッとキスされた。
「なあっ!?」
天地がひっくり返るほど驚いた。だが同時に気づく。アスティも同じ気持ちなのだと。まだまだ伝え足りない。もっともっと伝えたい。そんな気持ちが溢れそうになっているのだ。
「あー、レオ、照れてるー!」
「そりゃ照れるだろうよ! ってか、アスティだって顔真っ赤だからな!?」
「あたしはスキルのせいだもーんっ」
「だから使ってないっての!」
「使ってますー。だからもっかいキスしちゃう!」
「ちょ!? ま、待ってって!」
「待っていいの?」
「待たなくていいけども!」
「くくく、可愛い奴めー!」
アスティが心底楽しそうに抱き着いてくる。
わちゃわちゃする俺たちを柔らかな陽射しが照らしていた。
なんだかんだで今日もミカミ村は平和である――。
謎の女神から100兆個のスキルをもらったんだが、正直扱いきれねえよ!~金髪碧眼の幼馴染と辺境でギルドを作って、最強スローライフ~ 永菜葉一 @titoku
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