第31話

 試合は柳井の活躍もあってうちの学校が勝った。言っても119対112だから快勝って感じじゃないみたいだけど。


「勝った勝った! 良かったぁ~。ね? カオルくんすごく活躍していたでしょ?」


「ね、じゃないよ。活躍って言うなら3年の先輩のほうがすごかったじゃん。ダンクシュートをバチーンって決めたりして」


「そんなのあった? 知らない」


「はいはい」


 柳井が活躍して試合にも勝ったから千春の機嫌がよろしい。負けていたらどうなってしまうのだろうか?


「ゆっくん。午後からも試合あるんだけど、ゆっくんも見ていくの?」


「どうなの? 千春サン」


「見るに決まっているでしょー」


「だってさ」


「じゃぁ、ゆっくんたちはお昼とかどうするの?」


「ああ、こいつが弁当作ってきたからそれを食うよ」


「なら、私たちと一緒に食べない?」




 柳井と優希、俺と千春でテーブルを囲む。


 あれだけ運動して走り回って汗をかいたはずなのに、このイケメンからは汗臭さが臭ってこない。それどころか甘い香りまでするくらい。やべーなイケメン。

 俺も流石に昨日のにんにくが臭うといけないので、去年の誕プレで紗衣から貰った爽やか柑橘系のコロンを体中に振りまいておいたので大丈夫なはず。


「「「「いただきます」」」」


 優希も弁当を作ってきたみたいなので、一斉にお披露目して、なんなら交換までしてお昼ごはんにする。


「優希が料理するってだけで驚きだけどな」

「ゆっくん、それはひどすぎじゃない?」


「だって俺の中で優希と料理が結びつかないんだぜ?」

「確かに、確かに間違ってはいないけど、私だって頑張っているんだからね⁉」


 お弁当のテイはなんとか保っているけれど、千春の弁当と比べるとやっぱり見劣りするんだよね。まあ、優希なんでしょうがないんだけど。


「そう言っていますが、どうなんでしょう旦那さん?」


「僕に聞いているのかい? そうだな。最初こそおっかなびっくりだったけど、最近では様になってきているよ。ね、優希さん」


「ほら、薫くんだってそう言っているでしょ? 私だってやればできるんですからね」


 優希の作った卵焼きをいただいたけれど、たしかにちゃんと食べられるものだったし、何も聞かなければ美味しい部類のものだったので努力は実っているみたいだ。

 ただ、普段から千春の料理を口にしていると、その差は歴然で、俺はやっぱり胃袋掴まれているんだな、と再確認したりする。


「チハルちゃんは料理が得意なんだね。これなんてすごく美味しいよ」

「ほんと? カオルくんに褒められちゃうとまた張り切っちゃうよ~」


 千春は有頂天になって柳井にどの料理がどんな感じで、どんな工夫をしたとか一生懸命説明している。柳井の方も頷きながら耳を傾けるのでなんともこっちのほうが夫婦なんじゃないかと勘違いしそう。


 昼食は、俺は優希と千春は柳井と話を盛り上げながら進んでいった。


「次試合何時から?」

「えっと2時からだったかな」


「じゃあ俺、昼寝してくるよ」

「え? なんで」


「なんでじゃないよ。お前が遅くまで寝かしてくれないし、早くから起こしてくるからだろ? もう俺は眠いんだよ」


 お腹がくちくなったら一気に眠くなってきた。

 柳井はチームに合流しちゃったし、優希もチムメンの奥様連中とご歓談だって言うし暫くここを離れても問題ないだろう。


「それなら体育館倉庫の中に体操マットが積んであるからそこで寝る?」

「そんな所あるのか?」

「うん。ここの市民体育館は何度か応援に来たことあるから知ってるんだぁー」




「はいどうぞ」

「何が?」


「ほれ、膝枕だよ。美少女の膝枕をどうぞ」

「自分で美少女言うな。つっかそんなのいいよ」


 流石に疑似夫婦といえそれは無理でしょ?


「遠慮しなくていいよ。それともウチの膝枕じゃ不満だとでも言うのかな?」

「ソンナコトナイデス……。では遠慮なく……」


 本当は遠慮も何も無いんだけど、もう眠くて言い争っている元気がもう空っぽだっただけで……すやぁ~。


「ふふふ。寝顔は可愛いんだね。今日はありがとう」






 寝不足だったのは俺だけじゃないわけで、千春いつの間にか寝てしまい目を覚ましたのは全試合終了後だったのでした……。


 因みに柳井だけど、午後の試合も勝ったようです。

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