第25話
今年の梅雨はあまり雨がふらないらしい。ただ水源地の方はそれなりに降っているようなのでこの夏は水不足とは無縁らしいが……。
結婚シミュレーションが始まって早くも2週間が過ぎた。
誰も彼もが結婚生活という初めてのことに右往左往していたのが、やっと少し落ち着いてきたというところ。
ただ他のクラスのことだが、既に
うちのマンションでも『実家に帰らせていただきます』とか言うセリフを吐いて出ていった子がいるとかいないとか。
千春がエントランスホールで行われる”井戸端会議”で拾ってきた情報なので確実ではないんだけどね。
それにいつの間にかこのマンションを住戸にする生徒で作るLIMEグループが出来上がっていた。
「初日にはもうできていたけどー?」
「俺知らないし」
「だって結月を招待してもどうせ見ないし書き込みもしないでしょ? その分ウチがちゃんとやっているから大丈夫だよ」
お世話かけます……。
今日の夕飯も美味かった。洗い物も終わり、ソファーでダラダラしながらテレビの音楽番組を見ていた。
俺はあまりテレビを見ない方なので、千春が見ているのを横で見るともなしに眺めていることが多い。
あ、そうだ。
「あのさ、今度の土曜日。学校が終わったらちょっとでかけてくる。もしかしたら遅くなるかもだからその日は夕飯作らなくていいぞ」
「どこに行くのよ?」
「ああ、うん。ちょっと誘われたから付き合い、みたいなもんかな?」
「誰に誘われたの?」
「バイト先のゆっことえれな」
「はぁん? 専門学生の美人ツートップじゃない⁉ しかもゆっこってアンタに告白してきた女じゃない?」
美人ツートップってなんさ?
いや、間違いなくこの二人は美人さんだけど。
なにげにうちのバイト先の従業員は見た目麗しい女性が多い。
これはマスターの趣味、ではなく採用担当の奏ママさんの趣味みたいだよ。可愛い女の子を採用して、可愛い制服を着せて、可愛いお店で働いてもらう。
至福の喜びなのだとか。そこに俺なんか入れていいのかと何度も聞いたけど、俺はいいんだって。理由は教えてくれないけど、まあ赤ん坊の頃からの付き合いだしね。息子みたいに思ってくれているのかも。
「告白って言ってもこの前言った通り冗談だって。それに今回はえれなもいるしな」
「両手に華かい? いいゴミ分だね」
ご身分って言わなかったよね? ゴミって言ってない?
「一応その二人が一番俺と年齢近いし、最近シフトも被っていないから遊ぼうよって誘われただけだよ」
「どこ行くの?」
「よくわかんないけど、ボーリングとカラオケ。あとはうちの店じゃないカフェに行ったり、ショッピングモールみたいなとこ行ったり? ちゃんと聞いてないからわかんないけど。どうして?」
「あのさー、いっかいはっきりしたいんだけど、そのゆっこって子に告白される前って、アンタなにかやっていない?」
なにかやる? 何をやるのさ?
「例えば、その子がちょっとしたトラブルに巻き込まれたとか」
トラブル? そんなものあったかな………。
「あっ、トラブルっていうほどじゃないかもだけど、店の客にちょっとつきまとわれたのあったかな?」
「詳しく話しなさい」
「めんどくさ」
「なんだって?」
「なんでもないですよ。えっとね、あれは――」
ゆっこがうちの店にバイトに入ったのがたしか10月の初め頃。それまでバイトしていた人の就職活動が終わって内定先からの呼び出しやら何やらが忙しくてバイトを辞めていった代わりに入ってきたんだった。その頃はまだゆっこは高校生だったな。
それで、教育係の一人として俺が奏ママに指名されて仕事を教えていた。まあソレはよくあることなのでそれほどのイベントじゃない。
で、彼女がバイトを初めて一月ちょっと過ぎた頃、一人の男性客によく話しかけられるようになっていた。
そいつはゆっこのこと気に入っていたみたいで、客と店員との関係以上に傍からは見えていた。まあ、そいつも表面上悪い男には見えなかったし、ゆっこも楽しそうに話していたので俺も気にしていなかった。
でも、そんなのは最初だけだった。
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