第12話
「結月は夕飯、何食べるの?」
「ん~今日は味噌ラーメンにしようかな」
「家の近くに美味しい中華屋さんでもあるの?」
「ん。お湯を入れて3分待つと出来上がる高級料理屋がある」
「それカップ麺じゃん」
そうとも言う。
「まさかと思うけど、毎日それ食べているんじゃないでしょうね⁉」
「まさか! 昨日は塩だったし、一昨日はとんこつだったぞ。毎日味噌味じゃ飽きる」
「そういうことじゃなくって! もういいわ。結月はちょっとうちに寄っていきなさい」
なんでカップ麺食っているとお前んち寄らなきゃならんのだね。つっか嫌だよ。急に他人の家になんて上がれないって。
「別に気にしなくたって、両親はいないわよ。中学生の弟はいるだろうけど、どうせ自分の部屋から出てこないから大丈夫よ」
「そういうことじゃないんだけど……。ともかく、何しに寄らなきゃならないんだよ?」
「ご飯食べさすのよ」
「誰に?」
「アンタによ」
「誰が?」
「ウチが美味しいご飯を作ってアンタに食べさせてあげるって言っているのよ」
「……へ?」
千春が飯を作るって? 何かの聞き間違いだろうか。
「何よ? ウチが料理するのなんか信じられないみたいな顔しているけど」
「おっと。俺ってば素直なんで顔に心象が出ちまうんだな」
「ムカつくんですけどー‼ ウチだって料理ぐらいはできるんですけどー‼ 結構美味しいって評判なんですけどー⁉」
あまりにもイメージになさすぎて驚いた。けど、興味がないって言ったら嘘になる。
千春のようなギャルが作る料理。ものすごく気になる。
「じゃ、遠慮なくおよばれしよっかな」
「なんだかその言い方もムカつくんだけどー」
女の子の家なんて優希んち以外では初めてなので、若干、じゃっかんだけど緊張する。
「そこ座ってて。テレビでも見る?」
「いや、見なくていいよ。えっと、千春は何を作るんだ? 少しくらいなら手伝えるけど?」
少しぐらいなら俺だって料理はできる。面倒でしたくないからしないだけで、包丁だってそこそこ程度は使える。
「いいよ。アンタは今日お客さんだし、今夜はハンバーグだから大して手間もないからホント座っていて大丈夫だから」
「そ、そっか。わかった」
ハンバーグが大して手間のかからない料理だと⁉ まさかとは思うけど、こいつ料理、実はわかってないんじゃね?
千春は制服の上からエプロンを着けると、玉ねぎをトントントンと軽快にみじん切りにしていく。
ハンバーグの材料なんか俺は知らないけど、いくつかの材料も手際よく下拵えしていっている。
「ねえ、うちのハンバーグって合いびき肉なんだけど大丈夫だよね? 牛肉しか認めないとか反対に豚肉オンリー派とかじゃないわよね」
「平気だよ。俺の食うハンバーグって袋から出してそのまま焼くやつか、電子レンジでチンするやつだから、そもそもなんの肉かもよくわかってないし」
味音痴とは思わないけど、食って材料が何かなんてことまではあまり考えたことがない。俺がわかるのは美味いかそうでないかだけだ。
「おっけー。なら大丈夫だねー。もう少し待っていてねー」
玉ねぎと多分にんにくだろう、を炒めている。さっき包丁でみじん切りしていたかと思ったらもう次の工程に移っている。なにげに手際が良い。
玉ねぎは粗熱を取るのにバットに取り出すそうだ。
「ねぇ」
「なんだ」
「いま暇?」
「暇以外無いけど」
流石に人が飯を作ってくれている最中にスマホゲームなんてできない。俺もそこまで常識がないわけじゃないからな。
「じゃ、さぁ。この玉ねぎをそこのウチワで扇いで冷ましてくんない?」
「いいぞ。これか?」
パタパタとバットにあけられた玉ねぎを冷ましていくお仕事を与えられた。ぼーっと千春の作業を眺めているよりぜんぜんマシである。
千春は今使っていたフライパンを洗っている。二人して台所に並ぶのは少し変な気分だ。
「なぁ、料理ってよくやるのか?」
「そうだね。うちの親って共働きだし、弟はアンタみたいに何か用意してやんないと、それこそカップ麺とかお菓子とかインスタントなものしか食べないから自然と料理するようになったかな」
「弟は中坊だっけ?」
「そっ、今1年。小学生の時は甘えん坊のお姉ちゃん子だったのに今はムカつくガキンチョだよ」
扉の陰でさっきからこっそり覗き見しているのが件のガキンチョってわけね。
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